第2-3プラン:敵情視察と先制攻撃

 



 その後、私たちは総合商店内に入り、まずは食料品を取り扱っている一角を観察していった。


 まず価格だけど、やっぱり商店街で売られているものと比べればどれも安い。サラが話していたように、多くが一般的な価格の半値以下みたいだ。そしてこれだけ一律に安いということは、私が想像したように不当廉売をしているのだと思う。


 通常は目玉となるいくつかの商品だけを大幅に安くしてお客さんを呼び込み、ついでにほかの商品も買ってもらうことでトータルでの利益を確保する。


 だから普通の商店なら利益率――つまり儲けの割合が大きい商品と小さい商品が混在しているはずなのに、この総合商店ではそうした様子が見られない。


 次に商品の品質だけど、これも開店セールの時に感じた印象と同じ。どれも商店街で取り扱われているものの方が上だと感じた。特に試食コーナーで食べたコロッケだけど、明らかにザックの店のものの方が美味しい。直前に食べたからそれはよりハッキリ分かる。


 ただ、お腹を満たすだけならこの店のコロッケでも充分なクオリティはある。


 そして店の雰囲気だけど、店内はどこを見てもたくさんのお客さんで賑わっていて、まるでお祭りでも開かれているかのような印象だ。照明も最新の魔法灯をたくさん使っていて明るいし、これなら心理的な抵抗が少なくて中へ入りやすい。


 それと従業員は商品の補充や陳列をする担当、商品の説明や案内をする担当、会計をする担当、全体を統括するサービス担当など分業制を取り入れて効率化を図っているみたい。おそらく事務系を含めて組織全体の業務が同じように運用されていると思う。



 ――これは想像以上に相手は手強いかも。私は総合商店を注意深く観察してみて、思わず頭を抱える。


 でもそんなに簡単にいくわけがないのはどんなことでも同じ。なにより私には勝算がある。


 だから私は心の中で気合いを入れ直し、ザックと一緒に総合商店内のほかのフロアも見て回っていった。そして最後に道具の買取コーナーへと辿り着く。


 ここには専用のカウンターがあって、その奥では査定を担当する従業員が何人か常駐している。それぞれ得意な分野が異なるのかもしれない。


 確かに査定がしっかり出来ればギリギリまで高い買取価格を出せて、お客さんの満足度は上がる。店としても一般的な流通価格より高く買いすぎて損をするということも少ない。合理的な判断だと思う。


 ただ、それは分かっていても、人件費や人材確保など様々な要因があって実行しにくいのが現実。それが出来ているという点に関しては感心する。


「ザック、ここが最後だからもう少しだけ付き合ってね」


 私は隣に佇むザックを見上げながら声をかけた。すると彼は顔をこちらに向けて爽やかに微笑む。


「はい、ボクのことはどうかお気になさらずに。ところでセレーナさん、そこの買取コーナーで何か売るんですか?」


「まぁね。何をするにも元手は必要だから」


 ――そう、私はここで自分の持ち物を売って今後の資金の足しにしようと考えている。


 敵の資金を減らす――正確には同等の価値を持つ品物と交換するわけだから、財産の流動性を下げると言った方がいいのかもしれないけど――と同時にこちらの資金を増やせるわけで一石二鳥だ。先制の軽いジャブ程度の攻撃くらいにはなると思う。


 資金の融通という面に関してだけ見れば、いざとなったら誰かに借りるって方法もあるけど、利息などの条件面で折り合いが付くか分からない。だったら今はほぼ確実に資金が手に入る一手を打つべきだ。


 だから今日はそれなりの金額で売れそうなものを持ってきている。


 もちろん、私は古物商ではないから大体の価値しか分からないけど、だからこそあとはハッタリと交渉術で1ルバーでも高く売ってみせる。商売に関しては弟や妹たちと比べて平凡な能力しかない私に、どれだけやれるか分からないけど……。




 …………。


 弱気になっていてはダメだ。事ここに至ったらやるしかないんだし。


 私は心を落ち着け、大きく深呼吸をした。そしてお腹に力を入れて覚悟を決めると、笑顔を作ってカウンターにいる従業員に声をかける。


 所作はあくまでも優雅でエレガントに。お金持ちとか貴族とか、そういう家のお嬢様を匂わせて見くびられないようにしないといけない。すでに勝負は始まっているのだ。


「すみません、持ち物の買取をお願いしたいのですが」


「いらっしゃいませ。それはどのようなお品物でしょうか?」


「懐中時計です」


「かしこまりました。では、宝飾品の担当者が対応いたします。1番のブースに入ってお待ちください」


 従業員から案内を受け、私とザックはカウンターの左側に設置されているブースへ移動した。ちなみにブースは3つあって、左から1番、2番、3番と番号が割り振られている。


 ブースは衝立ついたてで仕切られているだけの空間で、上部は完全にオープン。だから会話は隣のブースやカウンターなどに筒抜けだけど、衝立の高さは高身長のザックでも頭頂まで隠れるくらいまであるので周りから中の様子はほぼ見えない。


 広さは3メートル四方。また、ブース内には商談用のテーブルと4組のイスが置いてあって、私たちは手前のイスへと座る。



(つづく……)

 

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