第122話 陰キャ、車内で責められる

「……どう、でしょうか」


 夏休みも数日過ぎた。

 俺は、プレゼントのアクセサリーを作る為に、毎日のようにリリィさんの所へと通っていた。

 そして、今日。


 俺は、遂に完成した芹沢さんへのプレゼントをリリィさんにチェックしてもらっているところだ。

 まじまじと俺の作ったアクセサリーを見つめているリリィさんを、俺が緊張しながら見つめていると、


「……うん。オッケー」

「本当ですか!?」

「いやいや、よく2ヶ月もない状態でここまで作ったもんだ。師匠として鼻が高いよ」

「ありがとうございます! リリィさんの教え方がよかったお蔭です!」


 そうじゃなきゃ、2ヶ月もない状態で1からアクセ作りを習って、完成まで持ってこれるわけがない。

 少なくとも、1人で動画を見ながら独学でやってたらまず無理だ。


 だって、リリィさんが最初に言っていたのは、プロである自分が納得して、売り物に出来るレベルのものを作ってもらうってことだったんだから。


 もちろん、俺の作ったこのアクセサリーが、本当に売り物として通用するなんてそんな自惚れたことは思ってない。

 だけど、自分で満足いくものが作れた、という自信が珍しく俺の中にはあった。


「あら、遂に出来たのね!?」


 そこに響き渡るオネエの声、店長だ。

 店長は俺の手元にあるアクセをそっと持ち上げ、しばらく見つめたあと、「うん」と満足そうに頷く。


「いい出来ね。これなら、きっと空ちゃんも喜んでくれるわ」

「……そうだと、いいんですけど」


 多分、普通に喜んでくれるとは思う。

 でも、それだけじゃダメで、このプレゼントには少しでも芹沢さんのからっぽを満たすっていう目的がある。


 そう思ったら、なんだかとても、このプレゼントが重いものに思えてきてしまった。


「大丈夫よ! もし喜ばないようならあたしが直々に怒りに行ったげるから!」

「……パパが本気で怒ったら絶対泣いちゃうって」


 それはそう。俺もちびる自信がある。


「んもう、冗談よ! プレゼントはこれでいいとして、これのケースも少し工夫しましょうか」

「はい!」


 そうして、俺はプレゼント作りの最後の工程に取り掛かるのだった。






 そこから、数日後。

 あっという間に時間が経って、旅行当日となった。

 日程としては芹沢さんの誕生日である8月9日の前日、8月8日から乃愛の所有している別荘に向かって、1泊して、別荘で誕生会をするということになっている。


「——優陽、これ食うか?」


 窓から流れる景色を見ていると、俺の右後ろに座っている藤城君がポッキーの箱を差し出しながら、声をかけてきた。


「うん、ありがとう」

「おう。湊さんもどうっすか?」


 俺が1つ受け取っていると、藤城君は次に俺の隣に座って運転してくれている湊さんへとお菓子の箱を差し出す。

 

 実は、俺たちは今、乃愛のお世話係の天瀬湊さんの運転する車で別荘に向かっている最中だった。

 最初は新幹線で行こうって話になっていたんだけど、湊さんのご厚意もあって、こうして車で連れて行ってもらうことになったのだ。


 ……まあ、なんで俺が助手席に座ることになっているのかって話だけど。


 これは、さすがにいくらなんでも湊さんと初対面である芹沢さんと藤城君と和泉さんに助手席に座ってもらうのは気が引けたからだ。

 3人ならあっという間に打ち解けるだろうし、自分たちが助手席に座ってもいいと言ってくれてはいたんだけど……。

 

 その時、俺たちの様子をじっと眺めていた湊さんが「なんとなく優陽クンが助手席に座ってくれるのが1番平和に済みそうなんだよねー」とよく分からないことを言って、藤城君以外がなぜか納得した様子を見せたので、こういう形に落ち着いたのだ。


 ……俺ってなんか戦争の火種なの?


 そんなこんなで決まった席順は、助手席に俺、その後ろに芹沢さん、右後方に藤城君、その後ろが和泉さんと乃愛という形である。


「おーありがとー。って言っても、両手塞がってるからー」

「あ、なら俺が食べさせてあげますよ」

「へ?」

「「は?」」


 なぜか驚く湊さんに、後ろから芹沢さんと乃愛、2人分の声が重なって聞こえてきた。

 ……? なんでこんな反応の仕方を? まあいいか。

 俺は藤城君からお菓子の箱を受け取って、1本を湊さんの口元に差し出す。


「はい、どうぞ」

「い、いやー……あのー……優陽クン? その、ね? わたし、今ちょーっとお腹いっぱいかなーって……」


 湊さんがだらだらと冷や汗をかきながら、ちらちらとバックミラーの様子をうかがう。


「あ、そうなんですか?」

「う、うんー。だから、気持ちだけ受け取っておくねー……」


 そっか、それなら仕方ない。

 というか、なんか車の中の温度が下がった気がするんだけど……エアコン効き過ぎてるのかな?


「ゆ、優陽ー? 私がそれ食べるから後ろに回してもらってもいい?」

「あ、うん。芹沢さん、これ和泉さんに渡してもらっていい?」


 俺は芹沢さんにお菓子の箱を渡す為に、くるっと後ろを振り返る。

 すると、芹沢さんが俺の顔を見つめて、にこりと微笑んだ。


「うん分かった! ……女たらし」

「っ!?」


 今、笑顔のままとんでもないこと呟かれたんだけど!?

 え、なんで!?


 俺しか反応していないあたり、どうやら俺にしか聞こえていないらしい。

 ……この人、俺のひとりごとを拾うスキルを有効利用してきたんだけど!?


 理由を探っていると、ポケットの中のスマホがブッと短く振動した。

 この感じは誰かからのメッセージだろう。


『(NoR)優陽くんのくそばか』

「くそばか!?」


 RAINじゃなくてリスコの方に送られてきたとんでもないメッセージに、俺はぐるんと後ろを振り返り、乃愛に目を向けた。

 そのメッセージを送ってきた当人は、しらっと窓に視線を向けていて、こっちを見ようともしない。


 そうして、またスマホが短く振動する。


『(芹沢空)私の時は食べさせるのためらった癖に』

『(芹沢空)バカ』


 え、ええ……?

 届いたメッセージに再度後ろを確認すると、その当人はやっぱりどこか拗ねたようにしらっと窓の外を眺めていた。


 な、なんでこんなことに?

 理由が全く分からずに、戸惑う俺のスマホがブッ、ブッ、と短く振動を繰り返す。


 乃愛、芹沢さん、芹沢さん、乃愛、芹沢さん、乃愛、石浜君。

 まるで餅つきのように俺をチクチクと攻め立ててくる連絡に、俺はますます首を捻るのだった。






***


あとがきです。


新作の投稿を始めました!

新作と言っても前に投稿していたもののリメイクですが、よろしければぜひ読んで見てください!


https://kakuyomu.jp/works/16818093088197041724


カクコンにも参加予定です!

この作品と合わせて、面白い、続きが気になると思っていただけたら、


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