[企画]マツリカ大反省会 その6 総括と改訂



茉莉禍 ―マツリカ―

https://kakuyomu.jp/works/16817330660280121722



 ……ドーモ、オヒサシブリデス。

 はい、中途半端な状態で大変お待たせしました。23年末に完結予定だった「マツリカ大反省会」、ついに最終回です。年越しに重ねて親が亡くなるドタバタがあったとはいえ、放置同然だったこと、深くお詫び申し上げます。実に九ヶ月ぶりです。


 言い訳するとなんですが、ただでさえ「反省会」という気が進まない企画を、勢いでガーッと終わらせるつもりが、弔事に水を差され、完全にやる気を失っていました。  

 梶野は鳥頭なので、他のイベントが入ると思考がところてん式に押し出されます。今回の再開も、まずは作品を一から読み直し、感想も再読し、「あー、こんなこと言ってたなー私」とか思い出すところからでした。切に脳内メモリを増設したい。

 さらには夏にかけて体調もイマイチで、他の感想すら滞る始末。こんな状態で十月開始の「じっくり感想企画」は大丈夫か、今から心配です。


 とはいえ、これを書き上げなければ、「小説雑話」は停滞するし、心のしこりも残ったまま。

 意を決して、ついに今、重すぎる腰を上げた次第です。いいぞ私。がんばれ私。

 まあ私同様、大半の読者は「なんだっけこの企画」状態だと思われますが、区切りは人のためならず。興味のある読者の方は、これを機に初回から読み直していただければ。

 この言い訳にしてからが、すでに腰が引けてる感じですが、自身にムチを入れながら、この長い長い反省会を終わらせようと思います。

 


 さて。本来ならこの最終回、さらっと総括するだけのつもりでした。

 結論についてはこれまでの解説でほとんど触れていますし、改善の方向性や企画の反省点もあらかた見えていたし、触れてもいたので。

 いただいた感想の共通点をカウントして、「こんな意見が多かったですよ」と振り返るくらいでいいかなーと。


 ですがここまで伸ばすと、そんなさらっと終わらせるわけにもいかず。

 幸か不幸か時間が経過し、より客観的に作品が見れるようになったことで、若干ながら感覚が変化したこともあります。先日、後輩Nとリアルで差し呑みして、この件について語ってもきました。冷笑多めでしたが。


 なので、前回までに語ってきた反省内容とは、若干食い違う部分があるかもしれません。その時には「認識をアップデートしたんだな」と温かく受け止めてください。「こいつ忘れてやがる」とか、冷静なツッコミはノーセンキュー。


 まずは「茉莉禍」への感想まとめから。

 以下に提示するのは、いただいた感想から共通する点を抜き出し、集計したものです。ニュアンスが近いと感じたものは一括りにしました。

 それだけでは全然まとまらなかったので、ざっくりとジャンル別に分けました。私のコメントもジャンルごとに。最後に総括して終わりたいと思います。

 それでは、スタート。

 


🔳悪かった点


■ストーリー

✕怪奇譚からサスペンスへの変化が不自然(5)

✕終盤、恐怖より疑問が先に立つ(4)

✕前後の関連性がわかりづらい(4)

✕前編の期待に後編が応えていない(2)

✕あらすじを読んだ「期待」に応えていない

✕調理法を間違えたような印象

✕やりたいことはわかるが、一歩足りない

✕ボリューム不足

✕前半がボリューム不足

✕不倫女が大胆過ぎる

✕怖さより混乱。誰が誰かよくわからない

✕十五年前の出来事が謎

✕一話は怖いより胸糞悪い

✕救いがないのが残念

✕少女の正体の解答が欲しい


 やはりというか「変化が不自然」という指摘が多数。

 ただ梶野的には、この解釈は後に続く「関連性がわかりづらい」「後篇が期待外れ」が原因で、狙いそのものは間違っていないと判断します。変化は意外性で、上手くやれば斬新だったはず。ストーリーテリングの稚拙さがこの不評を招いたということなのだと。実際、「変化はよい」という感想も複数見られたので。


 ここについては、前後の繋ぎをより丁寧に仕上げ、バランスを調えれば、ある程度は解消できるものだと思います。

 期待外れという意見の大部分は、とくに後半の描写不足、恐怖の不足が原因という自己分析は変わりません。サスペンスという枠にこだわりすぎて、後半が薄味になってしまったことが原因でしょう。カロライナジャスミンのアイデアは我ながら褒められますが、それだけではホラー感に乏しく、インパクトが足りないことに気付けませんでした。書き直すならホラー演出の増量は必須ですね。


