第15話 〇〇ににらまれたVライバー
『フードリーフ』
品質:2 レアリティ:1 重量:0
効果:可食部(葉・花・実)を食べることで、満腹度+8%
好物:ラット系
食材アイテム。
葉や花、実はそのままでも食べられる上、加工すれば茎や根も余すところなく食料や調味料として活用できる、万能植物。
ただし、味は他の食材に一歩劣る。
『ワイルドベリー』
品質:2 レアリティ:2 重量:0
効果:食べることで、満腹度+5%
好物:ラット系・ラビット系・スネーク系・ワーム系
食材アイテム。
森林に自生しているベリー。
ほのかに甘みがあるものの、品種改良されていないため、酸味とえぐみが強い。
『スネークベリー』
品質:1 レアリティ:3 重量:0
効果:食べることで、満腹度+5%
好物:ラット系・スネーク系
食材アイテム。
ワイルドベリーの突然変異種。雨が多く降ったあとの森林で、見かけることがある。
ほのかに甘みがあるものの、品種改良されていないため、酸味とえぐみが強い。またわずかだが、アルコールの風味があるため、好き嫌いが分かれやすい。
「んん? スネークベリーの採取条件、ちょっと変わったんですかね? 今までだと、ワイルドベリーの採取ポイントでのレアドロップだったんですけど、この書き方だと、雨の日のあと限定?」
・や。普通にベリー系稀泥枠
・雨の日の後に泥率上がる?まだ未検証
「ふうん、そうなんですか。まあ、ドロップ率うんぬんは、検証班の人たちにお任せしましょう。……それよりも、見てください! フードリーフ三十七個、薬草三十六個に、ワイルドベリー五十五個とスネークベリー十個! 超大量です!!」
青の深林にこもって二時間の成果を、自信満々にリスナーたちに見せる。採取ポイントは他のPLと競合しないとはいえ、周りに人がいなかったからね。集中することができたよ。
たまに出て来る敵モンスターも、開けた場所だから問題なく黒檀丸が活躍してくれた。私のスキルも黒檀丸も鍛えられて、遠征大成功と言えるでしょう。
「さてさて。まだ配信時間は残ってますけど、今日はこのくらいで帰りましょうか。町でクエスト分を納品して、そのお金でギルドの作業場を借りて……」
気分よくリスナーたちと話しながら、さあ帰ろう、と立って背筋を伸ばしていたときだ。
――ぞくり、と、強烈な視線と悪寒が、私の全身を舐めた。
「ヒュッ、」
・愛華ちゃん?
・どうした
ゲームのアバターじゃなければ、今の私の顔は、血の気が引いた脂汗まみれの、ひどい状態になっていただろう。それくらい、今の私は死の危険を感じていた。
ざわつくコメント欄も、怯える黒檀丸にも、構う余裕がない。気配察知スキルに頼る必要がないほどの、圧倒的存在が、すぐ近くにいる。
私はそれの方へ、ゆっくり視線を向けた。
「ぁ……」
青々と生い茂る林の中、とある太い木の上に、視線の主はいた。
そいつは濡れたような光沢をまとう、太く長い身体を、器用に木の幹や枝葉に絡みつかせていた。木陰に隠れていて、詳細な姿は分からない。けれど、女子大学生相当の姿をしている
硬直する私を見下ろすそいつは、二股に別れた細長い舌をちろちろと出し入れしつつ、枝葉の中から頭を出す。
思わず血が通っているのか怪しんでしまうほど、冷たく輝く黄金色の、無感情な瞳。
――巨大な
・スネーク?
・でかい
・なんだあれ
・愛華ちゃん、識別!
・あんなのしらない
「……ダメ。何もしちゃダメ。……黒檀丸も、私が言うまで動かないで」
コメント欄も動揺し、ざわついている。その中には、識別でエネミーデータを確認するよう、指示するものもあった。けれど、私はそれを拒否して、怯える黒檀丸にも待機を命じる。
なぜなら、私の勘が告げているのだ。
――識別した瞬間に死ぬ、と。
「……………………」
・愛華ちゃん?
・ベリー全部をばらまいた?
・なにやってんだそんなことより識別しろ!
リスナーたちの反応を、見ている余裕もない。私は巨大な蛇から目をそらさないまま、ストレージを操作していく。
今日集めたワイルドベリーとスネークベリーの両方を、全て取り出す。その果実たちを、蛇がいる木に目がけて、惜しげなくぶちまけた。
「……」
「……」
一体、どれほどの時間、私たちはにらみ合っていたのだろう。先に動いたのは、大蛇の方だった。
するする、と滑るように木から地上へ降りて来たそいつは、私がばらまいたベリー類に顔を近づける。しばらく固唾を飲んで様子を伺っていれば、やがて蛇は大口を開けて、スネークベリーを食べ始めた。
「今だ! 逃げるよ、黒檀丸!!」
・ちょ、せめて識別!!
・逃げ足はや!?
相手の興味が、完全に私たちから食べ物に移った。
そう確信した瞬間、私は黒檀丸に飛び乗り、全速力で逃げ出した。
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