勇者のIF

第1話

これは1人の英雄のエンディング後の物語


10年前に仲間とともに魔王を倒し、14歳の王女と結婚するというありきたりな物語の後日譚である。




「勇者様。婿養子になったのですからいい加減臣民のために為政をふるってくださいまし。そのために毎年予算が決められているのですから」


王女の視線が冷たく刺さる。


「やっていたじゃないか。治安維持のためにギルドに討伐依頼をかけたり・・・」


自分は毎年決められた予算でギルドに討伐依頼をかけていたのだが最近は出現する魔物の数も少なくなってきたため実際には見回り費用と化していたのだが毎年すべて使い切っていた。


しかし王女はそれでも冷たい視線をやめない。


最近では自分への風当たりが本当にひどくなっている。


パーティーにも呼ばれなくなったので結婚生活は冷めきっているといっていい。


王女が20歳くらいまではよかったと思ってしまう。


最初の1年ほどは自分と仲間たちが出なくてはならないほど大変だった。


魔王を倒したことにより魔物たちの縄張り争いが起こってそれが連鎖した。そのせいで縄張りから追われたものが人里に現れた。


最初は弱い魔物が大挙として3日に一度のペースで押し寄せてきたため予算を使い切って討伐したのだがその後半年もしないうちに高レベルの魔物が出現した。


高レベルとなればさすがに自分たちが出るしかない。


出かけるときは王女は目をキラキラさせて見送ってくれていた。


2年目以降は自分が出る必要性こそなかったが討伐依頼を出して魔物の襲撃被害を減らしていた。


魔王討伐記念日には国王が演説し「魔王が倒れ、わが義理の息子の勇者がいる限りこの国は安泰である。今は苦しいが勇者が必ず討伐してくれるはずだ」と言っていた。


少し他力本願なところもあるが、ここまで持ち上げてくれるならいいかと思っていた。


しかし4年目には魔物たちも以前の勢いはなく2~3カ月に1度くらいになってきた。


そのため過去の記憶や恐怖や感謝といったものも薄くなっていった。


その年の記念日の演説では「4年前にあった凄惨な人的被害を乗り越え皆が一丸となってこの状況を作り出したのだ。魔物たちは少しづつではあるが少なくなってきてる」という内容だった。


自分への持ち上げがなくなり皆への持ち上げになっていることに違和感を覚えながらも日々を過ごしていた。


しかし次の年国王の政策で街道沿いに見張り台が建てられたため討伐依頼が必要なくなってしまったのだ。


しかも毎年5年間をかけて討伐して少なくしたため建築できるようになり、見張り台があるために魔物の襲撃をする前に討伐ができるようになったため街道周辺に魔物が出現しなくなっていた。


その年の演説ではついに魔王や魔物の話すら出さなくなった。そのころからだ。王女から何とかしてほしいといわれ始めたのは。


生まれながらの為政者の王や王女とは違い俺は持ち上げられて勇者といわれるようになったが元は村人だ。内政や外交なんてわかるわけがない。


仕事の内容だって自分がかかわっていたギルド関連が一番わかるのは当たり前の話だ。


それでも王女は何も教えてくれない。最近では結婚しないほうがよかったんじゃないか?と考えることが多くなった。






お茶を飲んでいた私は専属メイドのアンに話しかける。


「勇者様にはがんばっていただかないといけないのよ・・・」


「それは難しいかと・・・・もともと村人であるあの方が為政者の考えがわからないのは当然かと思います。」


「違うのよアン。私はその方面で考え方を改めてほしいのではないの。モンスターの生態や弱点。逆にモンスター同士の相性なんかでの考えをまとめてほしいのよ。」


「相性ですか?よろしければお聞かせください。」


私は少し考えて言う。


「例えば・・・・・トレント?でしたっけ?木のモンスターがいますよね?あれは魔法も使えないと聞いたことがあります。そのほかにも水の精霊?でしたわね?水属性の魔法攻撃しかできないという。それらを互いに争わせればそもそもこちらに向かってこないのではないかしら?」


「それは・・・・・そうかもしれませんね。でしたらなぜその考えを教えて差し上げないのですか?」


「私が言って実行してしまったらそれは私の手柄になってしまうもの。勇者様本人が考え付かなければならないの。私があの人に求めているのはそういった経験による知恵なの。」


最初は強いあの方に惹かれていた。でも私と結婚した以上それだけでは他国に対して示しがつかない。今はまだ父である王がいるから問題ないが譲位した時に大変なことになってしまう。


それを防ぐためにはあの方の確かな実績が必要なのだ。


「冷たい態度をとっているのも何とかしないとと思わせるためにやっているのだけれど・・・」


「魔王がいたころの姫様は勇者様の話が聞きたいといつも言っておられましたからね?」


アンが意地悪そうに茶化してくる。


「うぅ・・・・子供のころから専属メイドのあなた相手だとやりにくいったらないわ。」


「姫様のお気持ちはずっと聞かされておりましたので」


私は顔を真っ赤にしながらうつむいた。








数日後、勇者は城を飛び出した。仕事がなくなったギルドメンバーを引き連れて城の見渡せる丘に来ていた。


「もう一度、俺たちの権利を取り戻す!」




これは2人の思いがすれ違った結果、王家に対して反旗を翻してしまった悲劇の物語である。

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