第36話 厄介な美少女現る

「一人増えてもこの千の矢は防げぬ!喰らえ、火炎千矢!」


ブレイブの前に現れた炎の球体かれ矢が放たれた。


「テレポート!」


父さんが砂を目の前に転送し、防御壁を作った。


「父さん、村のみんなは?」


「もう、大丈夫だ。怪我人はいたが死人は出てない」


「良かった」


「隆弘はみんなのところへ向かえ」


「えっ、父さんは一人で戦うの?」


「ああ、ここは俺に任せろ」


待てよ。ここでブレイブを追い詰めるとゼノスが来る。


でも、ブレイブを倒さないと父さんは助からない。


そうか、父さんは自分だけが犠牲になって皆を守ろうとしているのか。


「さあ、早く行け」


父さんは僕の背中に触れようとした。


「待って!」


僕は父さんから離れた。


「おい、どうした?」


「何をごちゃごちゃ言ってる!喰らえ、火炎龍!」


またしてもブレイブが炎の龍を呼び出した。


どうすればいい?


父さんだけが助からないなんてダメだ。


みんなが助からないとダメだ。


その時、大きな鳥が空から現れた。


「イノウエ!」


ピットが大きな鳥に捕まっていた。


「イノウエを見捨てるわけにはいかない!」


ピットが僕らに近づこうとすると火炎龍が大鳥に噛みつこうとした。


「テレポート!」


父さんは大量の砂を転送し、火炎龍の動きを阻んだ。


「ビット!」


父さんが叫ぶと、大鳥は僕と父さんを掴み羽ばたいた。


火焔龍が大鳥を追いかける。


「くそ!追いつかれるぞ」


父さんは後方を確認した。


「ピット!俺をあの池に投げ込んでくれ」


前方に見える池を父さんは指差した。


「了解だ!イノウエ!」


大鳥は父さんと僕を池に放り込んだ。


ジャバーン!


次の瞬間、大量の水を父さんは転送し、火炎龍にぶつけた。


「やった!!」


「今のうちに逃げるぞ」


父さんはピットを呼び、僕と父さんは大鳥に乗り、その場を後にした。


「ピット、ありがとう」


父さんは頭を下げた。


「イノウエを見捨てて、おいら達だけが助かるわけには行かないよ」


ピットの目にはブレイブやゼノスに対する怒りの炎が宿っていた。


僕らを乗せた大鳥は、父さんと僕が寝床としていた洞窟付近に到着した。


そこには父さんがテレポートさせた村人達が待っていた。


「おお、イノウエ、無事でしたか」


この村の村長らしきおじいさんが目に涙を浮かべていた。


「いえ、当然のことをしたまでです。村を諦めさせてしまってすみません」


父さんはうつむいた。


「イノウエ、あなたのおかげで皆が無事でした。村は、エルムウッドは燃やされてしまったが皆が生きてここにいれるのは奇跡だ」


村長は深々と頭を下げた。


「しかも、ベロア持ちの息子さんも力を貸してくれるという幸運も我々は得た。これ以上のことは望みませんよ」


村長がそういうと村人達も首肯した。


「そう言ってもらえのは有難いです。村長」


父さんも深く頭を下げた。


父さんは頭を上げると「早速ですが、村長、ゼノスはこちらにベロア持ちがいることに気がついたかも知れません。銃の量産を急ぎたいのですが、力を貸して頂けませんか?」と訊ねた。


「もちろん、良いですよ。我々はイノウエが設立したニホン共和国のメンバーです。なんなりと申しつけてください。この際、他の村にも要請してみましょう。あまり動きが活発になるとよろしくないでしょうが、時間がないのならやるしかありません」


「はい、村長から言ってもらえると助かります」


ニホン共和国は、各村の村長の話し合いによって方向性が決まるため、ゼノス帝国のように絶対なる王は存在しないらしい。


しかし、ニホン共和国の大統領は二年おきに各村の村長をローテーションしており、どこかの村だけが利益を多く得るようなことのないようになっているようだ。


そして、今大統領を務めている隣町リバーデンの村長であるゴズである。


大統領ゴズはチョウ村長と仲が良く、割と融通が効くのだ。


「よし、わしからゴズに伝えよう」


村長は深く重く頷いた。


「ありがとうございます」


父さんも深々と頭を下げた。


翌日、父さん、チョウ村長、僕でリバーデンに向かった。


「村長、私自身も行きたいと言ったばかりに無駄に時間をかけさせてすみません。私の能力で村長だけでも送り届ければよかったのですが」


父さんは馬車に揺られながら村長に詫びた。


「いや、構わんよ。そんなに大した距離ではない。馬車なら一日あれば着く距離だ」


次の瞬間、急に馬車が止まった。


「なんだ!」


村長が馬をコントロールしていた御者に訊ねた。


「前方からバウガミの群れがこちらにやってきます!」


「バウガミだと!こんなところに何故群れが現れる?」


村長は驚いているようだった。


「バウガミ?」


僕が父さんに訊ねると、バウガミは狼みたいなものだと教えてくれた。


父さんは前方を確かめると「多すぎて灰色の塊が迫ってくるようだ」と言った。


「このままだと衝突は免れないな」


村長は手の骨を鳴らした。


「まさか、村長戦うつもりですか?」


父さんは驚いているようだった。


「もちろんじゃ」


「しかし、村長だけでも町にテレポートしますよ」


「じゃあ、あのバウガミの群はどうする?このままでは我が村の民が滞在しているエリアに来るぞ」


「確かにそうですが、村長でも流石にあの数は無茶ですよ」


「皆で倒せばよいだろう?」


村長は馬車から降りた。


「腕がなるわい」


村長はそう言うと「身体強化!」と叫んだ。


みるみるうちに村長の身体が巨大になり、筋肉隆々となった。


これが村長の能力か。


僕は素直に感心した。


僕の超回復の能力とは違い、回復ではなく強化なのだ。


「さぁ、イノウエ、一気に決めるぞ」


巨大化した村長は、思いっきり屈み力を溜め、猛スピードで駆け出した。


次の瞬間、バウガミたちが次々と薙ぎ倒されているのがわかった。


「流石だな。村長の力は身体強化だ。全盛期はもっと凄かったらしい」


父さんはそういうと、村長の後につき走り出した。


僕も父さんと村長の後に続いた。


父さんはテレポート、僕は高速移動、村長は身体強化の能力を駆使して、次々とバウガミを倒していった。


「こりゃ、らちがあかんのぅ」


村長は何故だが嬉しそうに言った。


「はあああああ」


村長がまたマッチョになった。


「百の拳!」


村長が思いっきり、連打を繰り出した。


どんどん倒されるバウガミだがまだまだ多くのバウガミが迫ってくる。


「次!千の拳!」


さらに、村長の連打のスピードが上がった。


僕は村長の強さを目の当たりにして、これだけ強いのならブレイブも倒せたんじゃないかと思ったが、後で父さんに聞いた話だと、その日は村長が出張でその隙を狙われたとのことだった。


「さぁ、次!万の拳!」


大半のバウガミが倒された先に小柄な女の子が立っていた。


「村長やるじゃん」


その女の子は笑顔で言った。


その少女は僕と同じぐらいの高校生ぐらいの年齢に見えた。


「能力解除!」


少女は指をパチンと鳴らした。


すると、バウガミたちが消えた。


「やはり、貴様か」


村長は少女を睨んだ。


「久しぶりだね。お父さん」


少女はニコリと笑った。

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