第13話 従魔清潔キット

 今日も今日とて冒証の生配信。でもいつもと違うのは、町中クエストでもフィールド遠征でもなく、お買い物から始まるってところかな。


「うう……このアクセかわいいし強いからほしいのにっ……お金が……!!」


・安定の金欠

・生産スキルを取っても従魔の装備がいるから結局金がなくなるのがテイマー


 ……見ての通り、所持金がかつかつだから、ほぼ冷やかしのウィンドウショッピングになっちゃっている。ちなみにミュート設定でも、PLの露店は利用できるよ。そこまで制限されちゃうのはさすがにね……。

 ま、使えるのは売買コマンドだけだから、店員さんと雑談はできないけど。オーダーメイド依頼とかしたかったら、一度、設定を解除する必要があるっぽい。今のところ、私はそういうことをする予定はないし、買い物ができればいいや。


・そんなにカラスにやられたの根に持ってる?


「そ、そんなことないですよ? 確かに昨日は、今までのノリで無防備に第一エリアに踏み込んだせいで、あっさりやられましたけど! 今の私はきちんと『錬金術』スキルを鍛えてポーションを準備して、『気配察知』のスキルも取って、かつ接近戦対策に『短剣』スキルとナイフも手に入れましたからね! もうカラスなんて怖くありませんから!」


 なんでこんな風に、今さら準備をがっつりやっているかと言えば、昨日の失敗が原因だ。

 称号タイトルの転移効果を試したあと、そろそろ外のエリアを開拓しようかなー? と考え、ろくに準備もせずにセキナンの町の先にある第一エリア『赤い岩場』へと足を延ばしたの。赤茶けた岩がごろごろ転がる、不毛の大地を黒檀丸に乗って移動していたら……無警戒だった空から、カラス型モンスター・ワイルドクロウに奇襲された。

 脳天にくちばしの一撃を受けて――不意打ち成功のクリティカルが発生したこともあり――HPバーを半分以上失った私は、手綱を手放してしまって、そのまま落馬。訳も分からないまま、カラスの追撃を喰らい、セキナンの町へ強制送還死に戻りさせられたという……。


・超早口で草

・フラグ乙


「フラグじゃありませーん! 次は絶対に、あのカラスを返り討ちにしてやりますから!!」


・鳥はテイム対象なのに


「いえ。もう私は絶ッ対にカラスはテイムしません。そう決めました」


 コメントにやいのやいの言い返しながら、私は昨日の失敗を振り払い、露店から離れる。

 ……あのアクセサリー、本当にデザインが好みだったんだけどなぁ。次に来たときにも、あればいいんだけど。


「最後に、使役者ギルドに行きましょうか。そろそろ『従魔のエサ』のストックを増やしておきたいですし」


 そんなわけで来ました、使役者ギルド。ここでは従魔用のエサや装備が、販売されている。私が黒檀丸用の鞍と蹄鉄を買ったのも、この場所だ。そしてギルドランクを上げれば、よりいいものを手に入れられるんだ。


「前に来たときは、鞍のことで頭がいっぱいで、あんまりラインナップを見てなかったんですよねー。私のギルドランクも2に上がりましたし、なんかないかなーっと」


 そうやって、売店の商品リストのウィンドウをスクロールしていくと、二つくらい、気になるものを見つけた。




『上質な従魔のエサ』

品質:2 レアリティ:2 重量:0

250G

 通常のよりも、材料や製法にこだわって作られた、テイムモンスター用のエサ。

 自身のテイムモンスターに与えると、好感度上昇(微)の効果を与える。

 このアイテムは、他者のテイムモンスター及びエネミーモンスターには、使用できない。


『従魔清潔キット』

品質:4 レアリティ:4 重量:1

5000G

 テイムモンスターの身体を洗い、清潔さを保つ道具一式。

 自身のテイムモンスターに使用すると、状態:汚れを消すことができる。また、好感度上昇(微)の効果を与える。(クールタイム:1体/1時間)

 このアイテムは、他者のテイムモンスター及びエネミーモンスターには、使用できない。




 一つは私がゲーム開始時に支給された、『従魔のエサ』の上位互換アイテム。まあ、こっちは別にいらないかな。普通のエサでも好感度は減らないし、モンスターにはそれぞれ好物が設定されているから、そっちをあげられるようになれば、わざわざこういうのに頼る必要はなくなる。

 問題は、もう一つの『従魔清潔キット』とやら。こっちもテイムモンスターの好感度を稼ぐアイテムらしい。でもかなり高いし、そもそも状態:汚れって何? 今までの冒証に、そんな状態異常なんかなかったけど?


・今回からの新要素らしいよ

・β版を見るに従魔は連れ回してると汚れていくみたい。見た目がぼろぼろになるのが嫌なら手入れしろってことらしい


「えっ、そうなんですか!?」


 そういえば、初日ではきれいな鹿毛だった黒檀丸の毛並みが、だんだんくすんでいっていたような……。


「それはダメ! 従魔のお世話ができていないと思われるのは、配信者としても、テイマーとしてもアウトです! というか、第一の相棒をないがしろにすること自体、絶対ダメです!!」


 割と本気の悲鳴を上げた私は、ノータイムで『従魔清潔キット』を購入していた。

 お金? エサ代を諦めて私の全財産をつぎ込んだおかげで、ぎりぎり足りましたよ?


・テイマーRPガチ勢じゃん・・・

・ああ、また一文無しに


「これは繰り返し使えるみたいなんで、長い目でみれば元は取れるはずです。……でもさすがに、エサと私の携帯食料を買うお金もないのはまずいので、フィールドでの採取と討伐クエスト、行きましょうか」


 ついでに、そろそろ新しい子をテイムしたいなぁ。もちろん、カラス以外でね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る