【17】重清狸ばなし(野栗) 総評
【17】重清狸ばなし(野栗)
https://kakuyomu.jp/works/16818093076031341123
⬜️全体の感想
▷タイトルについて
>重清狸ばなし
途中までなので評価は難しいですが、ざっと各タイトルを見るに、いろんな狸の話がオムニバス的に続く感じですかね? それなら合っているかと。
▷キャッチコピーについて
>妄想有理⚾妄想無罪
「造反有理」「愛国無罪」のパロディですかね。
野球が絡むのでボールはわかるとして、妄想はなんだろう。ヒプノセラピーのこと?
掴みどころがないですが、何となく雰囲気は感じます。
▷あらすじについて
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徳島市内のヒプノセラピーサロンで繰り広げられる、狸球児おミヨの過去世の旅程。
野栗のニッチな妄想が炸裂、設定・ストーリーが現世と過去世の間を激しくダッチロール! どこに着陸するのか、そもそも無事に着陸ができるのか、野栗自身もわからん状態です。
エタらせんよう頑張ります🐾
ほな、眉に唾をタップリ塗ってご覧下さい。
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注釈は長文なので割愛。
このあらすじは最後に読んだんですが、「そんな話だったの!」感がすごいです。
てっきりヒプノセラピーに就職した新人狸の話かと思ってました。一万字ほぼそれに費やされてますし。
キャッチコピーの「妄想」もようやく理解。
作者の「妄想」って意味だったんですね。自虐ネタだったとは……
しかしこのあらすじを見るに、内容はミヨ(の前世)が中心になるようですね。
タイトルからイメージしてたものと全然違いました。
ううーん。これは改めて評価を考え直さねば。
▷文章について
文章は相変わらず絶品です。語り口にユーモアを乗せつつ、流れるように読ませるのは流石の一言。語彙も豊富で、今回も勉強させていただきました。
ただ、前作に比べて、突っ込みどころはやや多い印象があります。
>徳島の地名について
ご当地感覚は野栗さんの持ち味なのでそれはよいとして、固有名詞ばかり並ぶ情景描写は徳島を知らない人間には、いまいち味気なく感じます。せめて何か一点、特徴的な風景描写なりエピソードなりがあった方が想像が膨らませやすいかと。徳島愛好家のみを読者と考えておられるなら話は別ですが。
地名から検索してもらいたい、という狙いもあるかもしれませんが、まずもって魅力が伝わらなければ、その手の好奇心も刺激されません。
>海四とミヨの正体と認識
ながら感想で指摘した通り、「海四は人間か狸か」は結構先まで確定されず、もやもやが続きます。ここは特に隠して意味があるとも思えないので、登場時に明記すべきかと。ミヨは教えられているはずですし。
同じく、「海四に狸だと知られている前提でミヨは就職したのか」という点も三話まで確定しません。
野球部や作業員に化ける辺り、正体を隠して人の社会に参加するのが狸の風習のようなので、双方がどういう認識でいるのか、明記されないと読者にはわかりません。海四が正体を知っていても、ミヨ側はうまく騙せていると思っているかもしれないわけで。ここら辺は面接時などに一言説明があれば話が早いと思います。
大きくは以上二点でしょうか。
後者については、長編だと短編よりしっかりした説明が必要です。足場固めといいますか、大きな建造物の基礎というか。
人間関係もそうで、大元の関係の説明がないままだと、会話を読んでも解釈がぶれがちになります。隠す必要のない情報は積極的に開示していくべきかと。
▷ストーリーについて
ううーん。率直に言って、強い魅力に欠けると思いました。
「高級米を炊き上げたご飯だけ弁当」みたいな感じです。
上手いけど美味くはないというか。飽きが早いというか。刺激に乏しいというか。
私はエンタメ畑なので、あくまでその舌感覚ですし、文学ならこれくらいの薄味が上品なのかもしれません。ともあれ少なくとも私の基準では、はっきりと物足りなさを感じました。
一万字読んで続きが気にならないのが証左で、その時点で長編の導入としては失敗しています。この先、どんな面白い展開が待っていたとしても、一万字で期待を持たせられなければ砂塵の楼閣でしょう。そういう意味でも「ご飯だけ弁当」で、物語の方向性やどう楽しめばいいかの示唆が、導入部に含まれていない、もしくは読み取れないんです。
そりゃミヨや狸は愛らしいですし、徳島ののどかな雰囲気に満ちてはいます。
細々したエピソードも添えられています。
でもそれではメインのおかずにはならず、弁当箱いっぱいの白米は完食はできません。
物語の起伏や心に来る場面、大がかりギャグやしんみりしたペーソスなんかが、一口でいいので欲しいところです。
改善案を考えてみましたが、全体の構成がわからないので難しいところですね。
せめて野栗さんの書きたい方向性がわかれば、それに即した導入部を考えるくらいは出来そうなんですが。行先がわからないのにロードマップは描けません。
あらすじを見ても、「徳島市内のヒプノセラピーサロンで繰り広げられる、狸球児おミヨの過去世の旅程」と掴みどころがありませんからねえ。
ただまあ、一万字分を面白く、楽しく改善するという部分については、幾つか案を出してみました。見当違いだったら申し訳ないですが、エンタメ方向のテコ入れとして読んでいただければ。
>白米は「おにぎり」にする
「ご飯だけ弁当」の何が嫌かと言うと、区切りがないことです。
そこで、物語を複数の「おにぎり」だと捉えてみてはどうでしょう?
