重谷 幸伸
乃上さんが自殺したい理由に共感出来ない理由が、今わかった。
……だって、絶対死ぬ以外にも他に選択肢はあるはずだから。
舞浜さんが言ったみたいに、相手を見返すのもいいし、仕返しするのもいい。それこそどうせ死ぬぐらいなら、無理心中したっていいはずだ。他にも、フった相手をもう一度自分に振り向かせるために行動することだって、出来るだろう。
でも、乃上さんは死のうとしている。それ以外の選択肢が、見えなくなっている。自分のこと以外、見えなくなっているのだ。そんな状態なのに、軽率な行動をした結果、残された側がどんな気持ちになるのかなんて、きちんと想像できるわけがない。
……でも、俺は残された人の気持がわかる。
「わかるさ。俺の兄貴は、去年自殺したんだから」
俺の兄貴、大聖(たいせい)が死んだのは、去年の冬だった。大学の下宿先で一人、首を吊って死んでいたのを、兄貴の友人が見つけたのだ。自殺の原因は、進級する単位が不足し、留年が確定したからじゃないか、と想定されている。想定されている、と表現したのは、理由が確定していないからだ。
遺書にはただ一言、ごめん、としか記載がなかった。
周りの人に兄貴が進級できそうにないと悩んでいるのを話していたことと、さらに留年できるほど貯金がないことを零していたこと、そして、単位取得に大きく関わるレポートの提出日に兄貴が自殺したということから、警察はそう類推している。
そうだ。もう死んでしまった人間の本当の気持ちなんて、生きている俺たちは想像することしか出来ない。
「だから、わかるんだよ。死ぬっていうのは、さ。本当に、ものすごく、ものすごく、エネルギーがいることなんだよ。自殺する人もそうかもしれないけど、その周りにいる、残された俺たちにも、とてつもなく大きい影響を与えるんだ」
兄貴が死んで、クラスメイトたちは俺を元気づけようとしてくれていた。でも、以前と同じように俺は笑うことが出来なくて、皆から距離を置いて、一人になって、一人で飯を食って。
そして今日、屋上から飛び降りようとしている乃上さんの姿を見て、体が勝手に動いたのだ。
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