【21】水滸拾遺伝~飛燕の脚 青龍の眼~(天蒸籠) 総評

【21】水滸拾遺伝~飛燕の脚 青龍の眼~(天蒸籠)

https://kakuyomu.jp/works/16818023212935889527


⬜️全体の感想


▷タイトルについて

水滸拾遺伝~飛燕の脚 青龍の眼~


よいと思います。

主役とヒロインの特徴を描いてると読めますし。


▷キャッチコピーについて

ラノベと本格の狭間を右往左往する中華武闘仙術ファンタジー


ラノベ方向の読者を獲得したいなら、まあありかな?



▷あらすじについて


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中国は北宋時代、梁山泊から野に下った少林拳の名手「浪子」燕青は、薊州の山中で偶然少女道士の祝四娘と出会い、彼女の護衛となって魔物祓いの旅に出る。二人はさまざまなトラブルに遭いながら、青州観山寺に巣くう魔物その他、弱きを助け悪しきをくじく旅を続ける。


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こっちだと思い切り本名出てますね。

燕青は水滸伝で見たような覚えが。どんなキャラか忘れましたけど。


>弱きを助け悪しきをくじく

くじいてたかなあ?

二人ともあまり正義の味方感はなかったですけど。

そう言う意味では、ちょっと首を傾げるあらすじではあります。



▷文章について


ラノベ寄りの文章ですが、評価が難しいところ。

全体的に甘い点が目立つのですが、時々よい表現があったり、リズムが取れていたりするので、あなどれない感じ。調子にばらつきがあるタイプなのかも。

表現力はまだまだですが、伝わらない場面はありませんでしたし、読みやすい文章ではあるので、そこは自信をもってよいかと。


普通、バトルシーンではもたつき、会話など日常シーンはちゃんと書ける人が多いのですが、天蒸籠さんは逆のパターンで、バトルの方が読めますね。かなり珍しいタイプだと思います。


私はバトル屋なので、バトルシーンについては事細かに突っ込みましたが、概ね悪くないと感じました。まあ読みや逆転要素がなく、展開が平坦ではありますが、まあ最初のバトルですし。バトルメインの小説でないなら、そこまで求めるものでもないかなと。個人的には物足りないですが、これくらいのバトルで済ませるプロも多いですし。


技名や専門用語など、細かく注釈を入れているのも評価高めです。

ただ、その分たまに抜けがあると目立つので、ぬかりないように。

そこさえ気を付けていれば、初心者でも十分読める程度にこなれた中華小説が書けていると思います。


あ、「小林拳」は、どういう種類の拳法なのかの解説があった方が、知らない人間でも雰囲気が感じられてよかった気がします。ながら感想で言い忘れてました。


改善点としては、やはりキャラのやりとりや台詞でしょうか。

もっさり感がきつく、テンポよく楽しめるとは到底言えません。

ラノベ方向の読者を伸ばすなら、そこの点の技術は重要だと思われるので、会話のテンポや地の文の挟み方、説明の省略などはもっと意識すべきかと。


次の段階としては、「読んで面白い文章」を目指すことですかね。

現状は「読みやすいがもっさり」なので、読みやすさをキープしたまま、スタイリッシュに進化するのが理想的。中華ファンタジーなので、中国的熟語や表現、擬音を取り入れてもいいかも。



▷ストーリーについて


一万字だと、初回のバトルのみで、ほとんどストーリーらしいものは進んでいませんが、それだけでも展開に疑問を感じる部分が幾つかあります。


>魔物について

魔物関連は謎展開が多すぎます。

魔物が棲みついた廟に盗品を隠したにも関わらず、盗賊が襲われていないのがまず謎。時間差があるのかと思いましたが、盗んだのは昨日ですし、魔物がそれ以後に住み着いたとは考えにくいので説明がつきません。


四娘は最初から「魔物退治に来た」と言っていますが、盗賊も小乙も揃って発言をスルー。対決後、廟に入っていく盗賊を止めもせず、魔物に食われた盗賊に四娘は「自業自得」と言う始末。作為があって無視されているとしか思えません。


ここら辺はキャラ造形(特に四娘)にも影響を及ぼすので、改善が必要な部分だと考えます。


>盗賊の処遇について

これはキャラにも被りますが、悪辣の限りを語る盗賊を倒した後、「面倒だから」という理由で放置するのは流石にどうかと思う展開です。結果的に魔物に食われるとはいえ、主役二人の判断で下がった好感度は戻りません。小乙が好漢として描かれている点からも乖離していて、求心力を著しく下げています。


単なる正義漢を外すためのキャラ付けかもしれませんが、主役二人のせめてどちらかは、読者の共感を得やすいポジションに置く方がよいかと。現状ではどちらも似たり寄ったりの倫理観で、差別化が出来ていません。


