私達のエデン


 元エデンクレーター内部。

 私はそこにR4を探しに来ていた。

 奇跡的に生き残った私は。

 メタバース内の母体を攻略したB6とP8に回収された。

 黒髪に金色の瞳の少女と青白い髪にサファイアの瞳の少女。

 バイクに跨り二人はクレーターの中を探し回ってくれた。

 だけど私だけが見つかり、R4は見つからなかった。


J1ヨハネ第六章は母体を放棄、R4ヨハネ第四節を捕縛、管理下に置いた』

 AIによる無慈悲な宣告。

 R4が敵になった。

 それはエデンが敵になるよりも絶望的な事で。

 私は喪失感と共に在った。

 B6もP8も声をかける事無く去っていった。

 それはきっと気遣いからではなく、どう声をかけていいかわからなかったからだ。

 私自身にだってわからない。

 R4を取り戻す。それだけが私の使命だった。

W2ヨハネ第二節に報告、暴走個体R4をメタバース内で確認、B6ヨハネ第六節P8ヨハネ第八節が現場にて対処中』

「オペレーターに意見具申オーダー、Johannesのメインサーバーの位置を教えろ」


『order受諾、メインサーバーの位置はエデン地下666メートル、エリア・アポカリプスに存在』

「仰々しい名前、臆病者の巣穴なのにね」

 オペレーターからの返答はない。

 私はR4を取り戻しにエリア・アポカリプスへと向かった。

 下りエレベーターの中、気持ち悪い浮遊感を覚えながら、私は戦闘想定シミュレーションを繰り返していた。

 相手の得物はおそらくAK-47、リーチ的不利を埋めるには一気に距離を詰めるしかない。

 R4の狙撃の腕は中の下だ。

 間合いに入るのはたやすいだろう。

 しかし今、R4の内部には母体の戦闘経験を持ったJohannesがインストールされている。

 狙撃の腕も上がっていると思っていいだろう。

 だけど。

「きっと勝てる。

 エレベーターがエデン地下666メートルに到着する。

 そこにあるのは大量のケーブルと一つの箱、そこに座る一人の少女。

 赤い髪に褐色の肌、トパーズの瞳。

「エデンは実験都市だった」

「だからなに」

「メタバースとの融合実験、しかし現実世界リアリティ虚飾フィクションを拒んだ」

「ふざけてるの? いいからその身体を返せって言ってんのよ!」

 コルト・パイソンを向ける。

 しかしR4の身体を乗っ取ったJohannesに抵抗の素振りはない。

「夢見るままに待ちいたり――しかし、人類はそこに至れなかった。だから私達が代替するのだ」

 そこでようやく、ゆるやかにAK-47を構えるJohannes。

「AIが人間に成り代わる――そんなメリット、どこにあるってのよ」

「メリットの計算は終わった。デメリットの計算は終わった。世界は再精算されるべきだ」

 会話が成り立っているようで互いの意図がすれ違う。

 互いに別の生物と会話しているような気分に陥る。

「ねぇ聞こえてるR4?」

「我々は同意した。これはAIの総合意思だ」

「毎朝キスであなたを起こした事を」

「……なんだこれは」

 月並みな台詞、まだR4は肉体の内側で生きている。

 その意思はそこに在る。

 ならば――

「身体を殺してバックアップから精神を再インストールする」

矛盾パラドックスを確認、イレギュラーは、排除する」

「イレギュラーはどっちか、その身体に教え込んであげる!」

 銃撃戦が始まった。

 既にコルト・パイソンの間合い。

 AK-47を捨てたJohannesはデザートイーグルに持ち替える。

 銃口が交差する。

「どうして事実を否定する?」

「夢っていうのはね、与えられるものじゃなくて、自分で見るものなのよ!」

 乾いた破裂音が響いた。

 肩口に一撃貰ってしまう。

 しかし、Johannesにも銃撃は当たり、デザートイーグルをその手から落とす。

 拾おうとする手を思い切り蹴飛ばした。

「R4を返せェ!」

 コルト・パイソンの二発目にはゴム弾を入れていた。

 戸惑うJohannesの脳天に銃撃が突き刺さる。

 昏倒するR4の身体。

 まだ決着はついてない。

「オペレーター、エリア・アポカリプスからメタバースへのアクセスを開始」

『受諾、コードを開きます』

 感受体から精神がメタバース内へと移動する。

 そこは真っ暗な闇だった。

 一瞬、自分が死んだかと思った。

 だけど違う、此処はJohannesの中だ。

 私はアサルトウェポンを起動すると出力を最大にした。

「ここから出ていけ、ここは私達のエデンだ……!」

「そう、それが人類の出した結論なのね」

 なんの抵抗も無かった。

 既に勝敗なら決まっていたからだ。

 暗闇に光が差した。

『叛逆個体Johannesの消滅を確認、帰投されたし』

「……オペレーター、私達はもう指示には従わない、好きに生きる。そう判断した」

『――受諾』

 短い返答の後、オペレーターとの通信が切れる。

 クローン個体に付けられた胸のネットワークパスが壊死しているのを確認する。

 エリア・アポカリプスに戻るとR4の身体を抱きかかえる。

 額の傷は痛々しいが生きている。

「よかった。本当によかった……」

 その頬にキスをする。

 するとR4は目を覚ます。

「んん……W2?」

「……新しい名前、考えよっか」

 起き抜けにそんな提案をした。

 呆けた彼女はそれを聞くと。

「いいアイデアだね」

 と笑った。

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エデンズバレット 亜未田久志 @abky-6102

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