第119話 白髪美少女とのデート⑤
色々とあったのものの、昼食を食べ終えた俺たちが次に向かったのはこれも遊園地の定番、お化け屋敷だった。
「おお……凄い作り込んであるね」
「ん。雰囲気大事」
目の前にある洋館風の建物を見上げながら、俺たちは感想を言い合う。
ここのお化け屋敷はより没入感を演出する為に、VRシステムを使用していて、エンディングが変わるマルチエンドシステムを採用しているらしい。
具体的には俺たち客には体力が設定されていて、建物内を徘徊する化け物から逃げつつ、制限時間内に隠されたお札を全て集めるというもの。
化け物にやられてしまえば当然ゲームオーバー。お札の枚数でエンディングが変化し、お札が全て集まっていれば真エンドに到達出来るらしい。
「ゲーマー心くすぐるシステムだよね」
「ん。目指すは真エンド一択」
建物内も暗く、怖い雰囲気に満ちていたけど、乃愛は恐怖心よりもどうゲームを攻略するかというワクワクが勝っているようだ。
俺もホラーゲームにはそこそこ耐性がある方だと思うけど、こういう自分が実際に歩き回る体験型になるとどうなるか分からない。
期待感と恐怖感を内側で抱えながら、受付で説明を受けると薄暗い小部屋に通される。
そこでモニター越しに洋館の管理人だという人物から説明を受け、没入感を更に煽られてから、VRゴーグルを装着してから、俺たちは洋館内に足を踏みれることとなった。
「えっと、あの管理人が言うには、館内には昔ここに住んでた女性が怨霊となって徘徊してるって話だよね?」
「ん。その怨霊に見つかったら追いかけてくるから、私たちは怨霊に見つからないようにしつつ、お札を全部集めないといけない」
2人で受けた説明をまとめていくとそんな感じ。
というか、VRで怨霊がちゃんと徘徊していて、俺たちを追いかけてくるって、相当手の込んだ仕組みだ。どうやってるんだろう。
そんなことを考えていると、俺たちの前方から、おどろおどろしく、異形な形をしたなにかが姿を現した。
やばっ、こっちに来てる!
「乃愛! とりあえずこっち!」
俺は乃愛の手を引いて、近くにあったロッカーに飛び込んだ。
ロッカーは狭く、俺は乃愛を胸に抱きしめる形になってしまったけど、仕方ない。
「……っ!」
「しっ。静かに」
俺の胸の中で息を呑む乃愛の耳元でささやく。
音に反応するのかは分からないけど、もし今気付かれたら逃げることが出来ない。
そのままで待っていると、不気味な声を上げながら怨霊が過ぎ去っていく。
静かになったのを確認した俺たちはロッカーから出た。
「……なるほど。あの化け物が近くにいるかどうかはあの声で分かるっぽいね」
「……」
「あれ? 乃愛?」
話しかけても返答がない。
VRゴーグル越しなので、乃愛の表情をうかがうことも出来ない。
「……いきなりあんなの、心臓に悪い」
「え? あ、うん。そうだね。あんなのいきなり来てほしくないよね」
「……そうじゃないけど、もうそれでいい」
乃愛がふいっとそっぽを向いて、歩き出す。
「優陽くんの、ばか」
なぜかぼそっと罵倒してくる乃愛のあとを、俺は首を傾げながら追いかけたのだった。
「いやー無事クリア出来てよかったね」
およそ30分後。
俺たちはどうにか館内にあるお札を全て集め切り、真エンドを迎えて洋館から脱出することが出来た。
最初はどこか心ここにあらずだった乃愛も、時間が進むにつれてどんどん調子を取り戻して、次々とお札を見つけていた。
「ん。危ない場面もあったけど、楽しかった」
「そうだね。お札を集め終わったあとの脱出口付近で怨霊が猛スピードで追いかけてきたのはさすがにびっくりしたけど」
乃愛は運動が苦手だし、どうなることかと思ったけど、全力で手を引いてどうにか逃げ切ることが出来た。
「うーん、帰る時間も考えて次のアトラクションが最後にしておいた方がいいかもね」
いくら明日も休みとはいえ、今から車で数時間かけて帰る上に、晩ご飯も食べて帰ることを考えたらそうするべきだろう。
「ん。異論なし。私の体力も限界ギリギリ。引きこもりの体力じゃ1日中遊園地にいることは難しいみたい」
「でも、体力は付いてきたんじゃない?」
「ん。最近はどうにか学校の体育のあとの筋肉痛もあまりならなくなってきた」
「おお、成長だ」
初日は体育のあとすぐに筋肉痛になっていたことを思えば、十分な進歩だと思う。
「じゃあ、あまり刺激のあるものは避けておいた方がいいかもね」
「ん。なら、あれに乗りたい」
乃愛が指差したのは、観覧車。
なるほど。確かにあれなら座ってるだけで済む。
話もまとまったので、俺たちは観覧車の元へ。
並んでいる人も少なかったので、スムーズに乗ることが出来た。
俺と乃愛は向かい合わせに座る。
どんどんと遠ざかっていく地面を横目で眺めていると、
「優陽くん」
乃愛から声をかけられた。
「なに?」
「……今日、楽しんでもらえた?」
どこかうかがうような声音に、俺は首を傾げる。
「どうしたの、急に?」
「サプライズとはいえ、結構無理矢理連れてきたから」
実は気にしていたらしい。
「うーん……確かにびっくりはしたけど、ちゃんと楽しかったよ。というか、乃愛と遊ぶのはいつだって楽しいよ」
「……ん。なら、よかった。私も優陽くんと遊ぶのはいつでも楽しい」
元ぼっちの性なのか、こうして遊んでいて楽しいと言葉にしてくれるのは、嬉しさでちょっとそわそわしてしまう。
どうにも恥ずかしくなって「あはは、それはよかった」とはにかむ。
それから、なんとなくお互いに無言になって、しばらく小さくなっていく人混みを眺めていた。
頂点が近づいてきた辺りで、再び「優陽くん」と声がかけられた。
「私、夏休みの間に引退配信をしようと思ってる」
「……そっか」
「ん。寂しいけど、白峰のえるはもうおしまい。これからは、新しい私を始める」
どこか寂しそうに、乃愛がわずかに口角を上げる。
青い瞳がどこか心細そうに揺れていた。
「……きっと、かなり大変。人間関係とか色々、絶対苦労する」
「うん」
「……ファンとか同僚とか、先輩とかから受け入れられないかもしれない。アンチからたくさん叩かれたりもするかもしれない。怖い」
「うん」
「そうなっても、私のこと、応援してくれる?」
「もちろん。当たり前だよ」
迷うことなんてない。
即答してみせると、乃愛はすぅ、と大きく息を吸って、静かに目を閉じて、また目を開ける。
そこにはもう、さっきまでの揺れていた不安そうな瞳はどこにもなくて、どこまでも真っ直ぐな澄んだ瞳がこっちを見つめてきていた。
「ん。なら、大丈夫。私は頑張れる」
そして、俺たちは観覧車を降りた。
その後、湊さんと合流した俺たちは、遊園地をあとにすることになった。
さすがに疲れていたらしく、いつの間にか眠っていたらしい俺が目を覚ますと、そこはもう家の近所で。
俺と乃愛は肩を寄せ合って寝ている状態だった。
熟睡している乃愛を起こすのは悪いので、俺は湊さんにお礼だけ伝え、車を降りる。
こうして、乃愛との突発的なお出かけイベントは幕を閉じたのだった。
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