乃上 美心

 何で誰もわかってくれないんだろう? と、私は思った。

「そういうことじゃ、ないんだよ。私はただ、翔梧に受け入れて欲しかっただけなの……」

 だから、翔梧の代わりに誰かを見つけようだなんて考えられないし、翔梧を傷つけたいとかも思わない。

「だから、彼に受け入れられないなら、本当に、私、生きていく意味なんてないんだよ」

「……じゃあ、乃上さんは、平気なの?」

 そう言って重谷先輩が、真っ直ぐに私の方を見つめている。

「少なくとも、君にはこうやって、死んで欲しくないって言ってくれる友達がいるじゃない。君の両親も、きっと悲しんでくれると思う。そうした人達を残していくことも、乃上さんは受け入れているの? 彼らの悲しみを受け入れた上で、理解してから、死のうとしてるの?」

 その言葉に、私はカッとなった。湧き上がってきた感情の名前は、怒りだ。

「今更、そんな月並みな言葉で私を止められると思ってるんですか?」

 夕花ちゃんの言葉を拒否した私に、人生の殆どを一緒に過ごしてきた彼女を拒絶した私に、今更そんな、マンガやアニメに出てくるようなセリフで私の心が動くだなんて、本当に重谷先輩は思っているのだろうか? だとしたら、私のことを甘く見過ぎだ。

 私の決意を、甘く見過ぎだ。

「考えたに、決まってるじゃないですか。考えないわけ、ないじゃないですか!」

 涙がボロボロと溢れてきて、フェンスを握るても震えている。でもそれと同じぐらい、私の体は重谷先輩への怒りで震えていた。ズケズケと私の人生に勝手に踏み込んできた事への怒りを言葉に乗せて、言葉を叩きつける。

「何なんですか、あなたは! 今まで私の人生の何も知らないくせに、私の生き方に、私の死に方に口を出さないでくださいよ! 何も知らない重谷先輩が、どうして残された人の気持をわかるっていうんですか? わかりっこないでしょう!」

 そう言われた重谷先輩は、完全に無表情になる。そして、僅かに口元だけ緩めた後、こう言った。

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