第5話:オチは悲しいもので
「さて、この杖の力を試してみるとしようか。“動くな、止まれ”!」
アドニスは盗んだ杖をこちらに向け、
「キーナッ!!」
「私は大丈夫だから、それよりあいつから目を離さないで!」
「仕切り直させてもらおう。
すかさず呪文を唱えるアドニス。彼が唱えた呪文、
本来屋外で使用し、崖や離れた地形に移動したり邪魔な敵を飛び越えるために使うような魔法だ。
しかし、それを天井が近い酒場で使うだって?
「一体なにを……!?」
「言っただろう、仕切り直しだって」
言い放ち、アドニスは素早い身のこなしで飛び跳ねる。彼は垂直に跳んだため、直接逃げたわけではなさそうだ。
しかし、天井を見ても絡み合う梁が邪魔で彼の姿が見当たらない。
まさか、これが狙いか!?
「秘術盗賊……!」
通常、
だから彼もまた、魔法を使う能力に長けた存在だと思っていたが
「
そして、その
「このまま逃げるつもりか!?」
返事は当然帰ってこない。隠れている最中だから当然だろう。だから、僕はこうする。
近くにあった酒瓶、それを寝ている酔っぱらいに投げつけ、起こす。
「痛え!? なにしやがる!!」
当然、彼は怒るがこちらの知ったことではない。そのまま杖を向け、呪文を発動させる。
「
「ぐ、おお!!」
目を覚ましたばかりの酔っぱらいは、僕の魔法を受けて言われたとおりにする。
姿の見えないアドニスも、急いで逃げようとしていることだろう。だから……。
「ぐおっ! やりやがったな!!」
扉の前で立ちふさがった酔っぱらいと、逃げようとするアドニス。彼らは勢いよく衝突してしまう!
せっかく姿を隠していたアドニスも、酔っぱらいへの追突で居場所は判明した。これなら、逃がす必要もない。
「やったわね!」
「このまま追撃だ!
必中の
しかし、既に
「飛べ、必中の矢!」
杖の先からアドニスを狙って撃ったこの矢は、魔法の力で外れることはない。
集中的に攻撃を受けた彼は、ついに床に倒れて負けを認めた。
「さあ、色々白状してもらうわよ」
杖の力で縛られたキーナも自由を取り戻し、騎士団詰所へと連れて行く。
そこに連れて行かれるのはアドニスだけではない。酒場で彼と共謀を行っていた、重要参考人たる酔っ払いたちや店主も同様だ。
取り調べによると、彼らはアドニスの活動を助ける代わりに高い報酬を受け取っていたらしい。
そして、ゴスペルという街もまた幸運の猫亭から賄賂を受け取り……癒着していたのだ。
「なんというか、汚い話だなあ」
「思ってたよりは規模が大きな事件だったわね」
犯罪組織と街の政治家が癒着していたとはいえ、大教会を始めとして不正を許さないものもいる。
そういう人にとっては、今回の件で彼らが一掃されたのは好都合だったのだろう。
「巻き込まれた僕たちはとんだとばっちりだけどね」
「そういえば、例の杖……もったいなかったわね」
例の杖こと
シニアス神父討伐の報酬が壊れたのは勿体ないな……と思いながら街を歩いていると、その杖を盗まれた女性と出会った。
「あ、あのときの」
「ファトゥムさん、それにキーナさん。この度は私の不注意ですみませんでした」
「いえ、いいのよ。貴方も巻き込まれたみたいだしね」
「巻き込まれ?」
「いえ、こっちの話よ」
はて、キーナはなにを言っているのか。
問いかけると、耳元で囁く。
「杖が盗まれたタイミングで指名手配。ちょっと怪しいと思わない?」
「つまり……」
「大教会が用意した報酬も、盗まれて私たちが調査することを前提としたものなのよ」
「
「大教会、お布施で潤ってるみたいだからね。その時は太っ腹アピールでもしたんじゃないかしら。どのみち彼らに損はないと思うわ」
教会、腹黒い……。
窃盗犯に腹パンされたこの女性も巻き込まれて可哀想なものだ。
「あの、それでお詫びをしたいのですが……」
女性はこちらが話し終えるのを待ってから提案する。
「パンケーキ、いかがでしょう?」
その夜舌鼓を打ったパンケーキは、いつもより美味しく感じたのは気のせいだろうか?
転生☆GM(ゲームマスター)~生贄少女は自分だけ知ってるシナリオチャートで破滅回避~ 天平 @10pyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生☆GM(ゲームマスター)~生贄少女は自分だけ知ってるシナリオチャートで破滅回避~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます