シン仮面ライダーの感想

snowdrop

弱さと優しさは、紙一重だぞ

 すべての人類からプラーナ(魂)を抜き取り、魂だけのハビタット世界へ連れて行こうとする緑川イチローの企みに反旗を翻した緑川博士と娘ルリ子の願いを受け、仮面ライダーとなった本郷猛は戦い、「愛の秘密結社SHOCKER」の野望を阻止するべく一文字隼人とともに戦い続ける物語。


 石ノ森作品を楽しんできた人が楽しめる、映画作品。

 見ながら思ったことは、「小説なら楽しめるのでは」だった。

 人生に答えはない。

 だから、選択するしか無い。

 選択した生き方が正しいかどうかはわからない。

 それでも自分で選んだ道を生きていく。

 本映画は、そのことを教えてくれる。

 

 女性神話とメロドラマの中心軌道にそって書かれている。

 本郷猛は学生時代、警察官だった父親が犯人に殺されて心に傷を負って無気力かつコミュ症となり、現在無職である。不幸な人間の願いを人類に広げることで幸福をもたらす理念をもつ愛の秘密結社・SHOCKERの研究員であり、大学の先生でもあった緑川博士に選ばれて、バッタオーグに改造されてしまう。

 緑博士と娘ルリ子は、SHOCKERの企みを阻止するために本郷猛と共に本部をサイクロン号で逃亡。兄イチローの命令でルリ子を連れ戻しにきたクモオーグに博士は殺されてしまう。博士からルリ子を託された本郷は、仮面ライダーを名乗り、クモオーグを倒す。

 二人の前に日本政府の人間、立花と滝が現れ、利害の一致から彼らと協力していく。

 つづいて仮面ライダーは、ヴィルースによる人口調整と選民思想によって人類の幸福を目指すコウモリオーグを倒す。一方、立花たちの組織の人間はサソリオーグを倒す。

 人々を奴隷化することで人類の幸福を目指すハチオーグは、ルリ子の友達・ヒロミである。本郷はルリ子の指示により、人々を奴隷化するシステムサーバーの場所を特定、変身して空からのライダーキックで破壊。ハチオーグと戦うも、ルリ子の願いを聞いて倒せなかった。が、サソリオーグから手に入れた毒入りの銃弾を、滝が発砲。ハチオーグは倒される。

 ルリ子の兄イチローを倒すべく、自衛隊が本部を強襲するも返り討ちにあい、プラーナ(魂)を抜かれて死んでしまう。

 イチローはすべての人類からプラーナを抜き取り、魂だけのハビタット世界へ連れて行こうと計画していた。

 本郷とルリ子は、本部でイチローと対面。計画を止めさせようとするも、プラーナの量が多すぎて、ルリ子はイチローの洗脳を解除(パリハライズ)できない。さらに一文字隼人が二人目のバッタオーグとして登場し、本郷に戦いを仕掛けてくる。

 戦いの果て、本郷は左脚を折られ、とどめを刺されそうになる。ルリ子が間に入り、一文字に掛けられていた「辛い記憶や絶望を封じ込め多幸感で上書きする」SHOCKERの洗脳を解く(パリハライズ)。だが、ルリ子も知らないカメレオンカマキリオーグの手により、ルリ子は殺される。

 本郷はルリ子の願いを叶えるため、一人で本部へ乗り込んでいくも、待ち構えていた十一人の黒い仮面ライダーに襲われる。窮地に追い込まれたとき仮面ライダー第二号が現れ、通路のトンネル内で協力して倒す。

 プラーナの供給量が多いイチローの力は強く、勝てそうにない。サイクロン号を使って、イチローの背後にあるプラーナを集めるシステム、玉座を破壊。イチローはチョウオーグに変身し、二人の仮面ライダーと戦う。

 イチローのプラーナを吐き出させながら攻撃を受ける仮面ライダーたち。

 だが、本郷のヘルメットにはルリ子が残した、止める方法があった。

 プラーナの量が減り、イチローの動きが悪くなる。本郷はベルトを壊されながらイチローを抑え、「僕は他人がわからない。だから、わかるように変わりたい」と語り、二号が頭突きでヘルメットを割る。本郷は、自分のヘルメットをイチローにかぶせる。

