【17】重清狸ばなし(野栗) 読みながら感想
【17】重清狸ばなし(野栗)
https://kakuyomu.jp/works/16818093076031341123
十七番目の参加者は、野栗さん。
作品は「重清狸ばなし」です。
野栗さんは文学・児童文学に造詣の深い方で、徳島と狸に並々ならぬ思い入れがおありです。去年より続けてのご参加ですが、当然のように去年も徳島で狸の話でした。コメントでもぴょこぴょこ狸が見え隠れするのが特徴です。もしかするとご本人も狸かもしれません。
狸ではありますが、野栗さんは当企画に数名存在する、「梶野より上手い人」です。ジャンルは畑違いでも読めば一目瞭然。好みがどうこうの言い訳の余地すらありません。
確かな文章力を下地にあえて抜いて書く、その脱力加減が絶妙で、昨年の参加作もベタ褒めでした。
https://kakuyomu.jp/works/16817330654869504941/episodes/16817330661478773912
あまりに差があるので、もう来られることはないかと思ってたくらいでしたが、今年は別のお悩みを抱えてのご参加とのこと。
まずは参加コメントを見てみましょう。
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ご無沙汰しております。昨秋お世話になりました野栗です。
パンツァーのくせに無謀にも長編小説(以下の作品)に初挑戦したあげく、第二部(未公開)の途中で無様にも頓挫しております。お恥ずかしい限りです(/ω\)
・作品名 『重清狸ばなし』
https://kakuyomu.jp/works/16818093076031341123
・特に意見が聞きたい部分。
行き当たりばったりで書き散らした挙句、恥ずかしながら目下お手上げ状態です(/ω\)。自分で気づいた部分についてはすでに補筆・訂正をしましたが、気づかない部分で相当数の問題点があると思います。主人公の狸はもう、ギタギタに刻まれて狸汁にされる覚悟を決めております。頂門の一針よろしくお願い申し上げます。
・「梶野ならこう書く」具体的なアドバイスが欲しいか。
ぜひ! よろしくお願い申し上げます。
・学生(中高生以下)かどうか。オブラート増量します。
社会人です。狸汁にしてくださいm(__)m
*長編ですので、可能な範囲でよろしくお願い申し上げます。
*二回目ですので、初めての方を優先して下さい。
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ふううむ。昨年の完成度を考えると、にわかに信じ難い話ではありますが、どんな凄い人でも得手不得手はありますからね。長編初挑戦で勘が狂ったのかも。
作品は現在六万字超でストップされてるようです。
一万字読んで全体の問題が解決できるとはあまり思えませんが、何かしら読み取れるものはあるかもしれません。とりあえず導入の是非から、物語の展望と期待なんかを確かめていきましょうか。
いつも以上に緊張しつつ、「じっくり感想」を始めたいと思います。
⬜️読みながら感想
二読後の感想を、読みながら書きます。(第3話まで)
ベテランなので文章チェックは辛めです。いちいち褒めません。
>第1話 谷一ミヨ
>阿波池田発の汽車が
阿波なので、今回も徳島が舞台のようですね……と思ったらすぐ徳島駅が出てきたw
汽車ということは現代より前の話と思いましたが、すぐ「半自動」とあるので、大義の電車のようです。
>セーラー服姿のおミヨは大きなボストンバッグを肩に担ぎ、どんぐり眼をぱちくりさせながら一番最後に改札を通った。
「どんぐり眼」という特徴一つで、およそキャラ付けが完成されてるのは上手いですね。狸の正体ともマッチしてますし。
>跨線橋の赤茶色い階段をゆっくり登って徳島城公園の中に入り、噴水広場を抜けて鷲の門をくぐった。
ここらへん、徳島の人なら情景が浮かぶのでしょうが大半の読者はそうではないので、ワンポイントくらい描写が欲しいところ。
>「ヒプノサロンいせき」
遺跡……いや店名かな?
催眠療法のサロンみたいなお店?
>ボストンバッグが足元に落ちる。
> ――!
ぶつかりかけて驚いたから尻尾が出たんですかね。
それともバッグを落としたから?
