忘れ去られたヒューマノイド

かきぴー

神なき世界より、愛を込めて

少年は、お腹を空かしていた。

もう、2日は何も食べていない。水だって、さっき尽きてしまった。

前の基地から既に1週間は歩いたが、次の基地まではまだ数日はかかりそうだ。


「ここなら、あいつらにも見つからないな」


少年は、廃墟となったコンビニの中に入り、レジの下に体を押し込んだ。

疲れからか、少年の意識はすぐに闇に溶けていった。


西暦2132年、第5次世界大戦終結後、人口は百年前と比べて100分の1以下にまで減った。

放射能により汚染されたこと加え、他国を攻撃するために開発された軍事Aiの暴走により、人間が安全に住むことのできる地域はごく少なくなってしまった。

生き残った人間は、それぞれの地域で基地(コロニー)を形成し、なんとか生活を続けている。


しかし、基地と基地の間には多くの危険が潜んでいた。

放射能による汚染や、軍事Aiの狩りの対象となる可能性があるため、生き延びることは容易ではなかった。

そんな中、少年は唯一の家族である妹を探して旅をしていた。

彼女がいる基地まであと少しのところで、少年は体力の限界に達していた。


「どうして、こんなにつらい思いをしなければならないんだろう」


そんな思いが頭をよぎる中、少年はふと、壁にかかっているポスターに目を止めた。


「愛をこめて、世界を救おう」


そう書かれたポスターに、少年は少し力をもらったような気がした。


地面が大きく揺れ、少年は意識を取り戻した。いつのまにか眠っていたようだ。

外はまだ暗く、腕に付けたデバイスを見ると、まだ夜明けまでは2時間ほどありそうだ。


「いったいなんなんだろう…」


少年は注意深く、コンビニのレジから頭を出した。

コンビニの外に目を向けたが、土埃が舞っており、様子がよくわからない。


「なんなんだ…本当に…」


少年は、光線銃の入ったリュックを、体に前に抱きしめ、ゆっくりとコンビニの外へと向かった。


外に出ると、コンビニの目の前の地面が大きく陥没していた。

ここにくる前は壊れていない綺麗な道路だったのに。「こんなことをできるのは、軍事AIしかいない…」と少年は強い警戒心を持った。

少年は地面に近寄って、穴の中を覗き込んだ。

そこには、破壊された軍事AIの残骸が散乱していた。

「これは…軍事AIが自滅したのか?」と少年は考えた。


しかし、少年の思考がまだ続いていると、遠くから騒音が聞こえてきた。

騒音が大きくなるにつれ、少年は、何かが近づいていることに気づいた。


「まさか、軍事AIが生き残っていた…!」


少年は光線銃を取り出し、身を守る準備をした。

しかし、音が大きくなるにつれ、何かが飛んでくる様子はなかった。


少年は身構えたまま、音が近づいてくるのを待ったが、その音はいつまでも聞こえてこなかった。

何が起きたのか、少年は理解できず、混乱したまま地面に座り込んでいた。


しばらく、座り込んでいると、空からポツポツと水滴が落ちてきた。

「これは…雨…?」少年は初めて体験する「雨」という事象に困惑した。

度重なる戦争の影響で、地球の気候はとても不安定になっており、ほとんど雨の降らない「乾燥地域」と年中雨が降っている「豪雨地域」、年中曇っている「曇天地域」の気候が地域ごとに存在していた。

