第39話 王の登場
「くそっ」
兵士の叫び声や銃声が様々な場所から聞こえる。
ついにゼノス軍がやってきたのだ。
兵の数が圧倒的にゼノス軍の方が多いが、こちらは銃もあるためなんとか戦えている。
しかし、炎の能力者のブレイブが想定以上に町で暴れているため苦しい戦局であることは間違いなかった。
「やっぱり、ブレイブは厄介だな」
父さんは、その様子を伺いながら言った。
「本当に大丈夫か?父さん」
「ああ、大丈夫だ。それよりみんな準備はいいか?」
父さんは、村長、ツルン、僕の顔を見た。
「大丈夫じゃ。さっさとゼノスのやつを倒しに行くぞ」
村長は身体に力を入れて、筋肉を盛り上がらせた。
ツルンもそれにつられて力を入れ、思いっきり筋肉を盛り上がらせた。
「じゃあ、行くぞ」
父さんは僕らをテレポートさせた。
*
「ゼノスだ」
僕は黒のマントを羽織ったゼノスを見つけた。
なんなんだ。
あの禍々しいオーラは。
村長、ツルンが僕の前方にテレポートして現れた。
「行くぞ!」
村長が一気にゼノスの懐に入った。
「喰らえ、万の拳」
村長のマシンガンのようなパンチが飛びさかる。
「先制攻撃、成功ですね。じゃあ、次は私の番!」
ツルンがスケートのリンクを滑るように進み、思いっきり加速した拳をゼノスに喰らわせた。
地面の摩擦をコントロールしたようだ。
数メートル後方にゼノスは飛び、倒れ込んだ。
「油断するな。一気に決めるぞ」
村長はゼノスに息つく間も与えず、一気に倒す気のようだ。
「はい!」
僕は一気に加速し、立ちあがろうとしたゼノスに蹴りを入れた。
ゼノスはまたしても、数メートル飛び、倒れ込んだ。
いける。これならいける。
「私も参戦するわね!召喚!」
テンが現れて、ティラノサウルスを召喚した。
「食べちゃえ!」
ティラノサウルスは倒れ込んだゼノスを丸飲みにした。
「やった!」
僕が思わず声を上げた瞬間、村長がさらに肉体を強化した。
「うぉーーー!」
まさか、ゼノス生きているのか?
「タカヒロ、ゼノスはあんな程度じゃ死なないわよ」
テンがさらっと言った。
次の瞬間、恐竜の腹が爆発し、血まみれになったゼノスが現れた。
「テン、どういうつもりだ?」
ゼノスはゆっくりこちらに向かってきた。
「どうも、こうもないわよ。そういうことよ」
テンはゼノスを睨んだ。
「なるほど、テンは死にたいみたいだな」
ゼノスは背中から触手のようなものを出した。
「なんだあれ」
僕がそういうとツルンが悪魔の手というゼノスが誰かから奪った能力だと教えてくれた。
「あの手は厄介なんです。鋼のように硬い癖にまるで流れるように素早く滑らかに動く」
ツルンはゼノスから出た触手から目を離さないようにしていた。
「召喚!」
テンがバウガミの群れを一気に召喚した。
「行きなさい!」
バウガミの群れがゼノスの方へ向かった。
しかし、ゼノスの触手がバウガミを切り裂いていく。
隙を見てツルンが大きな石を高速でゼノスに投げつける。
「摩擦抵抗ゼロ!」
ゼノスはさらに触手を生やし、石を叩き割った。
さらに身体をより強化した村長が突撃する。
「うぉー!兆の拳!」
マシンガンのように放たれる拳が触手によって防がれる。
村長の攻撃をあんなに簡単に防ぐなんてなんて強さだ。
神木の比じゃない。
神木が仮にBランクだとすると、ゼノスはAいやSランクの強さかもしれない。
次の瞬間、数ある触手の一つが僕の方へ迫ってきた。
「くそっ!」
触手が僕の肩をかすった。
「ベロア頂くぞ!」
ゼノスが目の前にあらわれた。
僕はさっとゼノスから距離をとったが触手が迫ってきた。
「速い!」
僕は何本もの触手をかわしながら、ゼノスに攻め込むチャンスを探す。
次の瞬間、村長の蹴りがゼノスの脳部をかすめた。
ゼノスが一瞬体勢を崩した。
「今だ!パーティクル・アクセラレーター!」
僕は神木の技を放った。
閃光が飛び出し、ゼノスの触手を引きちぎった。
それを見た村長が「タカヒロの技ならやれるかもしれない!皆、タカヒロがあの技を出せるように援護を!」と叫んだ。
村長、ツルン、テンがゼノスへ総攻撃を行い、僕が技を繰り出す時間を作ってくれた。
「パーティクル・アクセラレーター!」
僕はもう一度放った。
またしても触手を引きちぎることは出来たがゼノスに致命傷を与えることは出来ない。
「くそっ!もう一度!パーティクル・アクセラレーター!」
僕の放った閃光はゼノスの腹に穴を開けた。
「よし!」
しかし、喜んだのも束の間、空いた穴が塞がり、再生していく。
「あれも奪った能力よ。どんな傷も一瞬で再生する超再生の力」
テンは肩で息をしていた。
「そんな。それじゃ倒せないじゃないか…」
「頭部を確実に破壊すればいけるわよ。あんたのパーティクルなんちゃらで頭をやっちゃえばいいのよ」
テンに触手が猛スピードで迫ってきた。
くそっ、間に合わない。
テンは肉体強化系の能力者じゃないらから避けれそうにない。
このままじゃテンがやられてしまう。
「村長!」
村長が盾となり、テンを守った。
しかし、村長にはゼノスの触手が突き刺さった。
「ぐはっ」
村長は吐血した。
「パパ!」
テンが叫ぶ。
白目を剥いた村長が倒れた。
村長の身体から触手が抜けると、大量の血液が流れ出た。
それを見たテンは涙を浮かべながら、歯を食いしばった。
「くそっおおお!召喚!」
テンは一気にティラノサウルスを十匹呼び出した。
ティラノサウルスたちも怒り狂っているように見えた。
「いっけぇ!」
ティラノサウルスがゼノスに襲いかかる。
「重力操作。重くなれ」
ゼノスが呟くと、ティラノサウルス達が地面に這いつくばった。
「くそっ、身体が重い」
僕たちにも重力操作が及び、身動きが出来なくなった。
一方、ゼノスの触手は軽々動き、テンの腹を突き刺した。
「テン様!」
ツルンが叫ぶ。
「次はお前だ」
ゼノスはツルンに向けて触手を放つ。
「ぐはっ!」
ツルンも倒れ込んだ。
そんなこんなに簡単に皆がやられるなんて……
僕は目の前の光景が信じられなかった。
「さあ、ベロアの力をもらうぞ」
ゼノスがゆっくり近づく。
くそっ、終わりか。
僕はこの重量のせいで身動きが取れない。
「動け!動け!動け!」
僕は何度も言ったが、もう目の前にゼノスがいる。
「剥奪」
ゼノスがそう言った瞬間、身体が軽くなった。
僕はさっと後方に飛び、間合いをとった。
「お前の好きにはさせない!」
僕はナイフで自分の首を掻き切った。
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