 「終盤の展開が疑問」という意見も幾つか。

 これは短編という形式が悪い方向に作用したというか、説明が舌足らずだったということでしょう。全体的に後篇は駆け足というか短くまとめ過ぎました。どうせ転調するならもっとじっくりと、マリカの家庭事情に迫っていってよかったなと今は思います。その方がサスペンス風ですし。このねっとり感が、ホラー(サスペンス)を書く上で自分に足りなかったものかもしれません。


 ボリュームについては、以前は増量が解決策だと考えていたんですが、ここに来てそれが絶対的正解でもないよな、と変化しています。

 ねっとり感や恐怖演出を増やすにせよ、過剰な描写を加えればよいというものでもない。それぞれ違う持ち味があり、「茉莉禍」のテイストを損なわない程度の加筆が正しいのではないか、と判断が変わりました。増やすのは間違いないですが、短編として節度を保ちつつ、ですね。時間を置いた結果、この文字数と形式にも一定評価が感じられるようになった感じです。


 その他の意見で刺さったのは、「不倫女が大胆過ぎる」ですかね。

 作者の脳内では「そんな行為に至るほど関係が進行している」という解釈でしたが、それを作中で示していないので、そう受け止められるのは当然でした。描写不足の典型例であり、ねっちりと書き加える必要があるなあと思います。

 

 改善案として考えたのは「マリカがすでに何人も、同様の手口で来訪者を殺している」ことの示唆。

 その説明の過程に、ジャスミン茶の準備や死体の処理法などを挟んで、用意周到さを含めた狂気の増幅を計る。不倫女と飲みながら語る幸福な家庭の設定が、全部殺人準備に裏返る(花いっぱいの庭➡毒ジャスミンなど)という手法が使えそう。ボリュームも増し、説得力にも繋がる。

 とにかくディティールを煮詰め直すことが必要だなと。後半はそこが甘すぎました。



■主人公

✕後半、ヒロインの行動が矛盾している

✕後編は妻、前編は自分を奪われ、論点が異なる

✕犯行が杜撰

✕ヒロインの心理の煮詰め方が足りない

✕ヒロインに復讐心が見えないのは破綻

✕毒殺に至るほど追い詰められていない

✕毒を用意する主人公を理解できない

✕幼少時の恐怖は忘れてしまうものでは?

 

 主人公については、かぶり意見はありませんでした。皆それぞれ不満点が違うといいますか。

 反省を感じる指摘を拾うと、「心理の煮詰め方」「復讐心が見えない」「追い詰められていない」が共通すると感じられます。要するに主人公に共感できていない。


 この原因は、まず前篇で主人公が家を追われ、精神的怪物と化すほどのショックを受けたという部分を強く描き切れてなかったことかなと。伝わる人には伝わっても、そうでない人もいたという感じで、そこはやはりもっと踏み込むべきだったかと反省します。


 もう一つは、これは文章の問題ですが、後半を一人称にしたこと。

 改めて読み返すと、内容はほとんど客観的で、一人称の必要性がないというか、むしろ心理が見えない分、損をしています。

 なんでこんな馬鹿な書き方してんだ、去年の私。これも時間を置いた効果でしょうか。タイムマシンがあれば当時の私を詰問したいところです。


 三人称に統一すれば、少なくとも「復讐心が見えない」のは自然になるし、凶行を際立たせることで、逆に心理の見えなさが効果的な恐怖演出に変わる……はず。



■アイテム

✕ジャスミン茶の管理が不可解3

✕展開にロジックが欲しい(ヘアピンなど)

✕前後のリンクとジャスミン縛りに捕らわれすぎ

✕ヘアピンが再登場しないのは理不尽


 ジャスミン茶の管理問題が圧倒的。

 賞味期限切れを知らなかったのは結構なミスでした。ここは逆手に取って、庭にジャスミンの花壇とかある設定を追加して、読ジャスミンを毎年収穫して、少女との再会に備えていたことにすれば、疑問解決とともに狂気も補強できそう。複数の問題を同時解決することをアイデアと呼ぶのです。


 ヘアピンについては、現状の扱いで問題ないと思いますが、後半でそのことに触れる展開はあってよかったと今は思います。「不倫女があの少女ではない」と確かめる場面とか、どう反応とかでさらなる恐さを追加できますし。ヘアピンは少女へのこだわりの象徴であり、マリカの狂気のメタファーなので。



