第124話 水着のお披露目
水着に着替えた俺と藤城君は早速コテージから出て浜辺に向かう。
女性陣はどうしても着替えるのに時間がかかってしまうので、俺たち男子が先に出て、浜辺にパラソルを立てて場所を取っておこうってことになったからだ。
夏休みの最中なので、今はまだ朝なのにそれなりに人がいるけど、まだ取れそうな場所は結構残っている。
これから人が増えていって、浜辺に人の海が出来上がるって考えたら早めに取っておくに越したことはないだろう。
「とりあえずこの辺にしとくか」
「そうだね。あまりコテージから離れ過ぎても荷物の運搬が大変だもんね」
「バーベキューとかもするからな」
男2人で協力しながら、砂浜にパラソルを立てる。
うん、結構いい場所を取れたんじゃないかな?
手持ち無沙汰になった俺たちは、なんとなく海を眺める。
「……なあ、優陽」
「……なに? 藤城君」
声をかけられた俺が返事をしながら、藤城君の方を向くと、彼もこっちを真剣な顔で見つめてくる。
「正直に言って、めちゃくちゃ落ち着かねえ」
「分かる」
だって、俺たちが待っているのは水着姿の女子だよ? しかも、普通の子じゃなくて超級に可愛い美少女3人。
パラソルを立てたりと他のことをしている間は意識を逸らすことが出来たけど、やることがなくなったら否が応でも意識してしまう。
トップカースト陽キャの藤城君でさえそわそわしてるのに、元ぼっちの陰キャの俺が落ち着いていられるわけがなくない?
「藤城君ってこういうのに慣れてると思ったから、意外だったよ」
「お前、陽キャが夏にはいつも異性の友達も交えて海に行ってると思ってるタイプだろ」
「え、違うの? 夏は浜辺で焼いた肉片手にクラスの可愛い子とウェーイしてるんじゃないの?」
「そりゃラノベの読み過ぎだな」
「ありがとう」
「今のどこを褒め言葉だと受け取った」
だってオタクにとってラノベの読み過ぎは褒め言葉みたいなもんだし。
そんな俺を見て、藤城君がため息をつく。
「あのな、普通にそんなことねえからな? 大体、どれだけ女子の水着とか見慣れてても好きな奴の水着なんて落ち着いてられるかってんだよ」
「そ、そうだよね」
「というか、女子のことがよく分かんねえよ……なんで下着と同じ面積の水着はオーケーなわけ? そうはならなくね?」
「だよね!?」
男子からしたら正直下着も水着もデザインが泳ぐ用か否かで区別なんて出来ないよね!?
俺たちが大真面目な顔をして頷き合っていると、
「——お待たせー! 2人とも!」
背後から聞こえてきた声に、俺たちの肩がびくりと跳ねる。
この声は芹沢さんだ。
俺と藤城君はなんとなく一瞬アイコンタクトを交わし、タイミングを合わせて振り返った。
「「……っ」」
そして、揃って息を呑む。
だって、そこにいたのはいつもの学校のアイドル的美少女じゃなくて、水着を着用した美少女。
周囲からの視線は当然の如く、そんな彼女に集まっていて、そんな美少女が俺たちに向かって笑いかけているのだ。
言葉なんて簡単に出てこないし、目を奪われて当然だろう。
そんな俺たちの反応を見て、芹沢さんが自信満々に不敵に笑ってみせる。
「ふふん。どうやらこの宇宙一の可愛さに見惚れて声も出ないようだね」
実際その通りだし、言われるのはなんだか釈然としないけど、白色に黄色い花が咲いて、肩と胸にさりげないフリルが付いた水着は驚くほどに似合っている。
髪型なんかもいつもは下ろしてるのに、今日は緩い2つ結びのおさげが肩口に揺れていた。
それでいて、普段は覆い隠されている胸の谷間とか、程よい肉付きのくびれとか、形のいいへそとか、触ったら柔らかそうな太ももから伸びるすらっとした足とかにも視線が誘導されて、目が離せる気がしない。
いや、ぶっちゃけ頻繁に部屋に遊びに来てるわけだし、胸チラとか脇チラとかへそチラとか見たことないわけじゃないんだけど、それは一瞬だけだったし、俺もなるべく見ないようにしてた。
でも、水着となればそうはいかない。とにかく破壊力が段違いだった。
「お、おう。まあ、似合ってんじゃねえの?」
「ふふん。そうでしょ? ほら、優陽くんもなにか言うことがあるんじゃない?」
「う、うん! 似合ってるよ!」
藤城君に倣って思ったままを告げると、なぜかジトっとした目で見られた。
なんなんだ、一体。
そう思ったけど、俺はすぐに芹沢さんがなにを言いたいのか察してしまう。
「可愛い」
「ん! 正解!」
彼女にとって1の番の褒め言葉を口にすると、芹沢さんがにぱっと笑う。
水着のせいかいつもの3割増しくらいで眩しい。
これ以上の直視は危険だ。
それとなく、俺が視線を逸らすと、その先で今度は水着姿の和泉さんがこっちに歩いてくるのが見えた。
胸の中央と腰の横側が紐で編み上げられている黒い生地のビキニ。
谷間どころか、角度によっては谷底まで見えてしまいそうなのに、和泉さんは恥じらうこともなく堂々と着こなしている。
ウエストなんかは芹沢さんより絞られている感じで研鑽のされたスタイルって印象を覚えた。
ついまじまじと見つめてしまっていると、近づいてきた和泉さんが困ったように笑う。
「そんなに見られるとさすがに恥ずかしいかなーって」
「あ、ご、ごめん! なんというか、完全に目を逸らすタイミングを逃しちゃって!」
「ま、いいよ。見惚れてくれたってことで許したげる」
ウィンク1つと共に俺の愚行は許された。
もうなんか、水着姿と相まってウィンク1つとってもめちゃくちゃサマになってる。
綺麗だしカッコいいし可愛さもある。
なんだこの人、無敵か?
