第14話 青の深林

 金策のために私が選んだ場所は、セイトウの町方面の第一エリア、『青の深林しんりん』だ。等間隔に植樹された針葉樹の林と、足元で草花が繁茂するフィールドで、けっこう進むのに苦労するから、攻略組からは人気がないところらしい。


「でも、食用素材の『フードリーフ』と『ワイルドベリー』が手に入るエリアなので、それらの採取をメインに、ここに潜って行きます」


・薬草もあるし、採取ならここか

・ボスは倒す?


「さすがにフィールドボスに挑めるレベルでは、ないですよ……。今回はあくまで採取とレベリング目的です。私と黒檀丸があと三~四レべくらい上がって、かつ新メンバーをテイムしたら、どこかのボスと戦っても、いいかもしれませんね」


 そんな感じで、フィールドに足を踏み入れたんだけど……いきなり大問題が起きた。


「こ、黒檀丸、大丈夫? 進める?」

「……」


・つっかかりそう


 そう、草木が密集するここは、細身とはいえ馬の黒檀丸が移動するには、窮屈すぎた。ゆっくりと並足で進む分には、ぎりぎり行けるけど、私を乗せることや戦闘は、かなり厳しいと思う。

 黒檀丸が動ける道幅があるかどうか、完全に失念していたよ……。使役者ギルドに戻れば、パーティーメンバーに入れないモンスターを、一時的に無料で預かってもらえるサービスがあるけど、そうなると私が完全ソロになっちゃう。


「仕方ありません。攻略掲示板でちょっと予習したところ、このフィールドには川があって、その近くだと開けていて、敵の出現率が落ちるようです。なので、そこを目指しましょう。採取ポイントも減って、効率は悪くなりますけど……身動きができないところを、袋叩きにされるよりはマシです」


・判断が早い

・これは仕方ない

・減るだけで全く出ないわけではないから、気を抜かないでね


 方針を変えた私は、川を目指して移動する。途中、気配察知スキルのおかげでジャイアント・キャタピラーとかスネークとかを見かけたけど、どうしても避けられないとき以外は戦わずに、進むことを優先した。

 そうやって、こそこそ歩いて、ようやく小川にたどり着いた。


「着きましたー! はあ、やっと一息付けますー」


・おつかれ愛華ちゃん

・川の水増水してね?


「ありがとうございます。いやあ、気配察知がなかったら、危険な場面がいくつかありましたね。……え、川? なんか違うんですか?」


 労ってくれるリスナーにお礼を返していると、妙な指摘コメントが目に入る。何やら川の水量が気になるらしいけど、そもそも『青の深林』に来るのが初めてだから、普段がどうなのかすら、良く分からない。

 首を傾げて、水面を覗いていると、長文コメントが届いた。


・ゲーム内時間の昨日、雨が降っていたことが原因だと考えられます。町を含む0エリアには何の影響もありませんが、白の平野や赤い岩場では地面が湿っているという報告が上がっており、黒い沼地に至っては、地形:悪路という移動デバフがかかっていることが確認されています。青の深林は川の増水で普段より流れが速く、流されて溺死した例がありますので、ご注意ください。@検証班


「わっ! なんかすごいのが……なになに……へぇー、雨が原因! ログアウトしていたから知りませんでした。教えてくれて、ありがとうございます」


 天候によって発生する、フィールドギミックの一種だったらしい。言われてみれば前のシリーズでも、マップを進むと日照りとか雪とかあったね。

 こんな序盤から、そういうのがあるのは意外だけど、どれも分かっていれば対処可能な範囲だ。


「じゃあ、川に近づき過ぎず、林の中に入り過ぎず、こつこつとアイテム集めをしましょうか」



――――



第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト応募記念・夏休みスペシャルウィーク

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