■文章

✕前半の独白形式が悪い。感情が見えない

✕一人称なのに本心が見えずもやもやする


 過去作を読み返す時、私はたいてい文章に不満を覚えます。書き直しはもちろん、何なら読んでいられないレベルで。

 たまには「なかなかやるやん」などと過去の自分を賞賛することもありますが、今回は完全に前者のケース。「何故こんな文章を、俺は……」状態です。

 

 前半のポエムみたいな「」抜きの台詞も、当時は幼い日の演出としていいかと思ってましたが、今読むと奇をてらい過ぎと言うか、違和感の方が大きい。普通に「」を使った方が手堅かった気がします。


 後半はそつこそないですが、踏み込みが足りず薄味。軽く、短くすることを意識しすぎだと感じました。「ホラー→サスペンス」の転調を強調したいなら、それこそサスペンスタッチで重厚な文章に変えてしまってよかった気がします。


 思うに、当時の私は前半が「起承転」、後半が「結」だという感覚がありました。それゆえシャープにまとめるのが肝要だと考えて、文章を簡潔に、かつ説明を切り捨てたのでしょう。構成が文章に影響を与えてしまったんですね。


 「一人称なのに心理が見えない」は後輩Nの指摘でしたが、核心突きすぎて致命傷です。心理を隠すなら一人称にする意味がない。普段、感想で言っているくせに、自分が同じてつを踏むとは。ここは間違いなく三人称が正解でした。必要な部分は三人称一元視点で描けば済む話ですし。



■タイトル

✕タイトルも名前負け

✕マリカなのにタイトルはマツリカで変


 タイトルはお気に入りです。文句あっか!



■サブタイトル

✕サブタイトルが謎2


 これは確かに。曲解も招いたようですし。

 本人視点の言葉であることがわかるよう直すか、それが無理なら無難な章タイトルにすべきだというのが結論です。



■恐怖

✕生理的な恐怖、肌感覚が欲しい

✕怖くない

✕どういう怖さの話なのか判らない

✕期待したベクトルのホラーではない


 ここがメインの問題ですね。

 何度も繰り返しますが、作者的には「ホラー→サスペンス」という前後で異なるテイストのホラーを作中で繋げるという試みが狙いでした。

 そこを理解してもらえる読者もいれば、そうでない読者もいた。どちらかと言えば後者が多かった。

 私としては、この核の部分は譲れないところなので、何故伝わらないのか、構成や描写に難があるのかなどと突き詰めて考えてきましたが。


 長く考えた末に辿り着いた結論は、

「ホラーは感覚的だから、合う合わないはどうしてもある」

 でした。身も蓋もありませんけど。

 言ってしまえば、食事やエロの好みに近い。上手い下手とか以前に、合う合わないが来るというか。他の小説もそうなんですが、より顕著と言うか。

 

 なので、万人に受ける恐怖とか追い求めても詮無いこと。 

 大事なのは自分が怖いと感じるものを突き詰めることで、そこは確かに足りていませんでした。あくまで構成や見せ方の問題。そこを改善した上で、改めて「ホラー→サスペンス」が認められるかどうかは気になります。

 それでも駄目なら、嗜好の違いということであきらめもつきますから。

 

 一行に訳すと、「狙いは間違ってなかったと今でも思う」です。



🔲よかった点


〇マリカの狂気に気付いた 6

〇ジャスミンがキーワードなのがよい 3

〇ちゃんと怖かった3

〇ヘアピンの使い方が上手い2

〇前半、すごく怖くて良かった2

〇綺麗に収まったサイコホラー短編2

〇タイトルの「禍」は上手い2


〇復讐譚は好き

〇この前半から後半は想像はできない

〇「ホラー➡サスペンス」は間違ってはいない


 いただいたお褒めの内容もまとめておきます。

 反省会なのでスルー気味でしたが、わりと褒められる面もありまして。

 そういう意味では、「ホラー→サスペンス」は必ずしも間違っていないと言えるわけで。ブラッシュアップすれば化ける可能性はある。はず。


 今作の感想は本当に暴風雨のようで、その中でもらえた数少ない温かいお言葉は、当時の私にはまさに防災キット、一杯のジャスミン茶のように体に染み入りました。改めて感謝したいと思います。



🔲提案


□二人が別人ということにしては?

