第121話 終業式といつも通りの陰キャと陽キャ美少女
あっという間に時間は流れて、今日は終業式の日だ。
プレゼントの準備だったり、友達と遊んだりと、今年の7月は本当に今までで1番過ぎるのが早かったように思う。
明日から始まる夏休みのこともあってか、心はずっと浮き足立っていて、夏の気温の高さと人が集められたせいでもっと暑くなった体育館も、教師たちの長い話もまるで気にならない。
……まあ、だとしても校長の同じような話を繰り返す長話はどうにか短くしてほしいけども。
そうして、そんな終業式も幕を閉じ、長話は校長の話だけで十分だからと、少々愚痴の入った担任の短く配慮されたホームルームが終わった。
その途端、一気に我慢していた皆の活気が爆発したように、教室内、というか学校中でさえもが、一気に騒がしくなったような気がした。
競るように我先と教室を飛び出していくクラスメイトたちを他人事のように眺めていると、
「優陽くん帰ろー」
芹沢さんが鞄を背負って近づいてきた。
今日はこのあとそのまま俺の部屋に来るってことになっているので、一緒に帰ろうって約束をしていたのだ。
なんか、こうやって学校で芹沢さんたちと過ごすことが当たり前になり過ぎて、もう誰も好奇の目で見てこなくなっていて。
もうこれが俺だけじゃなくて、皆にとっての日常に溶け込んでいることに、どうしようもなく時間の流れを感じてしまう。
……まあ、さすがに芹沢さんが俺の部屋に定期的に遊びに来ていることは相変わらず秘密にしてるんだけどね。
身近になり過ぎてて忘れがちだけど、この人うちの学校のアイドル的存在だし。バレたらファンとか好意持ってる人に夜道で奇襲されちゃうから。
そんなことを考えつつ、他愛のない話をしながら帰っていると、特になにも起こることなく部屋に辿り着いた。
「洗面所借りるねー」
「うん、どうぞー」
芹沢さんはこの部屋に来るようになってからしばらく経つのに、トイレとかキッチンとかを使う時には、いつもこうして許可を取ってくる。
前に許可取らなくてもいいよって伝えたけど、「どれだけ慣れたとしても、親しき仲にも礼儀あり! だよ!」と言われたんだよね。
まあ、俺だって人の部屋を使う時はそうすると思うから、納得した。
「ふぃー……やー、今日も暑かったねー」
着替え俺がリビングに戻ると、洗面所から私服姿の芹沢さんが出てくる。
芹沢さんは最近学校帰りに俺の部屋に来る時は、制服姿じゃくつろぎにくいという理由で過ごしやすい服を持って来るようにしていた。
それだけじゃなく、何着かは予備がうちに置いてあったりする。
「そうだね。でも明日から夏休みだよ。徹夜でゲームし放題」
「それ! 明日学校だし寝なきゃがない! 最高!」
「それで、夏休みの最終日にすっかり昼夜逆転してて眠れなくなって明け方に寝て遅刻するまでがワンセットね」
「優陽くん……君、どうして私の過去のことを知ってるの……? まさか、ストーカー? ちょっとやめてよね? 私が可愛過ぎるからって」
「ヒント。体験談」
言い合って、けらけらと笑い合う。
俺も芹沢さんも明日からの夏休みでテンションがおかしくなっているらしい。
俺は冷蔵庫からアイスを取り出し、ソファでくつろぐ芹沢さんに差し出した。
「ありがとー。わ、これ、私の好きなやつだ」
「あ、やっぱり? なんか好きそうだなーって思ってさ。一緒にいることが増えてきたし、そのお陰か芹沢さんのこと結構分かるようになってきたんだよね」
自分の芹沢さんに対する理解が合っていたことが嬉しくて、にこにことしていると、芹沢さんが口元をもにょっとさせて、徐々に顔を赤くしていき、ガバッと顔を膝に押し付けるようにしてしまった。
「あーもーっ! 不意打ちー! もーっ!」
「へ? ふ、不意打ちってなにが?」
「教えない! 優陽くんのファッション陰キャ!」
「不名誉な呼び名が広まってきてる!?」
なんでこの状況でファッション陰キャ呼ばわり!?
芹沢さんがどうしてか照れてるらしいということは分かったものの、どうして照れてるのかまでは分からなかった。
「……まったく。君、ほんとそういうところだからね」
少し時間がかかって、ようやく復活した芹沢さんが俺に恨めしげな視線を向けてくる。
「そういうところって言われても……言ってくれないと直しようがないんだけど」
「それでも自分で考えてください。私は絶対教えないから」
ベーっとしたを出されてしまう。
えー……? ちょっと理不尽過ぎない?
どう考えたって分からないし、もう話題をごそっと変えてしまおう。
えーっと、あ、そうだ。
「そういえば、新しいゲーム買ったんだけど……やるよね?」
「え!? もしかして昨日発売されたやつ!? やるやるやりたい! Vtuberの配信見て気になってたんだよね!」
「もうソフトは入ってるし、ご自由にどうぞ」
ウキウキとテレビ台からコントローラーを取り出してくる芹沢さん。
オタクはこういう時、好きなものの話題を振れば一瞬で機嫌がよくなるから扱いやすいよね。俺も同じオタクとしてよく分かる。
さて、俺は昼ごはんの準備をしようかな。
そう思って、キッチンに入る俺に「優陽くん」と声がかかる。
なんだろう、と芹沢さんの方に顔を向けると、芹沢さんはコントローラーを持って、俺に笑いかけてきた。
「夏休みもたくさん遊ぼうね!」
一瞬、面食らったものの、俺はすぐに微笑み返し、
「うん! もちろん!」
そう返した。
こうして、俺と芹沢さんがいつもと同じようなやり取りをする中、夏休みは始まったのだった。
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