第38話 10月1日

「もう真っ暗じゃな。誰かさんのせいでかなり予定より遅くなった」


村長は馬車で眠っているテンを見ながら言った。


しかし、村長のその言葉はどことなく喜んでいるようにも感じた。


きっと、娘が戻ってきてくれたことを喜んでいるんだろう。


「テン、起きろ。リバーデンに着いたぞ」


村長は娘を起こした。


「はぁ、よく寝た。無事着いて良かったわ」


テンは大きく伸びをした。


こういう時、スタイルが強調される為、思春期の僕は目のやり場に困る。


それに気づいたのが気づいてないのか、テンは僕にウインクをした。


そして、僕らが馬車から降りると、筋骨隆々のスキンヘッドの男が「お待ちしておりました」と大きな声でいい、礼をした。


「久しぶりじゃな。ツルン」


村長はスキンヘッドの男に向かって笑いかけた。


「ご無沙汰しております。チョウ村長」


ツルンは深々と頭を下げた。


「では、参りましょう」とツルンは言うと、僕らを案内した。


僕らはツルンに連れられて村長、いや大統領の部屋に着いた。


「おお、遅かったじゃないですか?チョウ村長!イノウエまでとは」


ゴズ村長、いやゴズ大統領は村長と父さんにハグをした。


「色々あってこんな時間になってしまったんじゃ。すまんの」


「いえいえ、無事にお顔が見れて良かったですよ。えっと、後の二人は…」とゴズ大統領は僕らの顔を見ると、ピンときた様子で微笑んだ。


「チョウ村長、娘さん戻ってきたんですね。しかし、えらく若い」


テンは会釈した。


「まあ、諸事情でこいつもこんなに幼い見た目ではありますがね。本当はいい歳ですよ」


村長はあえて具体的な年齢には触れずに話していたが、テンは村長を睨み続けていた。


「そうですか。では、遅くなりましたが夕食を用意しておりますのでご一緒に如何ですか?」


「喜んで」


村長と僕らはゴズ大統領について行った。


僕らは長いテーブルのある部屋に招かれ、椅子に腰かけた。


すると、すぐにウエイターがシャンパンのような飲み物を運んで来た。


「さぁ、乾杯としましょう」


ゴズ大統領が音頭を取り、乾杯をした。


「乾杯!」


異世界のお酒は二回目だ。


前回の父さんにもらったワインのようなものよりも、炭酸があるうえにアルコール濃度も薄めで飲みやすく感じた。


村長とゴズ大統領は、昔の話などで少し盛り上がっていたが、流石二人とも民をまとめる者だ。さっと本題に移った。


「実は、ゼノス達に私たちの村は焼かれてしまいました」と村長が切り出すと、ゴズ大統領は「やはりそうでしたか……」と言葉に詰まっていた。


「そこで大統領の力を借りたいのです。先日、イノウエ達が『銃』という新たな武器の開発に成功しました。これをニホン共和国の力で大量に作ればゼノスを倒すことも夢じゃありません」


村長は深々と頭を下げた。


「ついに完成させたのですね。もちろんですよ。国全体をあげて量産しましょう」


ゴズ大統領は笑った。


その後、どのような段取りで銃の量産が進められるのかを決めていった。


とりあえず、エルムウッドの民はリバーデンに移住し、銃の作りの中核を担うことになった。


国中の鉄と火薬をリバーデンに集め、生産を進めることになったのだ。


テンは一度、ゼノスのところに戻ることにした。


ゼノス達の動きを把握するスパイとして戻り、より僕らが有利になるように動いてくれるみたいだ。


村長は少し寂しそうだったが、これも国の為なのでテンが戻ることを許した。


そして、一ヶ月後……


「イノウエ、ついに目標の百丁を準備出来たんじゃな」


チョウ村長は嬉しそうに笑った。


「はい、村長、これで我が国の軍は圧倒的に強い力を得ました」


父さんは首肯した。


「ゴズ大統領に報告し、今後どのように攻め込むか考えようじゃないか」


村長、父さん、僕は大統領の部屋に向かった。


「皆さん!」


ツルンが大声で僕らに話しかけた。


僕らが振り向くとツルンは「テン様からのお手紙です!」と言い、手紙を村長に渡した。


村長はすぐに手紙を開けると、深刻そうな顔で読んでいた。


「なるほど、ゼノス達は一週間後にこのリバーデンを攻め込む気じゃ」


村長はギュッと手紙を握った。


僕と父さんは静かに頷いた。


そう、来るべき日が来たのだ。


「奴らが攻め込んで来る前に銃が百丁用意出来て良かったが、もう時間がありませんね」


父さんは難しい顔で俯いた。


「そうじゃな。奴らが攻め込んできたところを銃で返り討ちにしよう。兵の数は向こうの方が多いがこの戦力差を銃を有効に使い埋めようじゃないか。イノウエの銃ならきっと出来るはずじゃ」


村長は父さんの肩を叩いた。


そして、僕らは部屋に行き、ゴズ大統領にゼノスが一週間後に攻め込んでくることを話した。


大統領は僕らが部屋に入ってくる表情を見た瞬間に決戦が近々始まるであろうことに勘づいたようだった。


「ついにこの時が来たのですね。チョウ村長」


ゴズ大統領ほゆっくりと重い口調だった。


「ついに来たな。しかし、我々には準備がある。イノウエ達の開発した銃に加え、このイノウエの息子のタカヒロの持つベロアの力があるのじゃ」


そう、ゼノスにとってこの銃と僕の力は大きな誤算のはず。


きっと、戦局をかなり有利にしてくれるはずだ。


そして、勝つまで何度でも僕は戻ってやる。


僕さえ挫けなければ、必ず勝てるんだ。


「そうですね。それはすごく心強い。銃だけでなくベロアまでいるのは本当に心強い」


大統領は僕の方を見て言った。


「大統領、さっそくですが今回の作戦を説明致します」


父さんが大統領の机の上に大きな紙を広げて説明を始めた。


どうやら、テンの話によると大半の兵力をリバーデンに送り込む気らしい。


そこで、決戦の日までに大半の市民を父さんのテレポートで安全な場所に移動させる。


兵士だけが残り、そこで戦闘を繰り広げる。


チョウ村長、僕、ツルンなどの能力者は父さんのテレポートで後方で待機しているゼノスのところに直行する。


ちなみにツルンの力は、物体の摩擦力を自在に操る力だ。


父さんは村の中心で、負傷した兵士のテレポートや戦闘を行う。


父さんと兵士でゼノス軍の大半の兵力を削ぐ作戦だ。


そうすることで、僕らがゼノスと存分に戦うことが出来るのだ。


「流石、イノウエだ。良い作戦だと思う。しかし、イノウエへの負担が多すぎないか、ここまでテレポートの能力を使っても良いものか?」


「大丈夫です。大統領、疲労を癒すホリグサを大量に準備しております。これでなんとかいけるはずです」


父さんはポケットから草を取り出した。


「なるほど、それならいけそうだな」


大統領は深く首肯した。


決戦の日は決まった。


ゼノスが攻め込む日、ニホン歴3年10月1日だ。

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