第35話 さぁ、仕切り直そう
僕は目を覚ますと、薪割りの音に気がついた。
良かった。
ちゃんと戻ってこれた。
この異世界でもこの「死に戻り」の力はやはり機能するみたいだ。
僕は飛び起きて、父さんのもとに向かった。
「父さん!」
「おお、おはよう。どうした隆弘?深刻そうな顔をして」
「父さん、大変なんだ。急がないと」
僕は全くもって思考の整理をせずに話し出してしまった。
「隆弘、何回目だ?」
流石、父さんだ。
この状況から僕が「死に戻り」してきたことを察したみたいだ。
「まだ、一回目だよ。もうしばらくしたら、ピットがやってきて村が燃えていることを報告しに来るはずだ」
「村が燃えているだって?まさかゼノス達か?」
僕は父さんに前回の話をした。
「なるほど、炎の能力者であるブレイブという奴が暴れているのか。そして、その後ゼノスが現れて戦ったわけか。おそらく俺も死んでいるな」
父さんは顎を掻きながら言った。
「父さん、そんなこと言わないでくれよ」
僕は父さんを睨んだ。
「すまん、すまん。しかし、どうしたものか。銃も準備出来てない中、ゼノスと戦わないといけないのはキツいな」
父さんは腕を組み、考え込んでいる様子だった。
確かに、父さんの作戦では銃の準備が出来たら攻め込むというものだった。
「イノウエ!」
僕らが話をしていると、ピットが走ってきた。
「ピット、村が燃やされているらしいな」
「イノウエ!何故知ってる!」
「俺の息子がベロアの力で教えてくれた」
「なるほど、おいらたちは一度やられているわけか……しかし、これは心強い!」
ピットの顔が少し明るくなった。
「いや、ピットそこまでこちらが有利ではないぞ。今暴れている炎の能力者ブレイブを倒すと、ゼノスが現れるみたいなんだ」
「そんな……なんでゼノスまで現れるんだ?」
ピットは肩を落とした。
「もしかしたら、ゼノスは何かしらの能力や方法で俺たちが銃を作ろうとしているのに気がついたのかも知れない」
「なるほど、そいういうわけか」
「ピット、村は諦めよう」
「えっ」
父さんがあまりにも意外なことを言うからピットと僕はフリーズしてしまった。
「父さん!村を諦めるなんてダメだよ!みんなを見殺しになんて出来ないよ」
僕はすぐに我に返り、父さんに反論した。
「いや、違うんだ。村の人たちはみんな救う。しかし、村を打ち落としたとブレイブに思ってもらう必要があるんだ」
父さんは真剣な眼差しで言った。
「でも、父さん、どうやってそんなことするんだよ」
「村のみんなを俺がテレポートさせる。そのフォローを二人にはして欲しいんだ」
「おいおい、イノウエ、村の人間は百人ぐらいはいるぞ。戦いながら百回もテレポートさせるのかい?」
「そうだ。だからこそ、二人の助けがいる。もし万が一のことがあれば、隆弘の能力を使ってリセットする。なんとしても今の段階でゼノスと戦うのは避けたい」
確かに、父さんの言うとおりブレイブに勝ったと思ってもらわないとゼノスが現れて前回のようなことになってしまう。
「わかったよ。父さん。僕やるよ」
「了解だ。イノウエ。おいらはあんまり戦力にならないかも知れないが全力でフォローするよ」
「よし、じゃあ、急いで行くか。まずは二人を村にテレポートさせる。その後、急いで俺も行く」
僕らが頷くと、父さんは僕らの背中に手を当てた。
「テレポート!」
次の瞬間、僕らは村に到着した。
「ピット、僕がブレイブの気を引くから村のみんなを安全な場所に避難させてくれ」
「了解」
僕は高速移動でブレイブの方へ向かった。
「なぬ!」
ブレイブに殴りかかろうとしたら、炎がそれを阻んだ。
「貴様!何者!?」
「くそっ!」
僕はブレイブの言葉を無視して、殴りかかった。
「速い!貴様、能力者だな!」
ブレイブは炎を巧みに操り、僕の攻撃を防ぐ。
(隆弘、今から村に水を転送する。これで村は鎮火できるな?)
(父さん、その水の転送は数分でいい。前回は大量の水を使ってブレイブが水蒸気爆発を起こした)
(了解。数分にしておく)
すると、空から雨が降ってきた。
「何!雨だと!」
ブレイブは動揺しているようだった。
よし、これで村の火事はとりあえず鎮火できるだろう。
「喰らえ!」
僕はブレイブの腹に一撃を捻じ込んだ。
「ぐはっ!」
ブレイブは吹き飛び、倒れ込んだ。
「ゴホッ、ゴホッ、貴様、許さん」
ブレイブと僕は睨み合った。
この戦闘を少しでも長引かせて、その隙に父さんに村人を全員テレポートさせてもらわないといけない。
しばらくすると、雨が止んだ。
「雨はすぐにやんだな。まだ神は我を見放さなかったみたいだ」
ブレイブはニヤリと笑い、掌に炎の玉を作り出した。
「喰らえ、火炎弾!」
火の玉が僕に向かってくる。
僕は難なくかわす。
「くそ、ちょこまかと動きよって!」
ブレイブが何発も火炎弾を放った。
「遅いな」
「何だと!」
僕はあえてブレイブを挑発し、注意を向けさせた。
(隆弘、村に着いた。今から皆をテレポートさせて行く。どうだ?そっちは大丈夫か?)
(ああ、父さん、大丈夫だよ。神木と比べればこのブレイブは大したことないよ)
(了解。でも、油断だけはするなよ)
(うん)
「ちょこまか、ちょこまかと!こうなったら火炎龍だ!」
ブレイブは天に手を挙げ、炎の龍を呼び出した。
しかし、ゼノスの出した龍と異なり、やや貧弱に見えた。
「喰らえ!」
火炎龍が僕に向かってくる。
火炎龍は追跡してくるタイプの攻撃だ。
何かしらの攻撃で炎の龍を相殺しないと、ずっとこの攻撃は続く。
しかし、今回の場合、この状況が続く方がいい。
ブレイブは火炎龍を操ることに必死で周りのことが見えてない。
あとは僕がひたすら逃げ続ければいい。
「くそっ、なかなか当たらん」
ブレイブが苛立っているのがわかった。
確かに、火炎龍という技は追跡型で厄介ではあるが、スピードはない為、体力さえあれば怖い技でもない。
「くそっ、こうなったら火炎千矢!」
龍が突如、天に昇り炎の球になった。
「降り注げ、三千矢!」
次の瞬間、炎で出来た矢がすごい勢いで空から降り注いだ。
くそ、これは避けれない。
僕の最大スピードで移動してもこの広範囲の攻撃を避けることは出来なさそうだ。
そして、僕が覚悟を決めた次の瞬間、
「テレポート!」
父さんが水を転送し、炎の矢を打ち消した。
「父さん!」
「なぬ!また邪魔者か!」
ブレイブは自分の技を相殺され、さらに苛立った。
「隆弘、待たせたな」
父さんはブレイブを睨んだ。
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