別にさしたる違いはないのですが、わかりづらかったので一応。
>おミヨは素早く左右を確かめると、大急ぎでボストンバッグを後ろ手に持って尻を隠し、はみ出た狸の尻尾を引っ込めた。
このエピソードを活かすなら、電車の場面で狸だと明かさないほうがよいかと。
読者的には「それはもう聞いた」な展開になってるので。
この作業、狸の姿のままではどもならんので、いつも人間の作業員に化けて行っている。
何故タヌキが枝打ちを……とか思いましたが、手入れしないと山が荒れるとか聞いたことありますね。山の住人なら当然のお仕事、なのか?
>一番最後に木から降りてきたおミヨは、とっさに足元の石を拾うと、猪に向かって投げつけた。
> 石は猪のすぐそばを掠めた。
> なんだと? やる気か?
> 猪は一瞬で方向転換し、今度はおミヨめがけて猛進してきた。
> 次の瞬間、おミヨの身体が宙を舞った。
ここのアクションシーンはいまいち。
もっとコミカル、かつ主人公の性格を出せそうかと。私ならそうですねー。
[一番最後に木から降りようとしたおミヨは、木の上で待てばよいのに、下の大騒ぎに気が付かぬまま、ひょいと飛び降りてしまった。
折しも、そこに猪の猛突進。
次の瞬間、おミヨの身体が宙に舞った。]
みたいに書きます。おミヨの呑気な性格のアピールですね。野球ネタを使うとかでもいいかも。
>江口の潜水橋を渡って吉野川を越え、そのまま対岸の三木病院におミヨを担ぎ込んだ。
ここらへんのスピード感は好き。
>「おミヨ、治り切る前に狸に戻ってしもうたら、傷が余計におかしいなってまうけんな」
変なリアリティがあって面白いw
>「うちは一応産婦人科で、外科の看板も出しとるけど、ここで開業した以上、そんなん言うてられへんけんなあ。虫下しも処方するわ眼医者の真似事もするわ、じゃ。ほなけんど、ヤマの化狸の外科手術やかしわしも初めてじゃわ」
この病院というか医者はタヌキだとわかってるんてすね。まあ地元の人間ですもんね。
>おとこ衆に化けること自体は、おミヨは二年半タチノー野球部で、練習や試合のたびに高野連の注文通り丸坊主の高校球児に化け続けたりして、それはもう赤子の手をひねりながら冷めたおみいさんをするする食べるようなもんだった。
ここは文を分けたほうが読みやすいかと。
>第一、作業してへん作業員のおっさん、ってホンマ何なん?
ちょっとクスッときました。
>「ウチはホンマは東京の大富豪の御曹司じゃ。あと三年もしたら執事がお父様の跡を継ぐ時が来ました言うて、大おっきい外車で徳島まで迎えに来るんじゃ」
なんか変化が変わってきそうな……w
>しかし、残念なことに左足に少し後遺症が残ってしもうた。
> 学校に復帰したのは卒業を間近に控えた二月末。
> この足では山仕事は到底無理だ。
これはリハビリすれば治るようなものでなく、一生ものの障害ということですかね。仕事決めてるし。
そこら辺は言及があった方が確実かも。
>第2話 井関海四
>「ここから上がり! みっちゃん」
初対面?にしてはえらいフランク。
>ここは徳島市内のヒプノセラピーサロンで、お客の前世を見る仕事なんやけど
催眠療法より壮大だった。
>おミヨは耳をぴょこりと動かして即答した
「ぴょこり」が可愛い。
>がらんとした駅の待合室で就職の面接に臨んだ
これ、徳島だと普通なんですかね?
普通は学校まで呼びそうなもんですが。
あ、狸ばかりで人間は入れないから?
>「はじめまして! ヒプノサロンいせきの井関海四いせきみよんと申します」
ふむふむ。ここで面識あったんですね。
名前が個性的……でも狸ではなくやはり人間ぽい。二人とも化けてるし。
ということは、正体を隠しての就活?
>火の気のない待合室の空気が、ふんわりと温かくなった。
何気ない、こういう表現に非凡さを感じますねー。
>まだ春先なのに、夏風のように爽やかな香りがかすかに鼻先をくすぐった。
逆にこっちはやや違和感。
夏風が爽やかなのはわかるとして、それは香りなんですかね。感覚的には嗅覚より触覚な気が。いや狸の鼻なら感じ取れるのかな?
