第10話 初期エリアと戦闘

 『冒険の証 -world online-』がサービス開始してから、早三日が経ちました。

 風の噂SNSによれば、すでに攻略組こと廃人たちが、第二エリア辺りにまで到達しているとか。よくやるよねぇ。

 ま、のんびりエンジョイ勢の私には、関係ないけどさ。今日もはじまりの町の町長たちへの、挨拶回りに行くよ。


「昨日までに、ハクザイの町とコクホクの町の挨拶ミッションは、クリア済みです。なので、今日はセイトウの町に行って、四人目の町長さんに話しかけにいきます!」


 オープニングトーク代わりに、昨日までのあらすじと今日の予定を話す。ぽつりぽつりと来るコメントに目を通しつつ、私は町の外に出た。

 数日経って落ち着いて来たとはいえ、まだまだ賑わっている初期フィールドの草原。辺りをぐるっと見渡して、マップと照らし合わせながら、町のある方角を確認する。

 ちょっとおさらいしようかな。

 四つのはじまりの町。それらを結ぶ街道および、周辺に広がる平原が初期エリア。ここら一帯は、見晴らしもよく、あちこちに採取エリアがある。出て来るモンスターも、ホーンラビットやリトルピジョン、ビッグラットといったノンアクティブばかりで、完全に初心者向けの場所だね。

 町の外、街道が途切れた先からが、第一エリア。東西南北で地形も出現するモンスターも、がらっと変化する上、フィールドボスが配置されている。

 ここを突破するまでがチュートリアル。というのが、PLたちの共通認識になりつつあったりなかったり。


「それじゃあ、適当に採取しつつ、セイトウの町へ行きますよー!」


・いてらー

・本日の乗馬タイム


 リスナーたちに宣言して、黒檀丸に飛び乗る。そうそう、この三日の内に、馬用の鞍と蹄鉄ていてつ、それから騎乗スキルを手に入れたよ。

 おかげでお財布は、すっからかんだけどね! でもいいよ、テイマーを選んだ時点で、金欠になるのは覚悟の上だったし。今後の投資だと思えば大丈夫。


「あはは! 相変わらずはやーい!!」


 合図を出せば、黒檀丸は軽やかに走り出した。人ひとりが乗っているとは思えないほど、しっかりとした足取りで、周りで戦ったり移動したりしているPLたちを、ぐんぐん追い抜いていく。


・はっや

・※はじまりの町間の移動距離は、徒歩で片道10分。昨日の愛華ちゃんは、馬に乗って3分でゴールしました

・やっぱり愛華ちゃん、一人だけ別ゲーしてない??


「ちゃんと冒証オンラインをやってますよー! それと、今日は採取と討伐系のクエストを受けて来たんで、そっちもやりながら行くから、昨日よりは時間がかかりまーす!」


 あれー? なんでコメント欄が呆れ気味なんだろう? 私はテイマーとして、遊んでいるだけなんだけどなぁ。まあ、炎上しないならいいや。

 他の人をいてしまわないよう、通路から少し外れた場所を走っていると、うっすらと光っている、藪を見つけた。これ、採取エリアの目印なんだよね。

 黒檀丸を止めて、鞍から降りて光る草木に触れる。こうすると、採取スキルが自動発動して、薬草が数個、インベントリに入った。


「よしっ三つゲットしました! 受けたクエストは『薬草を10個、納品する』なので、あと七つ採取すれば、クリアですよ」


・3こはラッキー

・近くにネズミがいるよ。討伐クエも受けてたよね?


「えっ、あっ! 本当だ、ビッグラットいますね!?」


 リスナーから指摘され、慌てて声を抑えつつ周辺を探せば、藪の後ろ五メートルほどのところに、くすんだ灰色の大きなネズミ――モンスターのビッグラット――が歩いていた。

 まだこちらの存在には気づいていないらしい。隙だらけな上、他のPLの姿もない。チャンスだ!


「黒檀丸。私が魔法で先制攻撃するから、そのあとであいつを踏みつけて。OK?」


・相変わらず容赦ねぇ・・・


 使い魔に作戦を伝えたら、私はできるだけ音を立てないようにして、かつビッグラットの視界に入らないよう、死角からにじり寄る。

 杖を装備しつつ、忘れずに呪文も詠唱――冒証では、使いたい魔法を選択すると、勝手にアバターの口が開いて、謎言語での呪文が紡がれる仕様だ――を開始。そうして、ゆっくりとモンスターの真後ろに着くと、魔法を発動した。


「――『マナ・シュート』!」

「チュー!?」


・0距離でいったーwww

・こうでもしないと当たらないからね(遠い目

・FPSの体験版でガチで一発も当てられずにキルされ続けた女は伊達じゃない


「ちょっと! いま私のエイムのことは、どうでもいいんですけど!?」


 至近距離で魔力の塊をぶつけられたビッグラットは、その体力を半分近く失い、ひっくり返った。ネズミが起き上がる前に、私とは反対方向から飛び込んで来た、黒檀丸が思いっきり踏みつけ攻撃をする。

 哀れなビッグラットさんは、ほぼ何もやらせてもらえずに、HPバーが砕けて光に変わりましたとさ。


『種族レベルが上がりました。任意のステータスを一つ、上げることができます』

『スキル『基礎魔法』のレベルが上がりました。基礎魔法『キュア』を取得しました』

『スキル『杖術』のレベルが上がりました』

『スキル『使役』のレベルが上がりました。アーツ『好物識別』を取得しました』

『従魔『黒檀丸』のレベルが上がりました。スキル『持久走』を取得しました』


「よーし! モンスターを倒した上、私と黒檀丸のレベルが上がりましたよ! 幸先いいですね! あっ、上げるのは知力にしますよ!」


・従魔もlv上がるんだっけ?

・←上がらないのはサモナーの方


「そうですね。テイマーが使役する従魔たちは、レベルも上がるし進化もします。ただ、どのステータスが上がるかは決められません。逆にサモナーは、召喚モンスターのレベルはやスキルは固定で、強くするには、召喚術のアーツの『召魔強化』とか『召魔合成』とかで、あれこれカスタマイズしていく感じになるんですよ」


・へー

・詳しい


「これでも冒証シリーズは、超やり込んで来ましたから! さ、この調子で、進みますよー」

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