第2話 さくさくキャラクリ

 ハードのスイッチを入れると、VRゲーム特有の、意識が遠のく感覚がする。慌てずにじっとしていれば、私はSFチックな薄暗い空間に立っていた。


『『冒険の証 -world online-』の世界へようこそ。事前登録データがあります。使用しますか?』


「おっ、無事に起動できましたね。見えてますかー? ……見えてますね。まずはキャラクリからですが、ここで私は特権、Vコンバートシステムを発動。色々とスキップしちゃいますよー」


・みえてる

・最初の見どころ爆速カットで草

・マジで5秒でアバター設定終わってんだけど


 タイトルコール前に、配信するか? みたいな問いが出たから、迷わずチェックを入れておく。すぐに見慣れたリスナーの少ないコメントが、視界に入って来たから、さくさくとキャラクリ画面を映した。

 まあ、名前・種族決め・アバター作成という、この手のゲームで時間を食う場所は、さっさとVコンバートシステムで、ショートカットね。ボタン一つで、見慣れた極楽鳥花愛華の顔が出来上がるの、とっても楽でいいな。

 あっ、そうそう。私が登録したのは、あくまでアバターの顔と身体モデルだけで、衣装はゲーム内のものを使うようにしている。ファンタジー世界に、愛華の現代ファッションは合わないからね。郷に入っては郷に従え、ってやつ?


「次は皆さん大好きな、ジョブガチャの時間ですよー。あ、初見さんに説明すると、冒証って、最初の職業はランダム抽選で五個ぐらい出てきて、その中から選ぶ方式なんですよ。もし、その中に狙ったジョブがなければ、二回までは引き直しができます。それ以上は、リセマラしなきゃですけど」


 関心したようなコメントや、シリーズ既プレイ者の補足説明が視界の端に流れる中で、私は最初のガチャを引く。

 結果は『戦士ファイター』『錬金術師アルケミスト』『魔法使いソーサラー』『猟師ハンター』『職人クラフター』だった。


「ん~~……微妙。可もなく不可もなく? 面白みのない普通のジョブばっか。これは次に期待しましょう」


・レア職0。これはドブガチャ

・ところでソロでやるの?


盾士シールダー斥候スカウト、ファイター、吟遊詩人バード神官アコライト……レアの回復職来たけど、ソロだしこれもスキップですね。……あ、言い忘れてましたけど、私は今回、ミュート設定でソロプレイをしていきますよ」


・ミュート!?

・mmoでぼっちとか、やる意味ある?

・ミュート設定=他のプレイヤーとの接触や会話をNGにして、完全に一人でゲームに没頭できるようにする。一部公式イベントでは強制解除されることもあるが、粘着とか害悪PLの絡みをシャットアウトできる。でもフレ交換も野良パーティー組みもできなくなるし、そもそもなんでMMOやってんの?ってなるアレ


「なんてったって、私はエリートぼっちですから。VRMMOでも、我が道を突き進みますよ。さあ、ラスト五連! ファイター、ソーサラー、商人マーチャント農民ファーマー……おおっ! 使役者テイマー!! 来た――ッ!!」


・おっ

・おめ

・レアジョブktkr

・おめでとう

・地味に今作から追加職の商人も引いてるんですけど


 おっと、つい本気で喜んじゃった。まあ、既に他のゲームでもやらかしているから、愛華のキャラ――ローテンションでマイペースなエリートぼっち――が崩れても、少しなら問題ないけどね。

 それよりもテイマー! まさかリセマラなしで、狙っていたジョブが来るなんて!


「いやー、本気で嬉しい! VRMMOをソロでやるなら、テイマーかサモナーが良いなーって、思ってたんですよー。でもレアな職業だから、あればいいなー、くらいの感覚で……これはもう、選ぶっきゃないですよね!!」


・テイマーとはまた修羅の道を、、、

・愛華ちゃんが楽しそうで何よりです

・テイマーなかったら何にしてたの?


「テイマーがなかったら? んー、そのときに出た職で、一番マシそうなのにしてましたね。たぶん、生産系とか?」


 コメントの質問を拾いつつ、初期スキルの選択を行う。

 このゲームでプレイヤーは、職業に関わる『職業スキル』五つと、自由に選択できる『個人スキル』五つの合計十個の能力を、開始時に取得することができる。


「職業スキルは枠の内、三つが強制獲得になります。私はテイマーだから、特定の敵MOBをテイムできる『使役』と、従魔や自分で作った生産物に名前をつけられるようになる『命名』。それと、対面したモンスターの情報を調べられる『識別』ですね。だから自由に選べるのは、実質二つ。ここは、私と使い魔のご飯も作れる『料理』と、スタンダードな『採取』にしときましょう」


・手堅いね

・攻撃スキルなし?


「テイマーの初期スキル、攻撃系がないんです。なので、個人の方で取ります。とりあえず『杖術』と『基礎魔法』。で、こうすると属性魔法が一個、ランダムで決まります。……土魔法でしたか。んー、本当ならレアの光か闇を出してみたい気も、あったんですけど」


・レアは出ないからレアなんだよ

・えっ魔法選ぶだけで二つも枠食うの?くそじゃん

・←冒証はスキルをあとからも取れるからヘーキヘーキ


「そうそう。まあ、私は今回エンジョイ勢の予定なんで。死に戻りしない最低限でいいんです。……そもそも、エイムも反射神経もくそ雑魚なのに、ガチの最前線で戦うのは無理です」


 リスナーのコメントに答えながら、残りも決めてしまおう。

 ソロとしてやっていく以上、アイテムの効果を確認できる『鑑定』は必須として、残り一つは……迷ったけれど、汎用性の高い『錬金術』辺りにしておこうかな?

そうして出来上がったキャラクターの、ステータスがこれ。




極楽鳥花愛華ごくらくちょうかあいか/配信中

種族:ヒューマンLV1 職業:使役者テイマーLV1

ステータス

体力11 筋力12 走力10 器用15 知力11 精神10

HP46 MP42


職業スキル

使役LV1 命名LV1 識別LV1 料理LV1 採取LV1


個人スキル

杖術LV1 基礎魔法LV1 土魔法LV1 鑑定LV1 錬金術LV1




「うーん。予想はしてましたけど……控えめに言って、雑魚ですね!」


・草

・見本のような器用貧乏ですありがとうございました。

・器用高いならせめて弓・・・と思ったけど愛華ちゃんくそエイムだからなしで

・こんなキャラで大丈夫か?


「いいんですー。バトルは未来の使い魔ちゃんに任せるのでー。というわけで、これで決定。このままチュートリアルに乗り込みますよー」


 さて、私の初従魔はどんな子だろう?

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