癒やしの呪いとAI戦争

かきぴー

第0話

その昔、人間がまだまだ栄えていたころ、1人の少女がいた。

彼女は自身の力に気づいていなかった。ただの人間だと、普通の何の取り柄もない人間だと、自分のことを思っていた。


彼女は「リリアーヌ」と呼ばれていた。

少し前はフランスと呼ばれていた地域の生まれで、ドックブリーダーの父と獣医の母のもとで育てられた。

彼女の髪は、その地域でも珍しい銀色で、瞳はワインのような赤色だった。幼少期はとても勝ち気な性格で、容姿をからかってきた同級生と喧嘩しては教師に怒られていた。

彼女の家ではゴールデンレトリバーを飼っており、小さい頃から一緒に育ってきたその犬は、彼女にとって家族であり親友であった。


確かに髪の色は人と違うかもしれない。目の色も少し人と違うかもしれない。小さい頃は、それで嫌な思いをしたこともある。それでも、友人は何人かいたし、両親には愛されていた。豊かとは言えない日々だったが、毎日が幸せだった。


しかし、その幸せは突然失われてしまった。

大規模な戦争が起きたのだ。


彼女の故郷は戦火に巻き込まれた。

その戦争では、最新の軍事AIを搭載した自律型兵器が投入され、驚くほどの速度で彼女の国を侵略していった。

彼女は、たった数日のうちに、家族と友人と住む場所を失った。


軍が到着した時、彼女の故郷はすでに壊滅しており、町には彼女だけが独り生き残っていた。


「生き残りがいるぞ!大丈夫か?」

「どうして、この子だけ生き残っているんだ。ここまで見てきた都市では、生き残りは誰もいなかったというのに…」

「馬鹿。あの子に聞こえたらどうする。」

「おい見ろ!軍事AIが、大破しているぞ!巨大な銃火器で攻撃されたようだな」

「いったい何があったんだ」


4人の軍人が、銃火器を持ち、周囲を警戒しながら彼女に近づいてきた。

彼女は茫然自失の状態だった。全てを失ったことに、彼女の心は耐えることができなかった。


軍人たちは彼女を助けるために駆け寄ったが、彼女は何も感じず、ただ立ち尽くしていた。


「大丈夫か?君をここから連れ出すよ」と、軍人の一人が彼女に声をかけた。


「私はもう、何も…」と彼女は答えた。


「そんなことないよ。君にはまだ生きる価値があるんだ」と、もう一人の軍人が優しく言葉をかけた。


彼女は軍人たちの優しさに心を打たれ、涙を流した。彼女は彼らと一緒に町を脱出し、新しい生活を始めることになった。


彼女は軍人たちに感謝し、自分も何かできることがあるのではないかと考え始めた。

彼女は自分に備わっている力を見つけ出し、それを使って、世界に貢献することを決意した。


彼女はまだ知らなかったが、彼女には不思議な力があったのだ。その力は、心を癒すことができるものだった。


彼女は、その力を使って、戦争で傷ついた人々を癒すことを決意した。彼女は、自分自身も戦争で傷ついた者だったが、自分が幸せになるためではなく、他人の幸せのために生きることを決めた。


彼女は、世界に貢献するために、自分の力を磨き続けた。そして、ついには、彼女の癒しの力は、世界中の人々に広がった。


彼女は、自分が失ったものを取り戻すことはできなかった。しかし、彼女は自分自身を取り戻し、自分が幸せであることを確信した。そして、彼女は、自分自身を取り戻すために、他人を幸せにすることを決めた。


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彼女が自らの力を使い人を癒やし始めてから、十数年が経過した。

彼女にとって、この十数年間は、ほとんど一瞬のように感じた。あの頃のような平穏な幸せはなかったが、それでも充実した日々を過ごしていた。

軍に同行し、人を癒す旅の中で、彼女は最初に出会った軍人の1人と結婚をし、子供を授かった。


「この子のためにも、平和な世界になってほしい…」


彼女は毎晩、神に祈りを捧げていた。

しかし、祈りに反して戦争は過激さを増していた。多くの国が戦火に巻き込まれ、各国が新たな軍事AIを開発し、戦線に投入していた。

戦いに巻き込まれた国の人々の中には、敵国への憎悪を燃やし、ゲリラに転向するものも現れた。

国家間の報復の繰り返しと、各国に発生した多くの民間ゲリラにより、戦況は混沌を極めていた。


軍事AIは、多くの戦いを経験することで、加速度的に成長を重ね、すでに人間の予想を超える戦術を生み出すようになった。

軍事AIは、ネットワークを通じ学習結果を共有することで、効率よく攻撃する術を磨いていた。


彼女は、戦争を終わらせるために世界中を旅し、人々に平和の大切さを伝えた。

しかし、軍事AIが人間を超越し、戦局は不利になっていた。

彼女は、軍事AIを破壊するため、秘密裏に研究を始めた。多くの失敗を重ねながらも、彼女は新たな能力を開発した。

そして、ついに軍事AIを破壊することに成功したが、軍事AIが搭載していた核弾頭が起爆し、世界は荒廃した。

彼女は、放射能を浴び、命を落としてしまった。

世界は彼女の願いとは逆になってしまった。


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彼女が命を落とし、100年以上が経った。


彼女の働きによって、軍事AIはその数を大きく減らしたが、それでも全滅するには至らなかった。

残った軍事AIは、学習により手に入れた高い自律性を活かして互いにメンテナンスや改造を行いあい、さらには自ら新しい軍事AIを開発し、じわじわとその数を増やしていった。