「……ふーん? 超絶可愛い私が目の前にいるのに私の前で他の子に見惚れた宣言ですかー?」
しまった。あっちが許されてもまだこっちがいたか。
「私の時より梨央を見てた時間の方が長いんですけどー?」
「そ、それはその……芹沢さんはちょっと直視が難しいくらい可愛かったから……」
「ふーん? なら私はそんなに可愛くないってことかー。直接言われるとさすがにショックかもー」
「和泉さんまで!? 俺は一体どうすればいいの!? 悪ノリはやめてよ!」
俺がみっともないほど狼狽えていると、皆が声を上げて笑う。
どうやら盛大にからかわれたらしい。
まあ、少なくとも芹沢さんのあれはマジのやつだったと思うけど。
「あ、乃愛ちも来た」
その声に、俺はコテージの方を向く。
そして、やっぱり目を奪われて、少しだけ息を呑んでしまう。
乃愛の水着は薄い水色に、花柄のパレオ付きのビキニ。
ざっくりと編まれた三つ編みにされた、白く透き通るような白髪が、日光を浴びて眩しいくらいに煌めいて、その姿はまるで異世界のお姫様のようで。
そんな現実離れした雰囲気なのに、惜しげもなく晒された太ももや存在を主張している胸はどうしようもなく肉感的で、くらりと目眩がしそうなくらいだった。
なんだか水着に関しては全員同じような感想になったけど、許してほしい。
女子の水着耐性のない陰キャオタクの語彙力なんてこんなもんだし、ぶっちゃけなるべく見ないようにしていても俺も男なので水着のデザインよりも胸、お尻、太ももに目が吸い寄せられてしまうのだ。
「ん。お待たせ」
「あ、ああ。うん。時間かかってたけど、なにかしてたの?」
「湊さんに髪、編んでもらってた」
「そうなんだ! うん! 可愛いよ、似合ってる!」
「ん。ありがと」
いつもなら慣れてるし、別に平気なんだけど、やっぱりさすがに女子の水着姿を近くで目にするのはどうにも気恥ずかしい。
誤魔化すように無駄に大きな声で話していると、乃愛が俺のことをじっと見つめてくる。
「な、なに?」
「……髪、だけ?」
「へ?」
「……」
「え、っと……水着も大変よく似合ってます」
「ん。ありがとう。嬉しい」
無言の圧に負けたけど、俺は本当にそう思ってる。
「って、わ!? こ、今度はなに!?」
急に乃愛が俺の身体にペタペタと触れてきた。
「筋肉、凄い。前から感触がゴツゴツしてて、気になってたから」
「だからって急に触るのは……うわっ!? なんで皆まで触ってくるの!?」
「いや、改めて触るとマジで凄いね、これ。私もジムに行ったりしてるけど、生半可なやり方じゃこうはならないよ」
「うん。いくら健康に気を遣ってるからって、普通はこうはならないよね」
「あわ、わわわわ……!」
多方面から3人に身体をペタペタと触られ、俺は完全にキャパシティオーバーだった。
「お、俺、ちょっと泳いでくる!」
俺は包囲網を突破し、海に向かって駆け出した。
*
……危なかった。
私は海に向かって走っていく優陽くんの背中を見ながら、こっそりと胸に手を当てる。
胸に当てた手からは早くなった鼓動が伝わってきた。
上手く平静を装えていたか不安になるほど、ばっくばくだった。
だって、あんなの反則だ。
腹筋とかは見せてもらったことあったけど、こうして上半身裸の優陽くんを見るのは初めてで。
腕とか背中とか、モコっとしてるし、腹筋もやっぱり割れてるし。
可愛い顔してるのに、あんなに逞しくてかっこいいなんて反則過ぎる。
私がドキドキさせてやるって思ってたのに、私の方がうっかりドキドキさせられちゃうなんて、納得出来ない。
というか、梨央にも乃愛ちにも鼻の下伸ばしちゃってさ。
……ばか。
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