第4-3プラン:さらなる提案? 共同仕入れの導入

 

 私は心の中で満足しつつ、次の話へと移ることにする。


「株の購入についてはこの総会が終わったら取りまとめさせていただきます。では、もうひとつの提案です。それは仕入れに関してなんですが、皆さんは別の町から商品を陸路や水路で運んでいますよね? 今後は『商店街加盟店組合』が窓口となって仕入れることを提案します。私の店がその交渉や取りまとめをさせてもらいます」


「なんでそんなことを?」


 ランクさんを始め、何人かから疑問の声が出る。


「個々の商店では仕入れの量が少ないので、水運会社や陸運会社と運賃の交渉が難しいです。でも組合としてある程度の量をまとめて運ぶようにすれば、交渉の余地があります」


「確かに運賃が下がったら、店での各商品の販売価格を今よりかなり安く出来るな。特にうちは肉を扱うから、腐っちまったら商売にならん。だから少量ずつ多くの頻度で仕入れなくちゃならなくて、運賃がバカにならないと思っていたんだ」


「そういうことです。総合商店との価格差も縮められて、勝てる可能性が高くなります」


「さすがセレーナ! くぅっ、ザックの代わりにうちを継いでほしいぜっ!」


 ランクさんの言葉にみんなは大笑いする。ザックだけは口元を引きつらせているみたいだけど。


 ……あはは、安心してザック。私は肉に関しては無知に近いから、天地が引っ繰り返ってもそんなことあり得ないし。


「えっと、ランクさんがおっしゃるように生鮮食品は仕入れの頻度が高いでしょうが、武器や防具、道具類などはそれほどでもないと思います。でも組合として『積載量の枠』を購入するので、たまにしか仕入れをしない商品もその枠の空いている分を活用して安い運賃でモノを運べます」


「もしかして仕入れだけじゃなくて、販売の時にもその枠を使えるんじゃないのか?」


 本屋のおじさんがポンと手を打ちながら叫んだ。それに対して私は頷く。


「その通りです。ほかの町へ商品を販売する際には安く卸せますし、もし現状価格で売るなら安くなった運賃の分だけ儲けを増やすということも可能です」


「それは助かる。うちはほかの町で品物を販売することも多いからな。安い運賃で本を運べるようになるなら、出張販売の回数を増やすことも出来そうだ」


「ですから、これに参加する方には事前に運搬量の目安を出していただきます。その割合に応じて負担金をお支払いいただきます。その割当量までなら無条件で利用できますし、割当量を超えた場合はそれに応じて運賃を追加でお支払いいただくことになります。でもそれであっても通常通りに運送会社へ運賃を払うより少しは安く出来るはずです」


「それが組合に加盟している場合の特権にもなるわけだな」


「そういうことですね。積載量が多ければ多いほど、運送会社との交渉がやりやすくなります。ですからぜひ共同仕入れにご参加ください。ご参加いただける方は株の購入手続きと同様に会合終了後にお手続きください」


 こうして商店街加盟店組合の臨時会合は興奮と熱狂の中で進行していき、無事に終了の時を迎えたのだった。


 そして会合が解散となったあと、組合会館に残った私とサラとザックは後片付けを終えてから総括を始める。ちなみに店長は組合のほかの人たちと一緒に自分の店へ帰っている。私たちと比べればご高齢で、疲れも溜まっているからね。


 なお、目の前には私の入れたハーブティーとお菓子屋さんが会合の前に差し入れてくれたクッキー。それらを口にしながらひと息を吐く。


「ふぅ……美味しい……」


 クッキーの甘さと清涼感のあるハーブティーが体に染み渡ってくる気がする。みんなが帰った途端になんか緊張の糸が切れて、ドッと疲れが押し寄せてきていたからかな?


 私はまた一口ハーブティーを飲み込み、隣に座っているサラに話しかける。


「サラ、共同仕入れの申し込み状況は?」


「私のお店やザックのお店、ほかにも食料品を扱うお店の多くが参加を表明しています。ですから荷物の総量も結構ありますね」


 サラの目の前に置かれているノートを覗き込み、私は満足げな顔で頷く。


「うんうんっ! これなら運賃を大幅に安く出来そう。あとは運送会社に対する私の交渉力次第ね。ま、勝算はあるけどね。そうじゃなかったらこんな提案はしないし」


「セレーナさん、株の購入の方はどうだったんですか?」


「組合に加盟しているお店のほとんどが買ってくれた。どこも1株のみだけど。一番多く買ってくれたのは、フルール薬店の店長とザックのお店、それとサラのお店がそれぞれ5株ずつ。商店街加盟店組合の総計は53株かな。シャオさんの分を含めると54株。ここにこれから購入を持ちかける分や私の購入分が加わるって形ね」


「それなら当面の運営資金はなんとかなりそうですね」


「そうね。まっ、上出来でしょう。そもそも組合の加盟店にあまり多く株を買われると、それはそれで私が困っちゃうしね……」


 そんな私の呟きがかすかに聞こえてしまったのか、サラは目を丸くしながら首を傾げる。


「っ? セレーナさん、何か言いました?」


「ううん、なんでもない。じゃ、今後のことだけど、開店の準備や各店舗からの仕入れ調整なんかはサラとザックに任せるね。店長はお目付け役になってもらうつもり。自分から実務には口を出さない方針みたいだから。私は運送会社との運賃の交渉や従業員のスカウト、そのほか経営面の仕事を担当するよ」


「はい、店舗のことに関してはボクたちにお任せください!」


「セレーナさん、販売する商品についてはどうするんですか?」


「それは私たち3人がそれぞれの仕事と並行して進めましょう。ま、基本的な構想は出来てるから、ふたりには味見やボリューム、全体のバランスなどの意見を出してもらうって形になると思う。――そうだ、サラ。パン屋のシャインさんには特にお世話になるはずだから、近いうちに相談に行く旨を伝えておいてもらえるかな?」


「そうですね、サンドイッチ屋さんにパンは欠かせませんもんね。はい、私が話を通しておきます」


 いよいよ私たちのお店の開業と総合商店への反転攻勢計画が大きく動き始めた。もうあとには退けない――というか、やると決めてからは退く気なんてそもそもないけど。


 さて、準備の総仕上げに向かって着々と取りかかっていくとしますか……。



(つづく……)

 

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