>おとんぼの私が海四
命名がすごいより、そこまでして海にこだわる理由が知りたいw
あと「おとんぼ」は初耳でした。私は関西ですが大阪では聞かない方言かも。勉強になる。
>化学ばけがくの時間に習った変化へんげ術や神通力をなにかテストされるのかと思っていたが、拍子抜けするくらいあっさりと採用が決まった。
結局、海四はミヨが狸だと知って採用したのかどうかはわからず終い。
まあこちらは追ってわかればよいとして、ミヨ側はどう考えているのか説明が欲しいところ。海四が人間である点(ですよね?)も含めて。
>娘十八番茶もなんとか
「娘十八番茶も出花」。久しぶりに見ました。
>しわしわ行きや
これも初耳方言ですが、「ゆっくり」か「気を付けて」くらいですかね。およそ意味は想像できるのでよし。
>普通の人間にはわからない動物――化狸の気配を、海四ははっきりと感じ取った。
あれ? 海四、実は狸?
いや「普通の人間でない」だけかな……どっち?
……そういえば前に、西阿そらの方に狸の学校があるという話を小耳に挟んだことがある。
やはり狸なのかな?
いやでも普通でなければ聞くこともあるのか……?
>中でも海四の目を引いたのは、センターを守るどんぐり眼の選手だった。
ああ、ここでミヨを見たわけですね。
>ヒプノセラピーいせきのクライアントは女性限定で、一日に多くて午前、午後、夜間の時間帯にそれぞれ一名ずつしかとらず、セラピー料も他のサロンに比べ決して高くはない。当然収入は大したことなく、人を雇う余裕などどこにもないはずだった。
セラピーの平均的な値段がわかりませんが、一日三人の客で食えるもんですか?
いやでも、占い師とかもそんなくらいの客数なのかな……?
>それでも時折、一筋縄ではいかぬ過去世をもつ者が訪れてくることがあり、海四は一人で全てを回すことに限界を感じはじめていた。
セラピー自体が困難ということに思えますが、素人のミヨを雇って、そちらの手助けになるんですかね。雑用はともかく。
>この間海四は店先にセラピスト募集のポスターを貼ったり、職安に求人を出して何度か面接もしたが、なかなかこれといった人は見つからなかった。
そちゃまあ、前世を見る仕事が手伝える人間はそういないかと。
しかしこの探し方を見るに、海四は人間にも見えてきますね。ううん?
>そや、太刀野山農林高校に求人を出してみよう、人間にこだわる必要などどこにもないでないで。
ここを見ると、海四さん人間で間違いなさそうですかね。
狸ならまず狸に求人出しそうだし。
>この子や!
理由は全然わかりませんが、まあそういう時もありますかね。
>全身をふわりと包み込んだえもいわれぬ温かさだけだった。
ここはミヨ側の出会い目線との対比ですね。
まあ「運命的出会い」というやつかな。
>第3話 おミヨの過去世
>右隣の寿司屋の女将さんが店先に打ち水をはじめ、左隣のレンタカー屋では大奥さんがシャッターを押し上げる。
田舎の商店街的風景。
>海四は指をパチンと弾いた。同時に、過去世を確認するビジョンを開いた。小さなテレビ画面のようなものが、クライアントの頭のすぐ上に浮き上がるようにあらわれた。
なんか異世界転生ぽい画面が出て来た!
水晶玉の意味とは一体……
>ただの人間ができる技ではない。化学ばけがくの時間に先生が、人間の中にも、数は少ないが狸に勝るとも劣らぬ能力を備えた者がいる、と話していたことをおミヨはありありと思い出していた。
ここで人間確定ですかね。
長く引っ張る必要はないので、もっと早く説明があるべき。
>すっきりした表情で店を出るクライアントを見送ると、海四とおミヨはハーブの香りの残る二階のセラピー室に戻った。
あれ、ここは略すんです?