□小道具の色を話に絡めてみては?

□繰り返し展開にしてみては?

□作者側で過去の解釈を定めるべき

□過去はトラウマによる幻覚にすべき

□後半、マリカが女を殺し、夫は記憶喪失とか

□正体がわからないなりに理屈があるべき


 こまごま、ご提案もいただきました。

 私もしばしば「私ならこう書く」とやりますので、「なるほど、もらった人はこう感じるのか」という気持ちになりました。

 別案を考えるのに手間がかかることは私もよく知っています。感謝とともに、熟慮の上で取捨選択をせねばと、改めて襟を正しました。

 

 あとこういう改定案は、感想をいただいた方のホラー観や好みの傾向が読み取れるのも面白いですね。私もそうですが、人の作品に感じたことが周り回って次作のアイデアになったりも多い。

 今作に寄せられたたくさんの改善案も、私がそれを選ばなくとも、いずれ多くの作品の種になるのではないかと思います。いつかそんな作品に出合えるなら、今作にも価値があったというものですw



🔳総括


 時間も文字数も長々とやってきたので、総論は簡潔に。


 今回の企画の最大の失敗は、「後輩Nの認めるホラーを書く」ことから始めたことだと思います。

 私はホラー知識が乏しく、ホラーにも多様な恐怖があり、嗜好も様々だという認識が欠けていました。恐怖は本能に根差す感情で、好みの偏りが激しい。そういうジャンルで誰かの趣味に合せるというのは、ホラー初心者の私には荷が重すぎました。


 あるいは最初から最後までNの意見を聞いておけば、仮に失敗作しか出来なくても、世に出すことはせず没にしていたと思います。

 それをせず、斬新さでNに訴えようとした結果が、あのポエム調だったり、構成への過剰なこだわりだったのかなと。


 そんな作者の欲が出過ぎたため、最終的に後輩Nの意に沿えず、読者にも不評を買った。その結果が、今回の反省会です。

 仮にNが認めなくても、自分の感性に揺るぎない自信があれば、反省などせず堂々と胸を張ります。今までもそうしてきましたから。

 経験の薄いホラージャンルで、自信がなかったが故の迷走だったというのが、今回の結論です。


 あと、これは後日談なのですが。

 先日、久々にNとリアルで呑んだ際、改めて「あんたはホラーに向かない」発言の意味を聞けました。


「あんたはエンタメ志向が強すぎて、ホラーに向いていない」


 という意図だったようで、確かにそうだと膝を打ちました。

 私は生粋のエンタメ系なので、より面白く、より独創的に書くことが当たり前になっています。いわば「どこまで遠くに行けるか」です。

 対して、ホラーの怖さは「間近にある」こと。手を加えれば加えるほどフィクション臭さが漂い、創作の物語としてはよくても、恐怖からは遠ざかってしまう。

 「ハイクオリティのお化け屋敷は逆に怖くない」みたいな話と理解すると、わかりやすいかもしれません。


 悔しいですが、ここはぐぅの音も出ませんでした。

 この問題の改善は時間がかかりそうです。



 最後に、「茉莉禍」の改定について。

 これだけご意見をいただき、長々とネタにしたくせに何ですが、今回、「茉莉禍」の書き直しは行わないと決めました。


 理由は、反省会の素材として残しておきたいのが一つ。

 もう一つは、これはこれで愛着が湧いたからです。褒めてくださった方もおられますし。

 もしこの反省会を活かすとすれば、「シン茉莉禍」として新たに書き下ろすか、同じ「ホラー➡サスペンス」の構成で新作を書くかすると思います。


 正直、今すぐ直したい気持ちはあります。工事の計画書もあります。

 ですが、当分は「神風VS」の執筆に集中すると決めたことですし、それを優先させることが正しい道かなと。

 何年か後、「茉莉禍」なんてタイトルがすっかり忘れられた頃に、こそっとリベンジするかもしれません。

 その時はあえて本作の名前は出さず、「これ、昔書いたホラーの再チャレンジだな!」と気付かれるのを待ちたいと思います。いるかな、そんな人……w



 そんな感じで、「マツリカ大反省会」はおしまいです。

 長々とおつきあいいただき、ありがとうございました。

 反省会のお手本になればと続けてきましたが、我ながら自信がない。

 というか絶対なってない気がしますが、何かしら楽しんでいただけたなら、幸甚です。


 さーて、次の作品に取り掛かるか!


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