 ヘルメットに仕込まれていたパリハライズが作動し、ルリ子と対面するイチロー。説得し、イチローもヘルメットの中で共存できるようにしていたが、ルリ子自身が消滅を考えていることに気づいたイチローは「この空間に三人は狭い」と拒み、「もう誰も失いたくない」と言い残して、イチローは消滅。本郷も、ヘルメットを残して消えてしまう。

 立花は本郷から、ヘルメットの回収と、残されていたルリ子のプラーナを安全に管理することを託されていた。ヘルメットには本郷のプラーナも残されており、本郷とともにシンサイクロン号に乗って、一文字隼人はBATTA-AG 02+01と表記されたヘルメットをかぶって仮面ライダーとなり、コブラオーグを倒しに向かうのだった。


 映画には二種類ある。

 トンネルに入って彷徨うか、抜け出るか。

 本作は前者である。

 続編を意図して作られている、と庵野監督は語っている。

 風景がやたらときれいだし、バイクで走る良さが描かれている。

 出演されている俳優もいい。

 とくにヒロインが美人に撮られている。

 敵のオーグデザインがスタイリッシュっでカッコイイ。

 仮面ライダーのジャンプとキックが素晴らしい。

 見てください、というウリになっている。

 原作にある世界征服を企む秘密組織という設定は、現代で描くのは難しいので、世の不条理、理不尽さによる不幸な目にあった人間がどう抗って生きるのかを描いている。

 これは、エヴァンゲリオンから来ている設定。

 冠に「シン」のつく『シン・エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『シン仮面ライダー』はどれも、理不尽な目にあった人がどうするのか、上下関係のある組織や人類外から得た未知なる科学や力が登場するなど、基本設定を同じにして作られている。

 まさに、同じテンプレで作られた異なる作品だ。

 だからわかりやすく、わかりにくい部分がある。

 世界観がつながっているのか、どの作品が前日譚で、どれが続編なのかなどわからない。庵野さんの中では、自分が作った映画は一つの世界観でつながっているのだろう。

 

 シン仮面ライダーは、石ノ森章太郎作品を知っていること(人造人間キカイダーとかイナズマンとかロボット刑事K)、漫画版の仮面ライダーを読んでいる人、昔の仮面ライダーをオンエアで見ていた人(動画サイトでみられる)、現在連載されている映画の前日譚『真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-』を読んでいて、おまけとして少年マガジンで連載されている『新 仮面ライダーSPIRITS』の二号ライダーのエピソードを知っているなどの知識があって、庵野さんのシン・シリーズを許容できるひとは、まず楽しめると推測する。

 何も考えず、ふらりと映画館に入ってみる作品としては、ハードルが高すぎる。


 本作は、一クールの内容を二時間にまとめた作品に見える。

 本郷猛がオーグメンテーション手術されるまでの過程がなく、本部から逃亡してのアクションから映画が始まるため、望まずしてバッタオーグになった悲劇を感じにくい。

 ハチオーグに洗脳された人たちはいたが、困っている人たちを救う場面もない。

 仮面ライダーとルリ子たちと、イチロー率いるSHOCKER側のオーグたちとの関係だけで物語が進んでいく。

 また、映像で説明するのではなく、セリフ説明ですませている。

 しかも、説明にはさらなる説明が必要なので、理解が追いつかない。

 バトルアクションがウリな作品にしては、相手を殺してしまう際の流血シーンにやたらと手元を見せたり、ごちゃごちゃした映像を早送りで見せたりしている。トンネル内のバイクにノリながらの戦闘シーンは暗くて見にくい。ラストバトルは兄弟喧嘩みたいな感じ。

 それぞれに意図があるのはわかる。

 昔の仮面ライダーは画質が暗くて、蝙蝠男の回は、本当に暗くて、動画サイトで見ても何が起きてるのかわかりにくい。

 ライダーに改造された本郷猛は、物を簡単に壊してしまったり、腕をつかんだら「痛いっ」と相手が悲鳴をあげるほど、改造されてしまっているからものすごい力がでてしまう表現がある。

