第40話 最後の戦い
どうやら、ゼノスの「剥奪」の力は発動の際、他の能力が使えなくなると言う制約があるみたいだった。
そう、僕はゼノスが「剥奪」を発動するタイミングで死に戻り、あれから百回以上も繰り返していた。
「タカヒロに続け!」
村長の掛け声でテン、ツルンが総攻撃を繰り出す。
僕は一切表情を変えず、ゼノスに攻撃を仕掛ける。
「なんという圧倒的強さ。あれがベロア持ちか。皆、攻撃の手を緩めるな!」
村長の号令に従い、二人はさらに攻撃をした。
ここで僕の左腕が引きちぎられるはず。
僕はゼノスの触手を避けることが出来ず、左腕を奪われた。
「タカヒロ!」
村長が叫ぶ。
しかし、これは想定内。
これでパーティクル・アクセラレーターを至近距離から放てる。
「チッ、外したか」
ゼノスの右肩あたりに大きな穴が空いた。
頭ごと吹き飛ばしたかったがしくじった。
でも、まあいい。
ただ勝つ為にすべきことを、打つべき手を打つだけだ。
「重量操作。重くなれ」
ゼノスが言うと、テンの召喚したティラノサウルスたちの動きが止まった。
重力操作の影響範囲はゼノスから半径十数メートルだ。
一気に距離を取れば恐れることはない。
僕はさっと後方に下がった。
「パーティクル・アクセラレーター・マシンガンズ」
僕は力を溜めると、マシンガンのように閃光を放った。
ゼノスは触手で防ごうとするが貫通し、血が吹き出した。
しかし、一瞬で傷口は塞がる。
ある程度、ダメージを与えて奴の動きを遅めてから「パーティクル・アクセラレーター」を超える「ギカント・パーティクル・アクセラレーター」を放ちたい。
「解除」
ゼノスは一気にこちらに近づく。
やっぱり、こちらの考えは読まれていたか。
「パーティクル・ソード!」
僕はゼノスの触手を切り裂いた。
こっちが切っても切っても触手は迫り来る。
何本も手があるなんてチートじゃないか。
こっちは一本減って片腕だけでやり合ってるんだ。
しかし、これだけ繰り返していると、ゼノスの攻撃のパターンもつまらないぐらい読めてしまう。
だか、読めたとしてもやられる時はやられるのだが……
「チッ」
僕の頬を触手がかすった。
今回も詰んだな。
僕はあまりにも戦い過ぎたせいで、ある程度戦いを進めると自分が負ける未来がわかってしまうのだ。
また、違う打ち手を考えないといけないな。
僕はゼノスから距離を取ると、自分の首を掻き切った。
*
「あれ、ここは…」
僕は異世界に来る前に父さんと話した白い部屋にいた。
「もうやめておきなさい」
赤い髪の女性が目の前に現れて言った。
誰だ?この人?
僕は黙って立ち尽くしていた。
「あなたもわかってるでしょう。どれだけやってもゼノスに勝てないことを」
赤い髪の女性は優しく微笑んだ。
僕はなんか由美さんに似てるなと僕は思った。
「そう言えば自己紹介が遅れたな。我が名はベロア。戦場の女神と呼ばれし者」
そうかこの人は僕に力を与えた人。ベロアだったんだ。
「流石に見ていられなくなりました。あなたは私よりも諦めが悪いようですね。でも、もう楽になりなさい。あなたは十分やりましたよ」
ベロアがそう言うと涙が溢れてきた。
「私はずっとあなたの頑張りを見ていました。私はあなたが何度死んでも諦めなかったのを知ってます。辛かったでしょう」
僕の涙が地面に落ちた。
「でも、僕が諦めたらみんなが死んでしまう。みんなが苦しむ。僕にしかみんなを助けることは出来ない…」
僕はぎゅっと拳を握った。
「タカヒロ、無理なものは無理なのです。全てはそういう定め。能力を得たとしても神に等しくなれるわけではありません。能力は人間の限界を少しだけ拡張するだけであり、万能ではないのです。所詮その程度のものなのです」
ベロアは僕をそっと抱きしめた。
そっか、そうだったんだ。
僕は「死に戻り」という力で思い上がり、自分しか皆を助けられないと思い込んでいたんだ。
「でも、最後にもう一度だけ戻らせてもらえませんか?それで無理なら諦めます」
僕は涙でぐちゃぐちゃになりながらも、笑顔で聞いた。
「タカヒロ、あなたの気持ちはわかります。しかし、あなたは同じ時間を戻り過ぎた。次に戻れる点はあなたが私と出会った点。あなたが初めて『死に戻り』をした点ですよ。それでもいいのですか?全てがリセットされますよ」
ベロアは僕の目をまっすぐ見て言った。
僕は少し考え込んでしまった。
全てがリセットされる。
由美さん、健太、さやか達との時間。
異世界での父さんや村のみんなとの時間。
全てが消えてなくなる。
「嫌でしょ?」
ベロアが優しく僕の顔を覗き込む。
「いいえ、戻ります」
僕は首を横に振った。
「えっ?」
「戻してください」
「本当ですか?」
「はい、本当です」
「あなたは本当に諦めが悪い。でも、その瞳は本気ですね。わかりました。戻しましょう」
そうベロアは言うと僕を強く抱きしめた。
「いってらっしゃい」
*
「やめてください!」
いつになくスッキリとした僕の脳みそにSOSの電気信号が入りこんだ。
あっ、由美さんだ。
ヤンキーたちに絡まれている。
彼女が困ってるにも関わらず、僕は懐かしさを感じ、思わず微笑んでしまった。
由美さんの視線が僕の方へ向く。
由美さん、あなたはベロアそっくりだよ。
僕は心の中で呟いた。
ありがとう。ベロア。
無事に戻ってこれたよ……
僕はゆっくりヤンキーたちの方へ向かう。
「なんだよ。お前」
ヤンキーAが言った。
「もしかして助けようとしてるの?」
ヤンキーBが薄ら笑いを浮かべながら僕の姿を品定めするかのように見て言った。
ヤンキーに囲まれた状況を客観視した結果、僕は自分の勝利を確信した。
彼女の瞳には僕の姿がしっかり映っているようで、救世主でも見るような顔をしていた。
そう、僕は救世主になりたかったんだ。
やれやれ、本当に僕は困った奴だ。
「お前みたいなオタクに何できるんだよ」
ヤンキーCが茶化してきた。
さあ、始めますか。
「おい、お前らさっさとその汚い手をはなしやがれ!」
僕はギュッと拳を握った。
ー完ー
オタクな僕が死に戻って美少女を救ったら最強になった話 @ato625
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