第9話

 北村は今、『シャチョーノオカアサマ』と言ったように聞こえたのだが……聞き間違えだよな?


「北村君。誰が亡くなったって? もう一度言ってくれないか?」

「ですから、社長のお母様ですよ」


 一気に周囲の温度が、氷点下にまで下がったような気がした。


 ま……まさか……


「北村君。その社長のお母様のお顔とお名前は分かるかね?」

「先週の社内報に載っていましたよ。ちょっと、待ってください」


 北村は机の引き出しを漁りだした。


「実は僕の友達も、あの電車に乗っていたらしいのですよ。さっきツイッターに書き込んでいました」


 なに! まさか?


「その友達とは、女性かね?」

「ええ」


 まさかあの女、こいつの友達だったのか?


 他にも女はいたが、こいつと同じ年頃の女はあいつしかいないな。


「なんでもツイッターにグロ写真を上げて、犠牲者を誹謗中傷するような事を書き込んでいる非道い人がいたって書いていました」


 俺の事か。ていうか、それを知っているという事はやはりあの女だな。


「お! あった。課長。この人です」


 北村の差し出した社内報には、社長の家族写真が載っていた。


 社長夫婦と二人の娘が、車椅子に乗った白髪の老婆を囲んでいる写真がそこに載っている。


 その老婆の顔は、ツイッターに載っていたあの婆さん!


 名前もアカウント名と一致。


「そんなバカな!」


 いや、まずい事になった。


 このままでは、祟られる!


 いや、祟りが無くても、俺のツイッターが万が一にも社長に見られたら激ヤバじゃないか!


 削除だ!


 直ちに、書き込みは全部削除するしかない。


 俺はスマホを取り出し、ツイッター画面を開く。


 ん?


 俺のつぶやきに新たな返信?


 開いて見ると動画が投稿されている。


 何も操作していないのに、動画が再生されだした。


 動画に映っているのはあの婆さ……いやいや社長のお母様。


 お母様の顔は、俺の見ている前で血に塗れていく。


 血塗れの顔でお母様は口を開いた。


『さあ、謝りなさい』



    了

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人身事故 津嶋朋靖 @matsunokiyama827

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