前世を見せて、どんな風に客を癒すのか知りたいところですし、それを初めてミヨが見るシーンも含めて、楽しめそうなのに。
>「何て言うたらええか……こう、胸がきゅっとなる、いうか……」
そんな説明ではわかりませぬ。
>「たしかに、世間では前世療法いう言葉の方がポピュラーなんやけど、ヒプノセラピー、過去世退行催眠はあくまでも病気を治すわけではないんよ。みっちゃん、療法いう言葉、うちは使わんようにしとるんよ」
ここは説明が一足飛びになってる感じ。
確かに前世療法という名前は聞いたことがあります。
でも詳細はろくに知らないので、まずそこから説明なり具体例なりを読者に教えた上で、この説明があるべきかと。
例えば省いた部分が仔細描かれていれば、この説明もすとんと落ちるはず。
>「その通りや。うちらセラピストの役割は、クライアントの話に耳を傾けて、過去世への扉を開いて、過去世を知る手伝いをするだけなんや。ほなけん、過去世の記憶を支えにしながら、壁を突き破って乗り越えていくのはクライアント自身なんや。うちはそない考えてるんじょ」
まあこの理屈はわかるのですが、だとすると「難しい客」の意味がわかりづらい。「治すのが難しい」と思っていたので。
>「さっき見たように、ほとんどは今日みたいな感じなんやけど、中にはかなりしんどい過去世を抱えておられるクライアントもおってな……その時はみっちゃん、頼むで」
これがその説明だと思いますが、はっきり言ってよくわかりません。
過去世を変えられるわけでもないですし、見せるのを止めて落ち着かせるくらいしか思いつかないんですが。ミヨが何を求められ、何が出来るんでしょう。狸の能力で、とは思いますが、面接で調べもしなかったし。いまいち伝わりません。
>海四はハーブティーのポットとカップを盆にのせて立ち上がった。
なんか盛り上がらないうちに話が終わってしまった。
>「ウチのですか? あはは、もと野球部の狸の過去世なんか、おもっしょいことひとっつもないですよ」
ここでようやく「海四に正体を知られていることをミヨも知ってる」ことが確定。
海四視点では説明ありましたけど、こちらはなかったので。
この辺りは「海四が人間かどうか」も含めて、もっと早く説明欲しいです。
>「あんた野球部やったの? マネージャー?」
>あ……この子……間違いない、あの時の子や。
あれ、気付いてなかったんです?
二話で「この子や!」と言ってたから、てっきりそれで採用したんだと。
>海四は押し入れから古びた行李を出すと、
微妙なとこですが、「行李(こうり)」は私ならルビ振るかと。
若い読者だと知らなそうですから。
>徳島本町に来て初めて元の姿になった。
>タオルケットの上に横になると、この間の緊張が一気に解けていった。
狸であることを互いに認識してるなら、寝るときくらい変身を解いてもいいのに、とかは思います。社会人のストレスを身近に感じさせる場面ではあるんですが。
>階の店の時計がボーン、ボーンと2つ打った。海四がゆっくりと身体を起こすと、おミヨも行李から顔を覗かせた。冷めたハーブティーの残りをふたりですすると、海四は「みっちゃん、行くか」と声を掛けた。
うん? このお昼寝を挟んだ意味は?
>目をつぶって、目の奥の方をよう見てね
意味不明なんですが、何だかわかる気がする説明。深い。
>墨痕淋漓と
「ぼっこんりんり」。これはルビ必須。
「筆で書いた墨の跡がみずみずしく鮮やかである様子を表す四字熟語」なんですね。勉強になります。
>「必勝蜂須賀商業學校」
もしや実在するのかと思いましたが、調べても引っ掛からず。
蜂須賀は徳島由来の名前のようなので、創作の学校ですかね。
>「加納! 加納!」
これは前世のミヨの名前ですかね。
とすると、前世は人間だったというですか?
それとも現代同様、狸が化けて試合をしている状態?
>みっちゃんはきれいなべべ着たお姫様の方がよかったんかいな?
ここなんかもそうですが、狸の前世が人間だったことって、彼らにとっては驚きとかないんでしょうか。いたって普通に受け止めているのが意外ですし、憧れが人間の前世というのも不思議ではあります。まあこれだけ人間と距離が近いと、人間的な感覚が強いと言われればそうかもですが……
狸としてのアイデンティティというか。そこら辺はどうなんでしょうかね?
この物語の狸的には。
>――美馬農林です。
これもありそうでない架空の学校ぽい。
>「みっちゃん、少し前……美馬農林に入った頃あたりに戻ろうか」
さらに過去にさかのぼる感じですかね。
ううむ、この話はどこに向かっているのか……?
というところで三話終了です。
一応四話も目を通しましたが、感想を書くならここまでで十分と判断。
総評に移ります。
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