第5-3プラン:ふたりっきりの甘い時間にドキドキ!?
こうして私が話し終わると、なぜかフォレス先輩は温かな瞳でこちらを見やりながらクスクスと微笑んでいる。
「っ? フォレス先輩、なんで笑ってるんですか?」
「いや、気を悪くしないで。感心してるんだよ。キミが自らの感情を優先して、誰かのためにこんな大きなリスクを冒すなんて考えもしなかったからね」
「そんなにリスクは大きくないですよ。勝算が見込めなければ、私が動くわけないじゃないですか」
「……その言葉、嘘だね。客観的に見てリスクの方が大きいよ。それはセレーナ自身がよく理解しているはず。つまりキミは友達や商店街のことを本当に大切に想ってるってこと。もっとも、それ以外にも何か別の意思もあるような気もするけど」
図星だった。何もかもフォレス先輩にはお見通しのようだった。きっと私が心の中では動揺していて、平静を装いながら誤魔化そうとしていたことも分かってる。
それどころか父に対する私の反骨心のことさえも、なんとなく感じ取ってるみたいだし……。
確かに王立学校時代の私だったら、率先してこんな計画を進めるなんてことは絶対にしなかった。つまりこの町で暮らしてきて、新たな出会いや経験が積み重なって、それで私の中で何かが変わったんだと思う。
私、善し悪しは別として自分が変わったことを受け入れるのが怖くて、そうした想いを
今だけはフォレス先輩の洞察力を憎らしく感じる。だから私は頬を膨らませ、恨みがましい目で彼を睨む。
「フォレス先輩、やっばり嫌いです……」
「ふふっ、セレーナも心が成長したね。よしよし――」
突然、フォレス先輩は私の頭を優しく撫でた。その想定外の事態に私は
心地良さで脳内が徐々に痺れていく。まるで
…………。
正直、ずっとこうされていたい。抵抗しようという気持ちが薄れていって……。
――ダメだダメだ、今は本来の目的を見失っちゃ! 私は熱によって卒倒しそうになるのを必死に堪え、なんとか理性を働かせて抗議の声を絞り出す。
「っ!? や、やめてくださいよ、恥ずかしい……」
「嫌なら振り払えばいいのに。嫌いな相手に髪を触らせたままでいるなんて、あり得ないよね?」
「……バカ。フォレス先輩のバカ」
それからも私は無抵抗のままフォレス先輩に頭を撫でられ続けてしまった。
もちろん、それはきっと数秒間くらいのことだったと思うけど、感覚的には何百倍にも長かったような気がする。そして私の頭からフォレス先輩の手が離れると、ようやく私は徐々にクールダウンしていったのだった。
その後、完全に冷静さを取り戻してから私は彼に次の話を切り出す。
「――それでですね、実は積載量の枠を買うこと以外にもお願いがあるんです。うちの商品を発着場の軽食コーナーに卸させてほしいんですよ。もちろん、置かせてもらうだけなので、売れ残ってもフォレス先輩の会社に損失は出ません。また、私の店での販売価格に手数料を上乗せして売っていただいて構いません」
「うん、それなら問題ないよ。数量や手数料などの詳細はあとで決めよう。でもそれはいいとして、その条件だとキミの店で買うよりも発着場で買う方が割高になっちゃうよね? いいの?」
「それは仕方ありません。同じ商品なのに価格まで同じにしたら、手数料の分だけ商品のクオリティを下げなければならなくなりますから」
「あるいは1個あたりの分量を減らすか、手数料の分はセレーナの店が損失を被るか……」
「おっしゃる通りです。でも喫茶コーナーの商品の方が高いからいいんですよ。美味しさを知ってリピーターになってくれたら、販売価格の安い私のお店へ足が向いてくれますから。本来の目的は儲けることではなくて、商店街の活性化ですし」
「それに販売価格の差を気にしないお客さんは喫茶コーナーの商品を買ってくれるだろうしね」
相変わらずフォレス先輩はさすがだ。一を聞いて十を知る。私の考えていることをほとんど理解してくれている。絶対に敵に回したくない人だとあらためて強く感じる。
「はい。船を利用する旅客は待ち時間にその場で買って食べられるという『利便性』を求めていますからね。それにルティス先輩を目当てに来ているお客さんにも売れるでしょうし」
「よっぽど商品が不味いか、あるいは大量に置かない限りは僕も完売すると思うよ。ま、王立学校時代に料理研究部だったキミが作るなら、不味いってことはないだろうけど」
「味に関してはお任せください! それに数量が多すぎて売れ残ったとしても、その損失は宣伝費だと考えています。たくさんの人が利用する発着場の軽食コーナーに置かせてもらえれば、その宣伝効果はバッチリですから。だからこちらに卸す商品には本店の場所の地図やメニュー、サービスクーポンなどが載ったチラシを付ける予定です」
「宣伝ということなら、発着場の掲示板に広告ポスターを貼ってもいいよ。施設管理部の責任者には話を通しておくから。もちろん、デザインやサイズ、枚数などは事前に確認させてもらうけどね」
「助かりますっ! フォレス先輩っ、やっぱりやっぱり大好きぃ!」
はしゃぎながら思わずその場で跳び上がる私。あふれ出る嬉しさが我慢できなかった感じだ。
ちなみに今回は建前ではなく、本心からの気持ち。もちろん、この場合の『好き』は愛しているという意味の方じゃなくて、友好的なという意味としてだけど。
(つづく……)
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