第5-1プラン:王立学校時代の先輩たち

 

 翌日、私は運送会社と運賃の交渉などをするため、ソレイユ水運の本社へとやってきた。同社はリバーポリス市内にある大きな水運会社のひとつで、市の中心部に本社の建物を兼ねた船の発着場がある。1階が発着場、2階と3階がオフィスだ。


 その発着場ではレイナ川の上流や下流にある町とを結ぶ定期船のほか、左岸――つまりこちら側と、小さな集落がある右岸側とを結ぶ渡し船などが運航されている。


 私はまず発着場の中に入り、そこの喫茶コーナーにいるルティス先輩に声をかけることにした。


 彼女は私の王立学校時代の先輩で、年齢は25歳。透き通るような白い肌に肩の少し下くらいまで伸ばしたストレートの銀髪をサイドテールにしていて、市内でもトップを争う美人でもある。


 それに同性の私から見ても羨ましいって感じるくらいにスタイルだって抜群。しかも頭が良くて性格も穏やかだなんて、神様のえこひいきも度が過ぎていると思う。


 もちろん、それゆえの色々な苦労や悩みも抱えている気はするけど……。


 ちなみにルティス先輩はソレイユ水運の社員で、乗船券の販売や各種案内、喫茶コーナーなどを担当している。その美貌ゆえに彼女目当てで喫茶コーナーだけを利用しに来るお客さんもたくさんいるとか。


「こんにちは、ルティス先輩っ!」


「あら、セレーナ! あなたがここに来るなんて珍しいじゃない。どこかへ出かけるの?」


「いえ、今日はの方に用事がありまして」


 それを聞いたルティス先輩は即座に小さく息を呑んで、納得したように何度も頷いた。どうやら今の一言だけで私がここへ来た目的をなんとなく察したみたいだ。


 ま、当然か……。私が『本社に用事』といったらと話をすることくらいしか思い当たる節はないだろうから。


「うん、セレーナのはオフィスで仕事してるはずだよ。急な外出予定が入ってなければね」


「それは良かった。それじゃ、帰りにまたここへ寄らせてもらいます。コーヒーを飲みながら、久しぶりにルティス先輩ともゆっくり話をしたいですし」


「いってらっしゃい。お手柔らかにしてあげてね。あんまり無理難題を言ったらダメだよ?」


「分かってますっ!」


 私は元気に返事をすると、発着場の隅にある階段を登ってソレイユ水運のオフィスへと向かったのだった。


 その後、2階の受付で手続きを済ませて奥へと進み、さらに階段を上って3階にある社長室の前へと辿り着く。


 重厚で威圧感のある焦げ茶色のドア。何度もここへ来たことがあるけど、やはりこの場に立つと自然と緊張してしまう。私は唾をゴクリと飲んで緊張を少し紛らすと、意を決してドアをノックする。


 すると即座に中から聞き慣れた声で『はい、どうぞー』と返事があり、私はドアノブを握って室内へ入る。


「こんにちは~! フォレス先輩っ♪」


 私はドアを通り抜けるや否やスイッチが入ったように相好を崩し、猫なで声でソレイユ水運の社長――フォレスさんに話しかけた。


 彼はルティス先輩と同様に私の王立学校時代の先輩で、当時から親しくさせてもらっている。


 いや、それどころか本当に色々とお世話になって、数え切れないくらい面倒も見てもらった。間違いなく私の人生の中で、大きな恩人のひとりに入る。



 そして今にして思えば……初恋の相手……なのかな……自分でもよく分からないけど。



 ただ、こうして見てみるとフォレス先輩が今もカッコイイのは確かな事実だ。目鼻立ちは凜としていて、清潔感のあるサラサラの黒髪短髪。しかも体は細く見えて、実はマッチョなのを私は知っている。


 性格は優しくて、私なんか足元にも及ばないくらいの切れ者。ちょっと抜けているところもたまに見せるけど、そのギャップがまた愛おしい。


 ちなみにフォレス先輩がここの社長をしていると知ったのは最近のことで、再会も偶然のことだった。何かの用事で王立施療院にやってきたフォレス先輩をたまたま見かけ、その時に私が話しかけて知った次第だ。


 そもそも王立学校時代は彼が『貴族の家柄』ということしか知らなかった。彼自身も身分のことについて、あまり語りたがらなかったし。だからこそ、再会した時にそういう話をフォレス先輩の方からしてくれたことに私は驚いたわけで……。


 何か心境の変化でもあったのかな?


 なお、フォレス先輩のお父さんは子爵で、現在はこの水運会社の会長をしているらしい。ただ、すでに一線を退いているので、経営に関する実務はフォレス先輩が全てやっているとのこと。



(つづく……)

 

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