信永 虹花(のぶなが ななか)
飯食ってても、欠伸って出るもんだな。
そう思いながら、あたしは大きな口を開けて欠伸をし、そのまま手にしていたコロッケパンに齧りつく。コンビニで買ったコロッケパンは、パンにコロッケだけでなくタマゴも入っているタイプのもので、ソースの味とタマゴが意外に合う。あたしはいつも目玉焼きには塩コショウ派なのだが、ソースも中々捨てたもんじゃないなと思いながら、一人高校に向かって歩みを進めていた。
あたしの通う学校は、少し小高い丘の上にあり、夏場はこの斜面が地獄のような暑さに感じる。初夏のこの時期ですら、もう薄っすらと汗をかいている。さらに日が高いお昼時ともなれば、なおさら暑い。おまけに今日は、眩しいぐらいの快晴だ。あたしはコロッケパンを齧りながら、手の甲で額に滲む汗を拭った。時折通る車が起こす風が、この時は無性にありがたい。
だがお昼時ということもあってか、周りを見ても、あたし以外に高校生の姿は全く見当たらなかった。
……まぁ、ふつーに高校通ってるなら、こんな時間に学校行かねぇしな。
つまり、あたしは普通ではないということになる。
いわゆる、不登校ってやつだ。
いや、不登校までは行かないのかもしれない。今もこうして学校には向かっているし、遅刻はするけれど欠席はしていない。でも、学校の自分のクラスには三年生に進級して以来、一度も行ったことがなかった。
……はぁ。マジでダルい。
嫌なことを思い出してしまったので、むしゃくしゃしながらコロッケパンを頬張る。ようやく坂を登り終えて校門に辿り着いた時には、あたしのコロッケパンは既に自分の胃の中に収められていた。パンを包んでいた袋を、手にソースがつかないように丸めながら、あたしは校門を潜る。
と、そこで、あたしの目が上空に引き寄せられた。
学校の屋上に、人影が見えたのだ。
……はぁ? 何であんな所に人がいんの?
少し呆気に取られながらも、あたしの足はそのまま校舎の方へと向かっていく。
……まさか、自殺しようとしているわけじゃないよな?
確か屋上にいたのは、今年の入学式で新入生代表に選ばれていた生徒だった気がする。彼女が代表の挨拶を体育館でしている時、ちょうどあたしが登校した時間帯だったので、よく覚えていた。
……新入生代表に選ばれるような子が、入学して半年も経たずに死にたいだなんて思うわけないだろうし。
思い返せば、あたしにもそんな時期があったような気がする。入学時は不安と期待で胸がドキドキしっぱなしだったけど、いざ高校生活がスタートすると、案外普通に高校生活が始まった。そして普通に友達も出来て、普通に仲良くなって、普通にこのままあの子たちと一生バカやったり泣いたりしながら過ごしていくんだろうな、って思ってたりして。
……でも、そうじゃなかったんだよな。
口から零れ落ちる溜息は、皮肉げに歪んだあたしの唇から吐き出され、見えないまま宙に消えていった。
スマホを取り出して時間を確認すると、まだまだ昼休みの時間が残っている。保健室は今頃誰かが入り込んでいるか、養護教諭が昼休みで鍵がかかっているはずだ。校舎の中に入って、クラスメイトと鉢合わせするのも気まずい。
……仕方ない。人がいなさそうな場所で時間潰すか。
この時間帯なら、どこがいいだろう? 小首を傾げた後、あたしは中庭方面へと、歩みを進めることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます