第9話 害悪PLよりもイベントNPC

「ここがあの町長のハウスね!」


・ネタが古いよ、愛華ちゃん


「その返しがくるってことは、少なくともまだ通じる人がいるってことですよ」


 と、そんな風にリスナーと戯れながら、やって来ましたセキナンの町の町長宅。

 それにしても、マップ埋めながらとはいえ、思いのほか時間かかっちゃったなー。ゲームではもう夕方だし。

 ……うん。本当なら、もっと早めにたどり着くはずだったんだよ。そうならなかった理由は一つ。

 なんか変なプレイヤーに絡まれました。


 いやあ、ミュート設定にしているから大丈夫でしょ、って考えていた私が甘かったよね。ハラスメントブロックエリアの半径一メートルの距離を保ったまま、ず――――っと私の周りをぐるぐる回って、聴こえない声で、何かをまくし立ててくるんだもん。

 最初こそ、無視したり小道に入ったりして、なんとか穏便に撒いて終わらせようとしたよ? こっちは配信中だしさ、下手な行動で炎上したくなかったし。……でも、相手さんが無駄にガッツがあってさぁ。絶対に離れようとしない上に、隙あらば私と同じ画角に入って、動画に映り込もうとするんだよ? 本当に、堪ったもんじゃない。リスナーさんもドン引きだし。

 そんな不毛な鬼ごっこを続けること、かれこれ三十分以上。もうね、キレたよね。

 私は無言で、GMコールボタンを押させていただきましたよ、ええ。察したらしいストーカーPLが、慌てた様子で詰め寄ろうとして、ハラスメントブロックに弾かれるのを見ながら、応対してくれたAIにはっきりと報告してやった。


「ミュート設定にしているのに、三十分以上、見知らぬプレイヤーにつきまとわれています。配信中もわざと動画に写り込もうとして来て、はっきり言って怖いし迷惑なので、対応してくれませんか?」


 そこからは早かったよね。つきまとっていたやつのアバターが、一瞬フリーズしたかと思ったら、あっという間に消えたの。びっくりしている間にGMコールの通話先も、責任者だという生身の人に変わった。

 なんでも、私がVコンバートシステムを利用中で、かつ生配信をしていたから、通報後すぐに対応できたらしい。しかもお詫びとして今後、似たようなトラブルに遭わないよう、追加パッチ――配信中のハラスメントブロックの適応範囲を五メートルに延長して、かつしつこく接触しようとすると自動警告が入り、最終的には通報される――を、無料ダウンロードしてもらえるようになったの。


「本当にいいんですか?」

『はい。お恥ずかしながら、現在の冒険の証 -world online- では、配信者の方に迷惑行為を行っていることへの報告が、多く寄せられています。そのため、有料ダウンロードコンテンツとして用意していたこちらのパッチを、急遽、無料配布することになりました』


 ってことらしい。

 本来、有料DLCだったはずのシステムを、前倒しで冒証の配信者全員に配るとか、どんだけ害悪がはびこっていたんだか……。


・粘着凸野郎マジザマァwww

・あいつ他のVんとこにも押しかけてたっぽい垢ban不可避じゃね?


「はーい。あのプレイヤーさんの話は、もうおしまいでーす。今日は色々あって疲れたんで、町長さんに挨拶して、ぱっぱと締めますよー」


 治安が悪くなりかけたコメント欄を、強引に軌道修正して、家に入る。リアルならアポなしじゃ無理な行動でも、そこはゲーム、奥の部屋にいる町長――髪を七三分けにしたおじさんNPC――にすんなりと会えた。


「ほう。冒険者になったことを、この私、町長サウスにわざわざ報告しに来るとは……なかなかの心がけだな」


 会話コマンドを選択すれば、あとはNPCが勝手に話し出して、餞別の品クエストのクリア報酬を渡してくれて終了……とは、いかなかった。


「ときに極楽鳥花愛華。貴様はこのセキナンの町以外の三つの町に行ったことはあるか?」


『>まだです』『>もう行きました』


「はい?」


・なんかイベントはじまた?

・おっと??


 あれ、会話が続いた?

ざわつくリスナーと一緒に戸惑いながらも、私は素直に『まだです』の方を選ぶ。すると、町長さんはそうか、とうなづいて、威厳たっぷりに喋り出した。


「もしコクホクの町、セイトウの町、ハクザイの町に行く予定があるのなら、各町の町長にも挨拶しておくがいい。さすれば、貴様の冒険の始まりに役立つものが、手に入るだろうよ」


・イベント旗北―!!

・うっそだろ今日二回目だぞ!?


「まじですか」


 なんか、イベントのヒントらしきセリフを、言われてしまった。町長さんにまた話しかけても、もう定型文しか返って来ない。


「えー、あー……なんか、私の冒証の、今後の予定が決まっちゃいましたね?」


・そうだね

・あいさつまわり

・貴様の冒険の始まりに役立つものって言ってたよな?

・検証班まだおるー?


 イベントの予感に、コメント欄が沸き立つ。うん、私もちょっとどきどきしてきたし、すぐにでも別の町に行きたくなったんだけど……。


「ごめんなさーい! 今日はもう時間です! 続きはまた明日から!! ちょ、本当に予定時間オーバーしてる、警告アラートなっちゃう!!」


 配信時間を超過しちゃったから、また今度ね!

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