【06】ようこそ Light Houseへ(大田康湖) 総評


【06】ようこそ Light Houseへ(大田康湖)

https://kakuyomu.jp/works/16817330660313761401



⬜️全体の感想

・タイトルについて

なんとなく、藤子不二雄っぽい!w

灯台のような街の物語ですし、内容に即しています。

語呂もいいですし、雰囲気がぴったりだと思います。


・文章について

コツコツと積み上げた感じの、素朴な文体ですね。

派手さはないですが情報が過不足なく伝わり、ストレスは全くありませんでした。読みながらの指摘も超楽でした。

ここら辺の文章のこなれ具合は、流石のキャリアを感じます。


目につく欠点としては、とにかく地味なこと。

まあこれは長所の裏返しなので、一概に悪いとは言い切れないのですが、見せ場ですら必要最低限の情報しか書かないのは、流石に抑え過ぎです。


読みながら指摘したのは、ほぼほぼ風景描写ですね。

今作は辺境惑星に友人が訪れる話であり、絶景を見せる場面が複数ありますが、友人が感動してる場面でも淡々と説明があるだけです。これではキャラの気持ちに共感できません。


別に観光用パンフレットのように美辞麗句を並べよとは言いません。

大田さんらしく抑えめでいい。一行だけでいいので、風景の素晴らしさを伝える文章を加えてみてください。

白黒漫画の1ページだけ、カラー原稿にする感じです。

メリハリがついて、ぐっと作品が引き立つと思います。



・内容について

基本的には女友達の来訪から始まる恋話ですね。

主人公であるファンの生い立ちと、第二の故郷を得る話。

そこにヒロインであるルチアの過去が交差し、結ばれるまで。


展開に捻りはないですが、わかりやすく共感しやすい、まさに藤子不二雄的な物語だと思いました。

マリティが「ライト・ハウス」と呼ばれる所以もいかんなく使われており、恋物語にがっちり組み込まれている点は最大級に評価します。


ストレスなくさらっと読め、読後に満足感がある辺りも藤子不二雄的で、その方向が好きな読者にはまさにストライクな作品だと思います。


反面、ストーリーが淡白で起伏にやや乏しく、刺激を求める読者受けは悪そう。

文章で指摘した描写の薄さも、これに拍車をかけています。

これに磨きをかけるとすれば、いかに良さを残しながら弱点を埋めるか、かなと。

とりあえず、指摘した描写をピンポイントに強化するだけでも、かなり違うと思うんですが。


・アドバイス回答について


それでは最後に、物語的に気になった点。

並びに、一万字以下に収まる改善案を書いていきます。


・砂嵐の場面

ここは物語の転の部分で、盛り上がるところです。

今作だと淡々とシェルターに入っていますが、もっと紙幅を割いて、ピンチを演出してもよかったかもしれません。


例えば砂嵐によってバギーが傾いたり、砂がバギーを叩く音にルチアが悲鳴を上げたり、それをファンが落ち着かせたり。ルチアがそれを見て「強くなったね」と驚いたり。


ここはファンの見せ場になので、もっと活躍させて、ルチアがファンを好きになるのもわかると、読者に思わせるべきだと考えます。


・ルチアの迫りぶりが露骨すぎる

主にシェルター内での場面ですね。


フォンがルチアを好きで、でも言えずにいる気持ちはよくわかります。

距離があり、第二の故郷を持った彼がルチアと縁遠くなったのも仕方ない気がします。ルチアに恋人がいることも知っていたし。

一途な気持ちを残したまま、ここに至る部分は共感できます。


反面、ルチアはエノクと別れたばかり(少し時間が経ってる?)で、好意はあるにせよ微妙な状況でしょう。

アプローチするにせよ、長く離れていたフォンが自分をどう思っているのか、まず探る段階だと思います。

なので彼女の存在を聞くとか、そこら辺の行動は理解できます。


が、その後の体を寄せたり手を握ったりのぐいぐいぶりは、性急すぎて肉食系か?と驚きました。

そこまでガツガツ行く女性なら、そもそもフォンに理由を聞かれた時に「フォンに会いに来た」と言うと思います。むしろ何故言わないのかって話です。


そこをあえてぼかしているのは、フォンが気になっているものの、自分からは言い出せない臆病さがあるわけで。

私はその方が普通だと思いますし、行動もそっちに即した方が自然に感じます。


具体的には、ボディタッチはやめた方がいいのでは、と。

少なくとも、ルチアの方からは。

隣りに座ったり、ヘルメットに手を置くくらいで留めるべきかと思います。


・月か砂漠か

砂嵐が去り、シェルターを出た後、二人はまず光る砂に驚き、そして月を見上げて感動するわけですが、ここは違和感を感じました。


何故かと言うと、私はファンが見せたかったのは「輝く砂漠」で、月は舞台装置だと思ったからです。

三話のファンの台詞はこうです。


>「さっきの話だけど、ブリアにはトリュースにはない『ミン』って名前の月があるんだ。初めは不気味に思ったけど、慣れるときれいなもんだよ。満月の夜だと砂に含まれる鉱物が月に反射して微かに光るんだ」


この台詞だとどっちにも取れますが、言っても月(衛星)はたいていの星にあるわけで。ブリアならではの名物とは言いづらい。『ミン』に特徴的な何かがあるわけでもないですし。


ですが「輝く砂漠」は、ブリアならではの光景です。

幻想的な光景ですし、SF的でもあります。押すならこっちにすべきでは?

シェルターを出た二人が見る順番を砂→月から月→砂に変えて、「輝く砂漠」に力を入れて描写した方が、初めて見るブリアの感動は増すと思いますが、いかがでしょう。


・両親の写真について

エアバイクと写真を見つけるシーンは、はっきり言って蛇足です。

ストーリーに絡んできませんし、写真が見つかる展開に無理があるのは大田さんもわかっておられるはず。


ですが、ここを生かす改善案はあります。

見つけたのを「ファンと両親の写真」ではなく、「ルチアとファンの写真」にするんです。(当然、室内に飾られた写真は逆にします)


→シェルター内の二人の接近を抑えめにする(手を握るのもなしくらいに)

→ルチアはファンの気持ちをいまいち量り切れない状態。

→二人の思い出の写真を見つけ、ルチアはファンの秘めた思いを確信する

→空港で告白


と言う流れにすれば、写真発見シーンが本筋に組み込めます。


最後の告白もファンからした方が自然だと思います。

ルチアに「『秘めたる思い』。今、聞かせて」とか促させて。

『秘めた思い』はルチアじゃなく、やはりファンにこそ相応しい気が。


以上、私なりの改善提案でした。

1000字あれば、十分可能な内容だと思います。


⬜️総評

・灯台の町を中心とする、素朴だが読ませるストーリー

・文章は堅実だが、描写に難あり

・要所で地味さを覆す描写や場面の切れが課題


十分読めるし楽しめるが、これぞという面白さに欠ける。

そういう印象を持った作品でした。

なまじ文章の完成度が高いだけに改善は難しいかもですが、その時はこう考えてみてください。

「漫画版のドラえもんを映画版にする感じ」と。

素朴さをキープしつつ、派手な演出を上乗せした好例だと思いますんで。


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