【19】にんげんホイホイ(素通り寺(ストーリーテラー)旧三流F職人) 総評

【19】にんげんホイホイ(素通り寺(ストーリーテラー)旧三流F職人)

https://kakuyomu.jp/works/16817330661188819829


⬜️全体の感想


▷タイトルについて

>にんげんホイホイ


悩ましいところですが、あまり合ってない……気がします。

この話がコメディ中心で最後まで進むならこのタイトルでいいと思いますが、おそらくコメディ混じりで真面目な方向に進む予感がするので。

もしそうなれば、このタイトルだと逆に感動を邪魔してしまいそうです。

まあ、あくまで現時点の私の感覚ですけれど。


▷キャッチコピーについて

あるとき地球がこう思った。「そうだ人間を滅ぼそう」


こちらも二つの意味で「なし」と考えます。

一つは「ながら感想」で触れたように、既存有名作に似すぎていること。

読んだ人間なら確実にわかるタイプのものなので、少しでも違いを出す意味でも「地球」という言葉は避けるべきだと思います。内容が被っていないのに変な先入観を持たれては損ですし。


もう一つは、「地球」と限定することで読者の想像の枠が狭まり、かえって神秘性を減じていること。例えば宇宙人の侵略的な想像は消えるわけで。


以上二点から、「地球」を主語にする点については反対しておきます。

ただ、後者についてはこのイメージを逆利用して、物語の後半でどんでん返しするという壮大な伏線利用も考えられるので、その場合は多少アリかな、とは思います。



▷あらすじについて


────────────────


世界人類全員の前に一つづつ現れた『異世界への扉』。それはその人が思い描く理想の世界だった。ある者は誘惑に負け、別の者は現実に絶望し、またある者はいなくなった隣人や恋人の面影を求めて、次々とその扉へ身を投げる。


 まるでエサの誘惑に負けて、ゴキブリホイホイに入って行く虫のように。


 世界は、人類という存在を急速に失いつつあった。自制と理性によって誘惑を振り切った人々も、壊れた社会で生きていくことが出来ずに、やがてその中に身を投じてしまう。



 人間のほぼ居なくなったこの世界で、ある中年男性がひとりの少女と、そして少年と出会う。


 末期世界に生きる者達が、人の居なくなった世界で何を見るのか、理想の生き方と言うのは何かというのを問う、謎と奇跡に満ちたファンタジーストーリー。


────────────────



前半の説明はもうちょい詰めてもいい気はしますが、概ねよいかと。

後半は先の展望がほの見えて、展開に期待が持てます。


でも「ファンタジーストーリー」はかなり違う気が。

なんでしょうね、この作品のジャンル。

私なら「ポスト・アポカリプス・ストーリー」とかにしますかね。

ありがちかもしれませんが。



▷文章について


けして上手いわけではない、こなれた感じもないのですが、実に的確でリーダビリティの高い文章だと思いました。上手く見せようとしている文章より、その意味ではよほどレベルが高いです。


この企画では「読者の望む情報を先回りして出せ」と再三に渡り繰り返していますが、現時点では今作が一番、情報開示が上手かったです。小姑のようにいやらしい私が窓のさんを指で拭いても、チリ一つないという屈辱。いや、たいしたものだと思います。まあ多少は突っ込みましたが。


また、作中でこまめに差し込まれたユーモアのセンスもよく、何度もくすりとさせられました。こういったジョークも基礎の文章力あればこそで、その点から見ても高く評価すべきだと思います。


逆に何故、基本的な文章ルールを無視したり、三人称jからいきなり一人称に変わったり、ぐにゃぐにゃな悪文が混ざったりするのか。

せっかく筋がよいのに勿体ないので、この手の悪癖はさっさと改善すべきです。センスを身に着けるより、よほど早く直せるはずですから。


内容について気になった表現としては、「窓」と「画面」の使い方。

わりとその場の感覚で使い分けている感じですが、今作の根幹となる現象なので、固有名詞として一つに定めた方がよいと思います。途中の経緯で変化していくのは仕方ないにせよ。まあ「画面」も「窓」もよいところがあって悩ましいですが。


▷ストーリーについて


大変よいと思います。

平和な日常に世界的な現象が発生し、滅亡の危機に瀕する──のは定番ネタではありますが「望む世界に繋がる窓」という設定はありそうでなかったもので、少なくとも私は他で知りません。


とくに評価したいのは、ワンアイデアではなく、その周囲の固め方ですね。

移動後に小窓が残り中が見える設定、夢のような「窓の向こう」の丁寧な描写、それに対比される、残された側のリアリティあふれる生活感。

特に主人公の中年男性らしい思考や父親としての愛情、それでも逞しく生きる姿などは、同じおっさんとして共感もひとしおでした。行動原理に無理がなく、全て納得のいく流れになっている点も評価が高いです。


「理想の世界」への扉が開くという現象は、キリスト教の終末論にも類似性が感じられ、宗教学的にも色々考察できそうなネタで、大変興味深いです。個人の自由と社会性の欠如という近代社会の抱える問題、少子化問題なんかも含めて語れそう。現象はシンプルにして奥が深い、大変価値ある鉱脈だと見ます。

まあ、作品としての評価は最後まで読まないと下せませんが、この鉱脈からどんな宝石が生まれるのか、期待してしまいますね。


とまあ、ストーリー面はほぼベタ褒めなのですが、唯一気になった点は、「窓」の砂嵐画面。他人には見えないという設定です。


これについては、私なら「他人にも見える」方を明確に選ぶと思います。

理由は幾つかありますが、まず作品として転がしやすいこと。

画面が小さくなった後、いきなり中が見えるようになることへの整合性。

中身が見えて困る展開もあるでしょうが、そこら辺は序盤のように、何かしらでフタをして隠せばいいのです。


この先の展開を私は知らないので勝手に想像するなら、例えば自分の欲望を人に見せて恥じない人間や、他人のモニタをうっかり見てしまう展開、「他人の画面に入れるのか」という試み、他人と自分の理想が同じになったら中の世界は繋がるのか……などなど。物語を膨らませる意味では、こちらの方が広げやすいと考えますかね。



▷キャラについて

取り立てて魅力的でも個性的でもないですが、ひたすらにリアリティがあって、そこがいい感じですね。

主人公はもちろん妻のキャラも地味に立っているなあと思いました。


この手の現実路線の物語では、とくに主人公への共感が求められますが、そこはしっかりクリアされていて、安心して読むことが出来ました。



▷アドバイス回答について

>・特に意見が聞きたい部分:冒頭の1万文字ほどで読者を引き付け「続きが読みたい」と思わせる事が出来ているかどうか


求心力はかなり高いと感じました。

とくに三話の引きは強力で、続きが気になります。

おそらく企画が終わった後で、読みにいくと思います。



⬜️総評

・「理想の世界に繋がる窓」というアイデアと脇固めが秀逸。

・ほつれはあるも文章力を評価。特にリーダビリティに優れる。

・料理次第では傑作になるかも。



おお。我ながら意外なほど絶賛していますが、本音なのでよし!

続きが気になるという意味では、今回では一番かもしれません。

物語の導入としては、十二分に役目を果たしているかと。

これで最終回まで面白く書かれていれば大絶賛なのですが、果たして。

それはまあ、最後まで読んで判断させていただきましょうか。

長編とは言え、完結はされてるようですし。


おっさんのツボを押さえた逸品。ひとまず絶賛しておきます。


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