つまり一つの長編ではなく、連続する短編小説だと捉えて、起伏を設ける。
各話ごとに満足度を高めれば、読者は「もう一つ」と手を伸ばします。いうなればストーリー漫画でなく、四コマ漫画を意識する感じ。
こうすれば一話ごとのメリハリもつきますし、気持ち的に読みやすくもなります。
一話三千字として、私ならおにぎり三つで考えますかね。
満足度については、次の「具を入れよう」で説明。
>具を入れよう
塩おにぎりが好きな人もいますが、たくさん食べるとなると具が欲しくなりますよね。出来れば一つごと違った味で、食べ比べが出来れば理想的。次はどんな味が入っているのか、食べる手が止まらなくなります。
小説もこれと同じで、小さな満足を重ねてこそ長編を読めるものだと私は考えます。
今作のエピソードはそこが弱く、過去語りやユーモアやはあっても塩止まりで、具とまでは言えません。ここを強化して、一話ごとの満足度を上げるのが一番の早道ですし、野栗さんの作風にも向いているのでは? と思います。
私ならこんな具を入れる、を列記してみますね。
>一話
・猪に襲われる場面で、ミヨが大活躍。
・野球のスキルを活かして大立ち回りを演じ、仲間の狸たちを助ける。
・おとぼけアクションが「具」。
・その後の経緯やサロンまでの道中描写は最低限に絞る。
>二話
・海四がミヨを雇った経緯など、過去エピソードはもっと後回し。
・店の雰囲気や仕事、海四の人物像の描写はそのまま。
・ミヨが海四について、学校から教えてもらっていない設定。
相手が人間か狸か別の何かかわからず、自分を狸だと知ってるかもわからない。
正体がバレないよう、ミヨなりに探りを入れるおとぼけミステリ展開。
・盛り上げるだけ盛り上げて、あっさりと真相がわかる。
>三話
・初めての客の部分を失くし、研修としてミヨの過去世を見るところから。
・四話の内容は十分具になる内容。
・なので四話の過去世の一番盛り上がる部分を三話に繰り上げ。
引きの強い「具」に仕立て、四話につなぐ求心力にする。
ざっと考えた感じ、こんなところ。
ちなみに後の展開は知らないので、あくまで三話までの改善案です。
文字数が足りるかが問題ですが、野栗さんの文章力なら多少増えても読むのは苦にならないと思います。
▷キャラについて
ミヨも海四も味があって、大変よいかと思います。
このローカルなおとぼけ感は野栗さん最大の持ち味ですし、そこは今作でもいかんなく発揮されているかと。
ただ、二人とものんびりした気性なので、刺激にはやや乏しいとは思います。長編を飽きさせず読ませるなら、そこら辺を補ってくれるキャラや、ウィットの効いた会話が出せる個性が必要になって来るのでは、とは思われます。
▷アドバイス回答について
>・特に意見が聞きたい部分。
> 行き当たりばったりで書き散らした挙句、恥ずかしながら目下お手上げ状態です(/ω\)。自分で気づいた部分についてはすでに補筆・訂正をしましたが、気づかない部分で相当数の問題点があると思います。主人公の狸はもう、ギタギタに刻まれて狸汁にされる覚悟を決めております。頂門の一針よろしくお願い申し上げます。
あくまでエンタメ派の観点からですが、ストーリーにて指摘させていただきました。
「おにぎり」にすれば、どこに転がっても美味しく食べられませんかね。おにぎりだけに。
野栗さんの呑気な持ち味を生かしつつ、もう少しだけ味噌なり醤油なりを一滴たらせば、評価はぐんと違ってくる気がします。炊いた米は最高なんですから。
⬜️総評
・「ご飯だけ弁当」な感じ。「上手いけど美味くない」
・文章は一級品。足りないのは刺激と方向性。
・「おにぎり」にして、「具」を入れてみてはどうか。
がっつり狸汁にしてしまいました。すみません。
一話目は作品の名刺のようなものなので、そこで社名(方向性)が読めないのは困ります。今作がどこに向かうのか、あるいはダッチロールが売りなのか。そこら辺が読者に伝わるような内容なり書式を考えてみてはどうでしょう。
おにぎり形式なら「ああ、具替わりで色々出てくるんだな」と伝わりますから。
完成度は前回の方が高かったですが、ある意味安心しました。
あのレベルを毎回持って来られても、「すごい!」しか書くことないですからw
未熟者の感想ではありますが、何かしら停滞した筆の後押しになれば幸いです。
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