【16】魔女の病(小豆沢さくた) 総評
【16】魔女の病(小豆沢さくた)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888453714
⬜️全体の感想
▷タイトルについて
>魔女の病
半分くらい読みましたが、まだタイトルの真意は見えてこないので、判断は保留。雰囲気は良し。
▷キャッチコピーについて
>魔女はね、隠し事はしても嘘はつかないのさ
これも前半で登場するも、さしたる意味はなかったので保留。後半でテーマを象徴することに期待。
▷あらすじについて
────────────────
触れただけでどんな病気も怪我も治すと謳われている「幻の花」には、イムという小さな妖精が宿っていた。
人間の百倍の寿命を生きる魔女のローエは、どうしてもその花を手に入れたかったが、イムにすげなく断られてしまう。
『ねえ、じゃあ、こういうのはどう?』
しかしローエは、イムからある取り引きを持ちかけられる。
❃ ❃ ❃
「お願いします、魔女さん! おばあちゃんの病気を治して!」
森で偶然出会った少年ジュヌは、涙ながらにローエに訴えた。
「魔女さんなら、なんでも治せるんでしょう!?」
────────────────
あらすじはいまいち。
同じ前半をまとめる内容にせよ、もっと簡潔にして、後半の引きを匂わせるようなものが相応しいと思います。とくにキャラ同士のやりとりは不必要かと。
読者は「この物語の行き先」を知りたいのです。
話の方向性を示し、興味を煽り、作者がどんな思いでこの小説を書いたのかが仄かに伝わるように書いてみてはどうでしょう。
▷文章について
誤字脱字もなく、文章ルールに則った正統派ですね。全体的に丁寧かつ的確で、好印象。滑らかな筆致で、一万字オーバーを軽く忘れて読んでしまいました。
派手さこそありませんが、ファンタジカルな描写は凝っているのも魅力。特にイムの外見や仕草については「おっ」と感じることが何度もありました。ファンタジー小説を書く上で、この表現力は強みだと思います。
一つだけ疑問があるとすれば、時折混ざるゲーム的な言葉遣いですかね。「体力回復」などの用語は、本作の童話的な雰囲気にそぐわず、世界観がぼやける原因になります。この言葉でなければ表現できないものでもないので、使う言葉を選ぶべきかと。もしくはまるごとゲーム的な表現に寄せるかですね。
▷ストーリーについて
約四万字ある本作の一万五千字を読みましたが、理想的な「起」と「承」ですね。キャラクター紹介、関係の深化、事件、「転」への布石と教科書通りで文句なしです。文章の分量や配分も問題ありません。
ストーリーについては、激しい起伏には欠けるものの堅実な物語性で、魔女ローエと妖精イムの関係が深まるさまを気持ちよく楽しめました。特にイムのキャラクターが魅力的で、前半を引っ張っている印象。舞台となる山奥の結界も、異郷を思わせるよい設定です。
物語の導入と後半への橋渡しとして申し分なし……と言いたいところですが、一点だけ中心のテーマに穴を見つけたので、ここは指摘しておきましょう。
>ローエの「償い」の矛盾
ローエは過去に王国に召し抱えられながら、疫病の治療が遅れたため、追放の憂き目にあいました。彼女はそれ以来一人旅を続け、その果てに山奥の結界に至り、あらゆる病に効く「幻の花」とイムに出会うわけですが、三話までに描かれる心理描写には矛盾に思われる点があります。
>「違うよ。あのね、妖精さん。わたしはね、この花があれば、償いができるのさ」(一話)
まず、ローエは「人を治したい」魔女ですよね。
償い=「どんな病気も治す」ですから。
>魔女の旅には、目的も終わりもなかった。世界中の気になる場所は、すでにだいたい訪れた。一人旅は実に気楽であったが、この先ずっと死ぬまで孤独である寂しさを思うと、さすがの魔女でも気弱になることがある。(一話)
>いつどこで、魔女の存在を仄ほのめかすような言動をしただろうか。ローエは、人里に立ち寄る際は必ず行商人や旅芸人を装い、魔女であることは完璧に隠していたはずだ。(三話)
一方で、彼女は世俗を断って一人旅を続けてきました。
人里では魔女の身分を秘めており、治療はしていないと読めます。
この時点で両者は矛盾して感じられます。
彼女は人を治したいのか。治すことから逃げて来たのか。どっちなんだと。
>「わたしは魔女の落ちこぼれだから、こんなわたしを必要としてくれて、居場所をくれた国王と国民に、恩返しがしたかったのさ。でもわたしは、本当に無力で……。だから、もう、どんな病も怪我も、絶対に治したくて、それがわたしの願いでね。そうすることが、せめてもの、わたしの償いなのさ」(三話)
これはローエの最終アンサーですが、ここではその辺の機微についてまったく説明されていません。それ故にローエの行動が矛盾に思われるのです。
これは私の想像ですが、ローエの心理としては人を救いたい反面、力及ばず大勢の人を救えず、国から追放されたことがトラウマとなり、人を救うことに臆病にもなっているのだと思います。人間は単純ではないので、矛盾する考えが併存することはままありますから。
>ローエは、考える前に行動してしまった自分を、一瞬悔やんだ。やむを得まい。(二話)
この反応なんかは、まさにその証左ではないかと。
ローエはこの矛盾を自覚した上で、最後のアンサーをするべきです。
自身はどう償いたいのか。山奥で細々と病人を診たいのか。市井に降りて再び診療所を構えたいのか。それとも少年と祖母を救ったのは気まぐれで、隠棲したいのか。
それが見えなければ、せっかくのイムの健気な台詞が宙に浮いてしまいます。
ここは前半一番の見せ場なので、ローエのスタンスをしっかり立てて、読者が納得するよう提示してもらいたいところです。
追放後、ローエが治療行為をしていたかどうかも合わせて語らせるなど、彼女が今に至る経緯を説明すればなおよし。「イムとの出会いから償う気持ちが蘇った」とも考えられますし。
▷キャラについて
今作ではイムは文句なしですね。
描かれ方も立ち位置も性格も百点です。
ローエも性格はよいのですが、問題も幾つか。
一つはストーリーで触れた「償い」について不明瞭である点。
もう一つは、やはり台詞の口調ですね。
正式名称を知らないのでとりあえず「老婆口調」としておきますが、ローエはこれが不完全で、しばしば普通の女性的な口調が混じります。
何か理由や意図があるのか。あるいはテンプレ的な口調を避ける意味で混合しているのかなど色々考えてみましたが、それらメリットより、読むたびに台詞で引っ掛かるデメリットの方が大きいのでは、と思われます。
ここら辺、作者の意図や後半に繋がる伏線があるかもなので、そこらを確認した上で
あらためて判断したいところではあります。
▷アドバイス回答について
>・特に意見が聞きたい部分。
>文章的におかしな箇所、矛盾などないか。
矛盾というか説明不足なのは、「償い」と「一人旅中の治療」について。
不完全な老婆口調が次点。ゲーム的な用語が気になる。
細かな突っ込みは他にもしましたが、どれも容易に直せるレベルかと。
総じて問題点は少ないと感じました。上出来でしょう。
⬜️総評
・物語の「起承」として、ほぼ申し分ない出来。
・ただし主人公の「償い」については説明不足。
・幻想的な描写の妙は一読の価値あり
「派手じゃない方のジブリ」みたいな感じですね。
突っ込みどころもありますが、十分先を読みたくなるレベル。
ということで、企画後に続きを読むことにしました。四万字弱だし。
一万字の評価としては、まずもって十分ではないかと。
もちろん、最終評価は読み終えた後が本番ですが……w
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