第1-3プラン:総合商店の価格競争力

 

 でもそこまでお客さんが減ってしまったことに関しては腑に落ちない。だってお店に大きな問題があるようには思えないから。


 私はその疑問をサラにぶつけてみる。


「サラの青果店って商品の質はどれも高いと思うし、その割に価格は安いと思う。それとサラのお父さんはいつも活気があって、お客さんによくサービスしてくれるよね。お母さんは愛想が良くて、美味しい食べ方や保存方法、新鮮な野菜の見分け方なんかを教えてくれる。お客さんが減る要素なんて考えられないんだけど」


「……セレーナさんはメインストリートの向こう側に出来た総合商店スーパーマーケットをご存知ですか? どうやらそっちにお客さんを取られているみたいなんです」


「総合商店? あっ、先月に町の北地区で開店した店かぁ。外観も規模もお城みたいな建物。私も開店セールの時に1度だけ行ったよ。確かに売り場面積は近隣の町で一番だと思うし、取り扱ってる商品の種類も品数も豊富だった」


「私は野菜や果物しか判断できませんけど、新鮮さも美味しさもうちの店の方が上だと思います。仕入れをしている父の目は確かですし」


 そのサラの言葉や瞳には青果に対する情熱と力が込められていた。自分たちが扱う商品に自信と誇りがあることが伝わってくる。



 でもそれは決して手前味噌というわけじゃなくて、私も彼女と同じ意見――。



 青果だけでなく総合商店で売られていた商品の多くが、ここの商店街にある各店舗の商品と比べて品質に劣ると感じている。だからこそ、それっきり総合商店には行っていないんだけど。


 もちろん、総合商店にも商店街と比べると『ある面』において大きな優位性があることに私は気付いている。そしてお客さんがあちらへ流れているということは、それが要因であるのはほぼ間違いないと思う。


「――となると、商店街からお客さんが減った原因は価格か。大型店だから出来る大量仕入れ、それに伴う生産者との価格交渉力。個人商店じゃ、こればっかりは太刀打ちできないもんね」


「そうなんです! うちの半値以下で販売されているんです! もちろん、青果だけじゃなくて肉も魚もほとんどの商品が! だからうちだけじゃなくて、商店街全体からお客さんが減ってしまって! しかも総合商店では様々なものが販売されているから、みんなわざわざ商店街まで足を伸ばさずその場で買い揃えてしまうんです!」


 堪えていた感情が爆発したかのように、サラは想いを一気に吐き出した。瞳には涙が浮かび、唇はプルプルと小刻みに震えている。


 よっぽど悔しくて、我慢してきて、悲しみに満ちているのだろう。その姿を見ていて私も胸が締め付けられる想いになる。だってサラは私の友達であり、妹のような存在でもあるから。




 …………。


 ……それなのに……どこか他人事ひとごとのような意識も心の中にあって、ドライに事態を分析している自分もそこにいる。


 相容れない感情の交錯。我ながらどういう精神状態にいるのか分からない。それが気持ち悪くてモヤモヤする。


「セレーナさん、フルール薬店も最近はお客さんが減ってるんじゃないですか?」


「……そうでもないよ。処方箋取扱店は限られてるし、冒険者や旅人の細かなニーズにあった魔法薬はここでしか揃わないからね。それに薬の原材料は施療院から融通されている関係で、一般の流通価格より安い。そして薬は製造直売。いくら相手が総合商店でも、質と価格の両面で負けようがない。だからほとんど影響が出てないのかもしれないね」


 冷静かつ客観的に事実だけを言い連ねていく私。自分でも驚くほどに感情が込められていない。まるで質問に答えるだけの魔法道具になってしまったような感じさえする。



(つづく……)

 

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