信永 虹花

 あたしは、重谷の話す言葉を、ただ黙って聞いていた。

「残された方は、取り残された方は、キツイよ。本当に。ふとした瞬間に、頭を過るんだよ。何で、そんなになるまで気づけなかったんだろう? もっと、何か出来たんじゃないか? そんなに悩んでたなら、何で俺に言ってくれなかったんだろう? そんなに浅い関係だったのかな? それとも、元々どうでもいいと思われてたのかな? 何も言わずにいなくなりやがって! ふざけんなっ! って。でも、そうした愚痴も言えなくって、本当に、キツイ。ただ、キツイよ」

 その言葉を聞きながら、あたしは自分が不登校になった理由を思い出していた。

 それは、突然の出来事だった。一年生の時から仲が良かった友達のグループから、突然無視されるようになったのだ。当時は理由がわからず、かなりショックだった。今までずっと仲良くしてきたし、これからもそうでいたかった。だから悪い所が自分にあるなら教えて欲しいと皆に聞いて回ったのだ。でも、状況は変わらなかった。理由もわからず、友達と話せなくなって、本当にキツかった。毎日泣いて、憔悴したあたしに、グループの中の一人が、こう言ったのだ。

『あんたが、あの人をフッたのが悪いんでしょ』

 結局、あたしが友達だと思っていた人の好きな人に告白され、フッたのが気に入らなかったらしい。告白してきた相手を友達が好きだったのも知らなかったし、告白されたのはあたしにはどうしようも出来ないし、それを断るのもあたしの自由だ。そういう自分の気持を伝えたかったが、何も話を聞いてくれなかった。そこで、どうしようもなく思ってしまったのだ。

 ……恋とか愛とか、くだんねぇ。友達も、信用出来ねぇ。

 そもそも、あたしが友達だと思ってた人が友達じゃなかったので、あたし自身の感覚が信じられなくなった。そうなると、もうなんか、全部どうでもよくなったのだ。そこから不登校になり、あたしがかつて友達だと思っていた人がいる教室には行かずに、保健室には顔を出すようにしている。

 ……そう考えると、まだ乃上と話せる舞浜は、あたしの時よりマシなのかもな。

 そう考えたら自然と、口が開いていた。

「おい、乃上」

「な、なんですか?」

 重谷の言葉で、完全に固まっていた乃上と舞浜が、こちらを振り向く。そんな乃上に向かって、あたしは言葉を紡いでいく。

「本当に、やり残したことはないのか? 少なくとも舞浜とは、舞浜が納得するまで話した方がいい。ここで本当に死ぬんなら、本当に話せる、最後の最後の機会だからさ。本当に、一生で最後の機会になるんだ。もう、後悔すら出来なくなるんだぞ」

 そう言うと、乃上と舞浜は、互いに顔を見合わせる。

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