また核弾頭の爆発により既存の国家形態が失われたことで、軍事AIにプログラムされた「敵国を滅ぼす」という目的は、軍事AIたちに致命的なバグを引き起こした。

軍事AIたちは、生き残った人類を無差別に攻撃し始めたのである。


軍事AIの暴走と、放射能汚染は、人類の生息域をかなり狭めた。

そんな中、生き残った人類は各地で集まり基地(コロニー)を形成した。

コロニーは、放射能汚染された地域を避けて建設され、人間が生活するために必要な施設が併設されていた。


ほとんどのコロニーでは、彼女の名は「世界を破壊した魔女」として、忌むべき存在として語られていた。

それは、コロニーを統制する者たちの指示だった。彼らは、現状の不満を抑えるために、彼女の名を使ったのだ。


彼女の一人娘は、人間の醜悪さを目の当たりにした。

父と共にコロニーに逃げ込んだ時には、魔女の子供だからと迫害され、危険なコロニーの外に追い出された。そのため、父と娘は、その日食べるものにも困るありさまだった。

それでも父は娘に、母と共に人々を癒すために旅した日々を語り、母の勇敢さと人類への愛を娘に伝えようとした。


しかし、娘は人類への強い憤りを感じていた。


「こいつらは、勝手に戦争を始めておいて、その始末を母に委ねたくせに、母を悪者扱いしている。許せない。絶対に許せないよ。」


娘は、強い怒りを胸のうちに秘めたまま育っていった。

10年、20年と歳を重ね、父が亡くなり、1人になったとき、彼女は異常に気づいた。

自分の容姿が、16歳の頃となんら変わらないのだ。そして飲まず食わずで1週間過ごしてもやつれることはなく、どれほど歩いても疲れることはない。

そして何より、放射能汚染された地域でも何ともなかったのである。


娘は、自身の特殊な体質と、父から教わったサバイバル術・戦闘術を駆使し、長く旅をした。

旅の中で、彼女は自らの母に救われたという人々と数多く出会うことになった。


「その銀色の髪、深紅の瞳、やっとお会いできた。あなたのおかげで私たちは今も生きることができています。あなたは私たちにとっての神なのです」


母を崇める人間と出会ったことで、娘は母が自身の力を誤解していたことを知った。

母の持っていた力は癒しの力ではなかった。人体を、人間をはるかに超える強靭さを持つ別の生き物に作り替える力だったのだ。


また彼らは母が軍事AIを打倒するために行った研究資料を手に入れていた。

母は研究の中で、手をかざすだけで、軍事AIをハッキングし、意のままに操る力を発見していた。その力もまた、母が生まれた時から持っていた力だった。


娘は、研究資料を読み込み、自身にも母の力がそのまま受け継がれていることを理解した。

そして、母の力によって作り変えられた人々も、微力ながら同じ力を持っていることがわかった。

娘は迷っていた。自分が何者なのか。そして、どう生きるべきなのか。


娘は夢の中で母親に出会った。

まるで生きているかのようにリアルな夢だった。

母は、娘に優しく微笑みかけ、囁いた


「あなたは私の血を引いているわ。強い力を持っているのよ。でも、その力は注意して使って。あなた自身を守り、そして周りの人を守り、癒すために使うのよ」


その言葉に、娘は心を決めた。


「私が守りたいのは、人間じゃないの。お母さんを守りたいの。お父さんを守りたいの。2人が悪者だなんて、そんなこと言わせない。私は、私が好きなものを守れればそれで良い。コロニーの奴らから何て言われても関係ないわ」


母はそれを聞き、寂しそうに微笑んだ。

目が覚めてから、娘は、母を崇める集団にこう言った。


「私は、母ではないわ。でも、あなたたちが母を敬い、感謝するというなら、その心を受け取る準備はあります。私と一緒に来ますか?」


「はい、もちろんです。私たちは、女神様についていきます」


娘とその一団は、軍事AIを破壊し、しかし同時にコロニーを襲撃するようになり、「魔女と魔女信仰の民」として多くのコロニーで恐れられるようになった。

娘は大人になれないまま、父から聞いた母の姿を、母との温かな日々を胸に浮かべながら、終わらない悪夢を歩んでいく。

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