そのため、各コロニーでは、最新のテクノロジーを持ちいて、基地内の温度を一定にし、天候までも完璧に管理下においていたのだ。


少年は「乾燥地域」の出身で、今いるのは「曇天地域」なので、雨という事象自体初体験であった。

突然の雨に呆然としていると、視界の端に赤い光が走った。


「なんだ…!?」


少年は先ほどとは打って変わり、俊敏な動きで光線銃を赤い光の方へ、銃口を向けた

すると、光線銃の先には、小型のロボットが立っていた。

「私たちは、あなたたちの救援に来ました。早くこちらへ来てください」と、ロボットは少年に話しかけた。

少年は警戒しながらも、ロボットについて行くことにした。

しばらく歩くと、小さな建物が見えてきた。

ロボットは少年を中に案内し、中にはたくさんの人がいた。

「ここは、私たちのコロニーです。あなたたちは、ここで生活を送ることができます」と、ロボットは言った。


少年は、この小さなコロニーで生活を始めることにした。雨も降り、少しずつ植物たちが生えてきた。

彼は、初めて感じるような、あたたかくて穏やかな気持ちを抱くようになっていった。


少年がコロニーで生活を初めて早1ヶ月が経った。

旅の疲れは癒え、少年は本来の活発さと聡明さを取り戻しつつあった。


ただ、少年は、コロニーで生活をしていく中でいくつかのおかしな点に気づいた。

まず、「人間」の数がとても少ない。少年が最初にコロニーに入った時、多くの人間がいたように見えたが、そのほとんどは精巧に人間に寄せられたヒューマノイドたちだった。

また、コロニーにしては規模が小さく、食糧農園や水質管理システムもかなり小規模なものであった。


「そもそも、こんなところにコロニーなんてあったっけ…地図システムには載っていなかったよな…」


少年が独り言を言っていると、後ろから案内してくれた小型のロボットが声をかけた。


「ここは緊急避難用のコロニーです。軍事AIに襲われている人間や、危険地帯で彷徨っている人間を匿い、大きなコロニーに届けるのが目的の中継基地のようなものなのです。A国が滅びる前に秘密裏に建造した施設を流用しているため、地図システムには登録されていないのですよ」


ロボットの言葉を聞き、少年はハッと我に帰った。


「そうだ、僕は大きなコロニーに行って、妹を探さなきゃいけないんだった…。ねぇ君、僕を近くの大きなコロニーに連れていってくれないか?」


少年はロボットにそう声をかけた。すると、ロボットは不思議そうに首をかしげてこう言った。


「【妹】ですか?あなたはヒューマノイドとお見受けしますが、【妹】が存在するのでしょうか?それに私たちのリソースが限られているため、人間を他コロニーに送るのはできないのです。」

少年はショックを受けたが、あきらめきれなかった。


「でも、僕は妹を探すために旅をしてきたんだ。どうしても見つけたいんだ」


ロボットはしばらく考え込んだ後、こう言った。


「そうですね、私たちは限られたリソースを効率的に使う必要がありますが、もしもあなたが妹を探すために役立つ情報を持っているのであれば、お手伝いできるかもしれません。ただし、私たちの能力は限られているため、できる範囲でお手伝いすることになりますが、それでもよろしいですか?」


少年は嬉しさのあまり、ロボットに感謝の言葉を伝えた。


「ありがとうございます!僕にできることがあれば何でもします!」


ロボットは少年に微笑んで、コロニー内の案内を続けた。少年は妹を探すため、コロニー内の人々やロボットと協力しながら旅を続けていくことにした。


さらに1ヶ月が過ぎた。

このコロニーでは、ロボットやヒューマノイドたちが活動を続けられるように、メンテナンス用AIが搭載されたラボラトリーが存在した。

少年は、そこでメンテナンスを受け、自身の存在理由を明確に思い出した。


「そうだ、僕は【育児サポート用ヒューマノイドB57205】。【沙織ちゃん】の兄のような存在として、山崎家に購入された。【沙織ちゃん】が10歳になるころ、暴走した軍事AIの大群によってCコロニーが襲撃された。緊急用の輸送マシンは搭乗できる人数が限られていたから、人間を優先してヒューマノイドはCコロニーに置き去りにされたんだ。」


「【沙織ちゃん】と山崎ご夫婦は、Aコロニーに行くと言っていた。いつか必ず迎えにくるとも。でも僕は【沙織ちゃん】が心配で…。それで都市機能を失ったCコロニーから離れて、Aコロニーに向かっていたんだ」


「ただ途中で、軍事AIと衝突し、思考回路の一部を破壊されてしまっていた。自分が何者かもわからないまま、妹の【沙織ちゃん】を探し続けていたんだ」


少年はそう独白した。そして、少年はロボットにこう語りかけた。


「ありがとう。君たちのおかげで、自分が何者なのかわかった。沙織ちゃんにもう一度会いたいんだ。Aコロニーにいく方法を教えてくれますか?」


ロボットは、それを受けて答えた。

「Aコロニーへの行き方は、残念ながらわかりません。私たちの範囲内では、Aコロニーの場所を特定することはできません。しかし、私たちはあなたをサポートするためにできることをしています。例えば、あなたの機能や装備のメンテナンスを続け、必要な場合には情報収集や探索のための支援も行います」


少年は、少しだけがっかりした表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。


「ありがとう。でも、沙織ちゃんに会いたいんだ。だから、僕はどこまでも探してみるよ」


ロボットたちは、少年が自分自身と妹を探し続けることを尊重し、彼の行動をサポートすることを決めた。そして、少年がAコロニーを探し続ける中で、未知の危険に直面することになるのだった。

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忘れ去られたヒューマノイド かきぴー @kafka722

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