 倒されると泡になる演出も、昔のライダーでもそういった表現がされていた回があった。

 二号の変身のときの「お見せしよう」は、昔のライダーでの二号登場シーンから。

 本郷猛がショッカーのライダーに襲われたり、マフラーが黄色だったり、最後の一文字とともにバイクに走っていく展開も漫画や昔の作品からきている。

 立花と滝の名前もそう。

 そういった表現をいろいろ取り入れられて、今回の映画が作られている。

 ファンならわかってくれる、細かいところに数々のこだわりが盛り込まれている。

 現在の『仮面ライダーギーツ』をはじめとするライダー作品とくらべると違うし、最近のものしか知らない人にはわからないため、不満がでるのもわかる。

 最近のきれいなCG映画を見慣れていると、画質が悪いとか画面が暗いとか、最初と最後はいいけど途中をなんとかして欲しいなど、あれやこれやと出てくる気がする。


 映画を見に行く前に、『キューティーハニー』『キャシャーン』みたいと感想を上げている人がいたので、よほどひどいのかと覚悟して見に行ったのですが、そこまでひどくなかった。

 これまで、いろいろな特撮作品をみてきた。

 ひどいCGもあった。

 そんな作品のCGにくらべたら、悪くない。

 残念に思うのは見せ方。カメラワークとか、状況や説明をセリフですませているところ。

 矛盾もある。

 オーグは銃で倒せる点だ。

 ハチオーグは「わたしには銃がきかない」と語った。

 ハチオーグを倒したのは、サソリオーグの毒によるもの。

 だけど、それ以前にルリ子がコウモリオーグに発砲して羽にダメージを与えて自由に飛べなくした。その後、サソリオーグは政府組織に銃殺されている。

 敵オーグは銃で倒せるのだ。

 十一人ライダーと戦う本郷猛も「これ以上はヘルメットがもたない」と多量の銃弾を受けるシーンがあった。

 だからハチオーグを倒すとき、サソリオーグの毒がなくても倒せたのではと思えてならない。

 ルリ子がやたらと気絶するのも気になる。

 あれはパソコンがフリーズする感覚なのかしらん。

 オーグメンテーションという手術を受けた本郷は耳が良いらしいので、サーバーの場所を探すようルリ子にいわれる。

 でも、探している素振りは一切ないし、耳のアップもない。

 しかも、サーバーを破壊するときに思いついた方法というのが、ハチオーグのアジト上空を飛ぶ飛行機から降下してライダーキックすること。これを前フリなくやられるので、見ている人が置いてけぼりにさせられる。後半はとくに増えていく。

 さりげない説明的カットが足らないのでは、と考える。

 イチローのヘルメットを取る場面でも感じた。

 一文字の頭突きでヘルメットを割るのはいい。

 本郷がイチローを抑え込んでいる間、一文字はなにをしていたのだろう。

 カメラを引いて、状況がわかる映像がないので、なにをやっているのかわからないところが、全体的によくみられる。

 素人が撮影するとき、やたらとアップを取りたがると聞いたことがある。庵野さんは素人ではないはずなのだけれど。

 アップを必要以上に取る方法も、悪いわけではない。

 主人公目線をみせることで、見ている人にも追体験させ、より効果を生むことだってある。

 さじ加減だと思う。

 影響を受けたであろう、昔の仮面ライダーの映像にこだわりすぎるあまり、万人が楽しめない作品になったのではと邪推する。

 R12なので、小さい子供は見られない。

 流血シーンがあるので仕方ない。

 カップルで見るのも不向き。


 元々、仮面ライダーはホラー要素が強かった。

 再放送や動画サイトでしかみたことがないのだけれど、結構グロいし、人も死ぬ。暗いし、怖い印象が強い。

 本映画は、その辺りを意識して描いていると思う。

 最近の明るい仮面ライダーと同じと思って見に行くと、「なんだこれ?」となるだろう。

 

 バイクのシーンがとにかく良い。

 仮面ライダーといったらやはり、バイク。

 バイク愛に溢れている。

 疾走感、気持ちよさが映画を見ていて感じられる。

 コブラオーグは、SHOCKERの中でも死神派と呼ばれる側らしい。

 絶望した人をどう救済するのかを目的しているSHOCKERは、まだ存在している。続編があるのならば、どう描かれるのか見てみたいものである。

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