>話が平坦

バトルを挟んで物語が進んでいないとはいえ、展開がいかにもありがちで、捻りがありません。描写が淡白で感情の動きに乏しく、淡々と話が進むのも一因。

その意味でも、この先の物語に期待しにくいものがあります。序盤で作者の持ち味が発揮されてこそ、読者は続きが気になるものです。


話の中心にバトルを置くのはいいとして、盗賊との駆け引きの部分でもっとキャラの個性を発揮し、小乙と四娘の対比も織り交ぜて、万事解決と思いきや、魔物の出現によってブチ壊し……みたいな、一万字以内でも無理なく起伏をつけることは可能かと。魔物の設定とかはいじる必要があるかもですが、その価値はあると思います。



▷キャラについて

どちらも外見や雰囲気は悪くないですし、ちゃんとバトルもしているんですが、どうにも性格に魅力を感じません。

理由は説明した通り、盗賊の処遇で見られる倫理観のなさですかね。


小乙の方は脛に傷を持つようですし、無頼としてならアリなラインではあります。

ただ、それなら好漢として描くべきではないかと。


頭を下げて盗賊と和解を計ろうとした当初の姿勢は明らかに好漢のそれですし、武術で打倒し、四娘を救ったのもよいでしょう。ですがその後の対応、「人が死のうが直接関係しなければ別にいい」なら、それこそ「侠」がすたるのでは。このレベルの悪党を放置するのは、次の被害者を作るのと同義でしょう。もうちょっと愛嬌のある悪党キャラならいざ知らず。


四娘も同じで、最初は「人を殺す覚悟がない」キャラでしたが、助けられた後は「殺しちゃえ」ですし、魔物に食われた後の反応も冷淡で、情が感じられません。例えばこれが助けてやったにも関わらず、廟に逃げ込み反撃に出ようとしたところで魔物に食われた的な展開なら、この反応もやむなしと言えるのでしょうが。


キャラ的には可愛さとのギャップより、輪郭の不明瞭さ、つまりよくわからないキャラに感じられ、愛着を感じません。虫の入ったジュースみたいな感じです。


両方に言えることは、どちらも個性が明確になっておらず、年齢以外は似たような個性と言うことで、これではコンビを組む意味が乏しくなります。


個性付けとしては、例えば小乙は経験豊かで計算高い大人として、こういう場面でもクールに立ち回る=現状と同じキャラのままで、四娘の方は頭でっかちで夢見がちな、甘さの残る性格にした方が対比として面白くなるかなと。盗賊についても「殺すのも面倒」という小乙に対して、「役人を呼ぶから見張ってて」と四娘がゴネるとか。


もちろんやり方次第では逆パターンもあり。

要するに個性の違いが物語の起伏を生むということです。



▷アドバイス回答について

>ご意見を聞きたいところ

>①リアルな中華史にファンタジーを混ぜ込んだ作品ですが、

>中華史に興味関心のない方が読んだらどんな感じになるのか、というあたりがお聞きしたいです。

>(企画主様が中華史にお詳しいかどうかはわかりませんが)


細かな反応はながら感想を見ていただくとして、そこら辺はライトに描かれていて、説明も逐一入っていたので、不足はさして感じませんでした。まあ完全ではありませんでしたが。難を感じたのはむしろ物語やキャラづけの方ですかね。


>②そもそも「水滸伝」やら「陰陽五行」やら「道教仙術」やら、かなりニッチでマニアックな内容なのは自覚していますが、「ついていけない度」はどの程度なのか知りたいです。


まだそこまで本格的な部分が出ていないので、何ともですが。

一万字時点までなら、「ついていけない」ことはなかったです。少なくとも私は。


ただ懸念として、この小説は中華的な専門用語の難しさに加えて、中国拳法のバトルも扱っています。両方となるとついていけない読者が増える可能性はあると思いますね。まあ私のように両方興味ある読者も多いとは思いますが、当然片方だけしか読まないタイプも存在するでしょうから。


まあ、今くらいのバランスで書いていれば、そうそう振るい落とされる読者はいないという気はしますけどね。耐性ない人は手を出さないジャンルですし。



⬜️総評

・ライトな中華ファンタジー。注釈の細かさは評価。

・会話よりバトルの方が読める、珍しいタイプ。

・キャラの造詣や倫理観、ストーリーテリングに課題か


雑味のある中華スープみたいな感じでした。

読める部分と読むに堪えない部分が混在してるというか。

ある程度完成された世界観ながら、平凡すぎて起伏に乏しい物語。

意外性や驚きがこの先あるように思えず、求心力が低い点は要改善という気がします。長編なので次回作以降にでも。


バトルを真面目に書いている点は評価しますが、中国拳法は技名が難しいわりに単調で、メリハリが効かないのが難点ですよね。バーチャファイターの技が多すぎて、3D格ゲーを敬遠した過去を思い出しました。かっこいい技名は、ここぞという時に発揮したいものです。


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