第37話 冥界からの使者
「テン、何をしに来た?」
村長は少女に訊ねた。
「君たちの邪魔をしに来ただけだよ。だって、リバーデンに行きたいんでしょ?」
テンという村長の娘は首を傾げた。
(あれは村長の娘で十数年前に村を出て行ったみたいだ)
父さんがテレパシーで耳打ちした。
(そうなんだ。娘にしては若くない?孫ぐらいに見えるけど)
(ああ、ゼノスの力で若返っているだけだ。本当の歳は俺と大差ないだろう)
マジかよ。あの美少女が父さんと同じ歳なんて信じられない。
「テン!貴様、何故ゼノスなんかの味方をする!?」
村長は怒りをぶちまけた。
「だって、ゼノス様に仕えていたらいいこと多いよ。ほら、こんなに若々しくいられる」
テンは胸を寄せてみせた。
「このバカ娘が!」
村長の身体はみるみる巨大化していった。
「何、興奮してるのよ」
本当に気持ち悪い。
テンは村長のことを蔑むように見た。
「召喚!」
テンは指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、大蛇が現れた。
その大蛇は村長を食べようと、大きな口を開き迫ってきた。
「ハッ!」
村長は大蛇の大口をかわし、首あたりに手刀で攻撃した。
ドン!
大蛇は一撃で気を失い、倒れた。
「相変わらず、力だけはあるのね」
テンはバカにするような顔で笑った。
「テン、さっさとわしらの目の前から失せろ」
村長は語気を強めた。
「そうは行かないわよ。召喚!」
テンがパチンと指を鳴らすと、ティラノサウルスのような生き物が現れた。
「なんだと、テン!お前の力は冥界からの召喚だったのか!」
村長は驚いていたようだった。
「そうよ。死んだものが行く冥界から呼び寄せることが出来るのよ」
テンは指を指し、村長を襲うようにティラノサウルスに命令した。
そう、今僕達の目の前にいるティラノサウルスのようなものは、本当にティラノサウルスなのだ。
この世界は僕らの世界とパラレルワールドで分岐した為、恐竜達がいた時代ぐらい過去は同じのはずだ。
「さぁ、一気に決めるわよ。召喚!召喚!」
テンは二度指を鳴らした。
さらに、ティラノサウルスが二体現れ、合計三体が僕らの目の前で威嚇してきた。
(隆弘、ここは村長と俺に任せろ。ここでベロア持ちがいることがバレると、村長の娘を倒してもゼノスがまた現れるかも知れない。本当にヤバくなったら能力を発動させても良いが、極力抑え気味でいこう)
(了解)
僕は軽く頷いた。
グァーーー!
ティラノサウルス達が吠える。
村長も大声を上げながら、さらに身体強化を行い、筋肉を盛り上がらせた。
村長は高速で移動し、ティラノサウルスの腹に重い一撃をお見舞いした。
次の瞬間、別のティラノサウルスが村長に噛みつこうとしたが、父さんが岩をテレポートさせ、恐竜の頭にぶつけた。
二体の恐竜は倒れ込み意識を失っているようだった。
「さあ、後は一体じゃな」
村長は残る一体に向かって行った。
「ハッ!」
村長の飛び蹴りが見事にティラノサウルスの頭部に当たった。
「やるじゃない……」
テンは少し村長の強さに怯えているようにも見えた。
「テン、貴様が何を召喚してもわしは倒す。もう観念せい!」
村長は鬼の形相で言った。
「その言葉、後悔させてやるわ。召喚!」
すると、真っ黒な粉塵の中から一人の筋骨隆々の男性が現れた。
「まさか、テン。彼を召喚したのか……」
「そうよ。あなたが見殺しにした私の夫のカイトよ。さぁ、力を貸して」
テンの言葉を聞いたカイトは村長に向かってきた。
村長はカイトの先制攻撃をなんとか受け止めた。
「テン!バカなことをしよって!」
村長はカイトに殴りかかった。
「夫を殺した相手の味方になり、さらに死んだ夫を冥界から召喚してまでして我々の邪魔をするなど許せぬ!」
「あんたが弱いから、あんたが村長だったからこんなことになったのよ!全部、あんたのせいなんだから」
「ぐはっ!」
カイトのパンチが村長の腹に入った。
村長は吹き飛び、地面に倒れ込んだ。
「村長!」
父さんが駆け寄った。
「大丈夫じゃ」
数年前、村はゼノス達の襲撃を受けたらしい。
その時、村長と村長の娘の夫のカイトが中心となり、村を守る為に戦ったがカイトはその戦いで死んでしまったのだ。
その後、何を思ったのか夫を殺した相手であるゼノスの仲間に村長の娘のテンは入ったのだ。
「このバカ娘が!!!」
村長の身体はさらに筋肉が肥大し、全身から湯気のようなものが立ち上がっていた。
次の瞬間、村長の拳はカイトに直撃していた。
「えっ!」
あまりの速さに僕も父さんもテンもフリーズしていた。
ドン!
「そんな…」
テンが一歩後ろに下がった。
ありえない速さだ。
村長の肉体強化の能力はシンプルが故に強い。
僕の高速移動でも避けきれないかもしれない。
「すまない。カイト。二度も殺してしまった」
村長は滝のような涙を流した。
「テンよ。何故、ゼノスの味方になる?」
「だって、だって……」
テンも大粒の涙を流していた。
「ゼノスがカイトを復活させる能力をくれるというから味方になったのよ。でも、この力でカイトを召喚しても何も話さないし、私の言うこと聞くことしか出来ないのよ。操り人形なのよ」
「そうか」
村長は優しく首肯した。
「さらにゼノスは言ったわ。もっと能力を高めて、ゼノス帝国の力になればいつか本当の意味でカイトを復活させる力を授けると。でも、もう限界よ」
テンは崩れるように座り込んだ。
「テンよ。我々と共にゼノスを倒さないか?」
村長はしゃがみ込んで、小さな子に話しかけるように言った。
「そんなの無理よ。あいつは強すぎる」
テンは地面をじっとみながら言った。
「そんなことはない。ここにはテレポートの力を持つイノウエと、その息子のタカヒロはベロア持ちだ」
「えっ?ベロア持ち?」
テンが丸い目で僕のことを見るから、僕は静かに頷いた。
「ベロアってゼノスが欲しがっている能力じゃない。勝つまで何度でも時を巻き戻す最強の力」
「そう、ベロアが味方なんじゃ。だから、きっとゼノスも倒せる。その為にテンの力も貸してくれんか?」
村長はさっと手を差し出した。
テンはその手を取ると立ち上がり、「わかったわよ。力を貸すわ」と言った。
そして、テンを加えた僕らはリバーデンに向かった。
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