井内 良吉

 ふひひっ、と引き攣る様に笑いながら、僕はトイレ、自分の入っている個室の床にチョークを走らせる。

 黒魔術の本に描かれている、魔法陣を描いているのだ。チョークは学校のものを拝借した。円の中に円を描いて、そこからさらに複雑な幾何学模様を刻んでいく。家で何度も練習したので、自分の指先は滑らかに動いて、どんどんとおどろおどろしい魔法陣を作り上げていく。

 魔法陣が完成したら、今度はその上に家から持ってきた鍋を乗せた。本当はここに薪を焚べたいのだが、火を起こせば火災報知器が鳴ってすぐに見つかってしまう。今回はお茶とは別の水筒に、既に煮立ったお湯を入れてきているので、それで代替することにした。

 お湯を入れる前に、一度個室を出る。トイレの窓を開けておくためだ。これでここから、お湯を注いだ時に出る湯気は逃げていくだろう。水筒の中のお湯から出る湯気ぐらいで火災報知器がなるとは思えないが、念には念を入れておいた方がいい。窓を開けると、晴天の青空が広がっていた。が、その光景へ一瞬たりとも興味を移さず、僕は個室の中へと戻っていく。そして、カバンの中に手を突っ込んだ。

 最初に取り出したのは、透明な液体が入ったペットボトル。この中には、聖水が入っている。と言っても、僕はカトリックでもプロテスタントでもないので、簡単に聖水なんて手に入らない。清めた水、清める水であればいいと思ったので、近くの神社の手水舎の水を汲んできている。ペットボトルの蓋を開けて、水を鍋の中に入れていった。

 黒魔術の本を開き、次に鍋へ入れるものを確認。僕は魔術に使う素材を、ローリエの葉、生きたミミズ、ネズミの尻尾など、順次鍋の中へと入れていった。

 素材を中に入れる度、個室の中でふひひっ、と僕の笑い声が響く。

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