◆5◆ 思い知っちゃったライバルとの差

先生からプリントを返却してもらったあたしは、すぐさま点数に目を走らせる。


見取り算七〇点、かけ算八〇点、わり算九〇点!


合格基準の二百四〇点達成だっ。

「見て、桜野さん! あたし、やったよ!」

プリントを見た彼女も、ぱあっと喜びを滲ませる。

「良かったね、数原さん!」

「うんっ」

あたしたちはパンッと音を立ててハイタッチした。

そういえば、桜野さんもプリントやってたみたいだけど、どうだったんだろう?

「桜野さーん、採点終わったよ」

先生がこっちにやってきて、桜野さんの目の前にプリントを置いた。

二人してプリントを覗き込む。


見取り算九〇点、かけ算九〇点、わり算百点。


……え。

あたしは息を呑んだ。

四〇点も差がある。四〇点って、結構大きいよね。

桜野さんが凄いのは知ってたけど、こんなに差があったなんて……。

あたしがよっぽど呆然とした顔をしてたのか、桜野さんは慌てて手を振った。

「あ、あの、今日はたまたま上手くいっただけだよ。数原さんだって凄いと思うよっ?」

彼女が励ましてくれるけど、なぜかストンと胸に落ちてこない。

心の中で吹雪が吹いてるみたいだ。

あたしはその心から目を逸らそうと、ゆっくり口を開く。

「あ……ありがとう。気にしてもしょうがないよね。たくさん練習すればいいんだし……!」

「そ、そうだよ、数原さん。伸びしろは充分あるよ!」

あたしたちはさっきとは打って変わって、あはは……とぎこちない笑みを浮かべる。

練習すれば必ず上達するって分かってるのに、なんでこんなに心がスッキリしないんだろう。

あたしはどうして、もう既に桜野さんに敵わないかもなんて思ってるんだろう。

未来のことは、誰にも分からないのに。

「数原さん?」

きょとんとした瞳が視界に入り、ぶるるっと首を振る。

そして、あはっと笑ってみせた。

「な、なんでもない! 直しやろっか、桜野さん」

「うん、そうだね」

って言っても、直しが多いのはあたしの方なんだけどさ。

あたしは胸の痛みに気づかないフリをして、そろばんをパチパチ弾き、鉛筆をカリカリと走らせた。


翌日。

教室に入ったあたしは、自分の後ろの席を確認して、ホッと息をついた。

桜野さん、まだ来てないみたいだ。

……なんで安心なんかしちゃってるんだろ。

あたしは自分の席に着く。

昨日桜野さんに学校案内するとかなんとか言ったけど、とてもそんな気分にはなれなくなっちゃった。

さっき登校中に、颯真が「なに変顔してんだよ」なんて失礼なことを言ってきたけど。

でもほんと、今朝鏡で確認したとき、変な顔してた。

まだ気持ちの整理がついてないのかな。

「おはよう、数原さん」

後ろから声をかけられ、ビクッと肩が跳ねた。振り向くと、やっぱり桜野さんだ。

「お、おはよう、桜野さん」

なんとかニコッと笑顔を浮かべて挨拶した。

桜野さんはあたしの表情が普通じゃないことに気づいたのか、一瞬動きを止めたけど、彼女も小さく笑った。

そしてあたしは前に向き直り、ハァと小さくため息をついたんだ。

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