Vライバー・極楽鳥花愛華のVRMMO実況

寿々木七三

序章/ゲーム開始

第1話 ヴァーチャルライバー・極楽鳥花愛華

「おはようございます、リスナーの人たち。極楽への道に咲く極楽鳥花ストレリチア。個人勢もとい、エリートぼっちVヴァーチャルライバー、極楽鳥花ごくらくちょうか愛華あいかでーす」


 青い差し色が入った、鳥のシルエットにも見える黄色い花ストレリチアが散りばめられた、カラフルな待機画面が切り替わる。

 パソコン上に、青いメッシュの入ったビビットイエローの髪を、毛先が重力に逆らったように、四方八方にばらけたサイドテールにした、大学生くらいの若い女性のアバターが現れた。

 派手な衣装――大き目の花のシルエットが入ったシャツの上にスカジャンを羽織り、タータンチェックのカーゴパンツを穿いた――をまとった彼女は、今では星の数ほどいるヴァーチャル配信者の一人、極楽鳥花愛華。約一年前から、特定の事務所に所属せず配信をしている、いわゆる個人勢のVライバーだった。


・愛華ちゃんおはよー

・はじまた

・はよー。午前配信って珍しいね

・おはよう


 愛華のトークに合わせて、ぽつぽつとコメントが流れていく。しかしその数は、全て目で追い切れてしまえるほどに少ない。そもそも、彼女の配信を見ている同接者数は、辛うじて二桁ほど。収益化もしておらず、お世辞にも配信者として、成功している部類ではなかった。

 けれど、愛華は飄々とした態度を崩さず、ローテンションな砕けた敬語でトークを続ける。それどころか、この状況すらもネタにしていた。


「いやあ、デビュー一周年を迎えても、この過疎っぷり。いっそ清々しいのでは?」


・ライバーとしては致命的なのに、この他人事感

・そういうところやぞ


「あっ、勘違いしないでください。ちゃんと危機感は持ってますんで」


・えー?

・やる気ゼロにしか見えん

・危機感?


「いや、本当ですって。だから今日は、渾身のテコ入れ企画を持ってきたんですよ。というわけで、はいドン」


 愛華のグリーンアイが何度か瞬きして、数秒間、アバターの動きが止まる。そして溜めを作ることなく、画面上に表示されたのは、とあるゲームソフトのタイトルロゴだ。


「じゃじゃーん。あと十二分でリリース開始の『冒険の証 -world online-』でーす。言わずと知れた神ゲー、冒証ぼうあかの最新作にして、シリーズ初のVRMMO! 目玉は何といっても、既にあるアバターデータをそのまま、ゲームの操作キャラに使えるVコンバートシステム! 事前審査が無事に通ったので、これを今から、プレイヤー・極楽鳥花愛華として、実況プレイしていきたいと思いまーす」


・冒証だー!

・愛華ちゃんあのめんどくさいデータ登録やったの?

・vコンバート?

・うわマジだ。冒証のサイトに愛華ちゃんの名前ある


「やりましたよー。その証拠に……えっと、ちょっとサイトのページ出しますね。……ほらこれ! ここ、正規認可アバター使用者ってところに、極楽鳥花愛華って出てるでしょ?」


 愛華がこれからプレイする、ゲームタイトルを知った一部のリスナーが、ざわめき出す。理由は、彼女自身も口にした、Vコンバートシステムだ。

 これが何か? 簡単に言えば、『事前に登録したヴァーチャルアバターを、そっくりそのまま、自身が操作するゲームキャラクターの外見に反映させる』という代物である。つまり今、画面で喋っている極楽鳥花愛華の姿のまま、ゲームを進めていけるのだ。Vライバーにとっては、非常にありがたいシステムである。

 だが当然、デメリットもいくつかある。その中でも、ひときわ大きな問題が『そもそもアバターの使用許可を取る手続きが、とにかく面倒くさい』というものだ。

 ゲームに外部データを持ち込む以上、ウイルスやバグのリスクはもちろん、アバターそのものを提供した側の、著作権や肖像権なども絡む。そのため、あらかじめ運営に膨大な量の申請書を送り、数日かけて全ての審査に合格する必要があった。そんなことをするくらいなら、普通に自分好みにキャラクタークリエイトして、ゲームを始めた方が早い。


「ではでは、小難しい雑談はこの辺にしといて、『冒険の証 -world online-』を、やっていきましょう。ログイン!」

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