◆6◆ 頼もしい親友
「珠優!」
朝以来桜野さんと一度も話せないまま迎えたお昼休み。
誰かがあたしを呼んだ。
この声は……、
「彩音」
ショートヘアがよく似合う、親友の
「一緒にご飯食べよ!」
「え? うん」
いつも一緒に食べてるよなと思いつつ彼女を見ると、なんか真顔のような……。
すると、彼女はあたしの後ろへも視線を投げ、
「桜野さんも一緒に食べようよ!」
桜野さんも誘った!?
「え? も、もえも? いいの……?」
「全然オッケーだから、行こ行こ!」
彩音はあたしと桜野さんの背中をグイグイ押し、教室を出た。
広い中庭には、あたしと彩音と桜野さん。それから他の生徒もまばらにいる。
彩音とは何度も一緒にランチしてきたけど、桜野さんとはもちろん初めて。
彼女を見ると、ちょうどバチッと視線がぶつかり、ゆるゆるとお互い気まずげに視線を逸らす。
それを見た彩音が、バンッとあたしたちの背中を叩いた。
「ね、食べよ。いただきまーす」
「「い、いただきます」」
彼女に促され、あたしと桜野さんも手を合わせた。
三人でお弁当をもぐもぐ食べるけど、お喋りするのはあたしと彩音だけ。これじゃあまるで桜野さんをのけ者にしてるみたいだ。
そして何を思ったのか、彩音が唐突にお箸を置いた。
どうしたんだろ。もうお腹いっぱいになっちゃったのかな?
いやいや、あたしと同じくらいよく食べる彩音が、そんなことあるわけないか。
顔を上げた彼女は、さっきと同じ真顔。
あたしたち二人を順番に見つめる。
「あ、彩音?」
「……二人ともさ。何かあった? 桜野さんは昨日転校してきたばっかりで不慣れなのは分かるけど、珠優までなんかおかしいよ」
う。さすが親友。なかなか鋭い。
「それに、昨日桜野さんを見たとき、珠優大きな声出してたよね? 二人は知り合いだったりするの?」
親友からの質問攻めに、なんて答えようかな……と言葉を探す。
あたしはゆっくり口を開いた。
「ええとね。桜野さんとはそろばん関係の知り合い、かな。直接話したことは無かったけど、同じ大会に出たことあるの。あと、昨日からあたしの通ってるそろばん教室に桜野さんも通うことになったんだ。……でも、桜野さんの方が成績良くて、それで……、」
言葉を詰まらせたあたしに、彩音は優しく頭を撫でる。
優しい目。あたしが何を思ってるのか理解してくれてるんだ。
「あの、数原さん……ごめんなさい。もえのせいで、数原さんを落ち込ませちゃって……」
ツラそうな顔をする桜野さんに、慌てて首を振る。
「桜野さん謝らないで。桜野さんは悪くないよ。あたしが勝手に落ち込んでるだけだもん」
「でも……」
「はいはい!」
気まずい空気を打ち消すようにパンパンッと手を叩いたのは、彩音だ。
「二人とも、そんなだと、埒が明かないぞ〜? こればっかりはね、どうしようもないよ。……でも珠優さ、この前いい点取った! って嬉しそうに教えてくれたじゃない。それって、珠優がたくさん努力したからでしょ? だったら、これからも同じように努力していったら、絶対にいい点が取れるよ。わたしはそろばんやってないから偉そうなこと言えないけどさ。『努力』は、何をするにも大切なことだよね」
彩音の言葉と満面の笑顔に、ちょっと救われた。
「あたし……できるかな……」
「できるよ! 珠優なら絶対……!」
彩音がぎゅうっとあたしを抱きしめた。
親友の暖かい体温に、すごく安心する。
「数原さん。もえと数原さんは、ライバルかもしれない……。でも、『友達』としてなら、応援するよ」
穏やかな笑顔を浮かべた桜野さんも、あたしをぎゅうっと抱きしめてくれる。
なんか涙が出そう。
「…………ありがとう。彩音。桜野さん。……ううん、もえちゃん」
初めて名前を呼んだから、なんだか照れくさい。
でも桜野さん——もえちゃんは、嬉しそうに笑ってくれた。
「お互い、頑張ろうね。珠優ちゃん」
あたしたち三人は抱き合ったまま、えへへっと笑った。
そろばん少女、ここにあり! 紫水 嵐 @miyora
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