第116話 白髪美少女とのデート②
それから小1時間くらい経って。
俺たちは遊園地に到着した。
「さすがに人がいっぱいいるね……」
「……ん」
さすが、結構大きな遊園地というだけあって、朝早いのにめちゃくちゃ人が多い。
ここまで人が集まっているのなんて見る機会なんてそうそうないから、ちょっと圧巻。
少し気圧されていると、乃愛がたたらを踏むようにして身体をふらつかせた。
「乃愛? 大丈夫?」
「ん。大丈夫。ちょっと人に酔っただけ」
「もう!?」
まだ園内に入ってもないんだけど!?
いや、まあ、人が1番多く集まるのって出入り口付近だし、引きこもり体質で人混み耐性がないに等しい乃愛からすれば仕方ないことなのかもしれない。
どうしよう。このまま人混みの中に入っていったらもっと気分悪くかもだし、ふらついて他の人にぶつかっちゃうかもしれないよね……?
うん、よし。
「じゃあ俺の腕に捕まってていいよ。支えくらいにはなるでしょ?」
そう言って、腕を軽く差し出すと、乃愛は俺の腕をじっと見つめて少し逡巡する様子を見せた。
というかなんだか嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。
「どうしたの?」
「……まさか優陽くんのファッション陰キャ力に頼らないといけない日がくるとは。今日まで自分が情けないと思った日はない」
「そんなに!? というかなんでここでもファッション陰キャ認定!?」
「こういう場面で迷わず腕に捕まってていいなんて言い出せるなんて陰キャじゃ無理だから」
「偏見が過ぎる!」
この世界にどれだけの陰キャがいると思ってるんだ! 俺みたいな陰キャだっていっぱいいるよ! 陰キャだってやる時はやるんだぞ!
「なるほどー……これがおじょーさまがいつも言ってるファッション陰キャってやつかー。初めて見たー」
「いや、なんか珍獣見たみたいなテンションで言われても……」
俺たちの様子を眺めていた湊さんが感心したように呟く。
俺としては普通にこうするべきだと思ったからやってるだけなので、そう呼ばれるのはちょっぴり不服だ。
「あ。俺に捕まるのが嫌なら湊さんに捕まれば……」
「いやいやー。そこはわたしの出る幕じゃないよー」
「でも、乃愛も俺より湊さんの方が安心出来ると思うんですけど……」
「仮にここでわたしが出しゃばろうものならきっとお世話係クビにされるからー」
「なぜ!?」
なんでただ腕に捕まるだけで職を失う可能性が!?
「ん。湊さん正解。……優陽くんがいい」
そんな言葉と共に、俺の腕が乃愛の小さな手にそっと掴まれる。
まあ、乃愛がいいならそれでいいんだけど……。
そんなやり取りをしながら、俺たちは人混みの流れに乗るようにして、ゲートを潜って園内に足を踏み入れた。
「おお……」
ゲートを潜った瞬間、目に飛び込んでくる作り込まれた世界観やアトラクションに思わず感嘆の声が漏れる。
なんというか、騒がしいのは苦手なんだけど、こういう普通の空間から切り離された非日常感ってどうしてもワクワクしてしまう。
「さーて。わたしはわたしで適当に回ってくるんでー。あとは若いお2人でー」
そう言うや否や、止める間もなく、湊さんは俺たちを置いてどこかに去って行ってしまう。
「えっと、止めなくてよかったの?」
「ん。知らない人がいたら優陽くんが気を遣うだろうっていう湊さんなりの気遣い」
ああ、なるほど。確かにこういう場であまり知らない人と回るのって会話とか困るし、結構気を遣うもんね。
「それに、湊さんは色々と自由な人だから」
「あー……うん。なんとなく分かる」
なんというか、ここまでの言動の印象では掴みどころがない、ふわふわした人って感じだ。
それでいて、気遣いはしっかりしてる辺り、そういう部分があるから乃愛から信頼を勝ち得ているのだろう。
車内でのやり取りを見ている感じ、付き人と雇い主って硬い感じじゃなくて、姉妹みたいに緩そうな雰囲気で仲良く見えたのがその証拠だと思う。
って、いつまでもこうして立ち止まってるわけにはいかないよね。
時間は有限なんだし。
「さて。じゃあ、気を取り直してどこから回ろうか」
「ん。最初はあそこがいい?」
乃愛が指差した先を見ると、
「グッズショップ?」
「ん。ちょっと見てみたい」
腕を掴まれたままなので、乃愛に引っ張られる形でグッズショップに向かうことに。
ショップの中に入ると、乃愛はざっと店内を見回して、目星を付けたらしく、とあるグッズの方向に向かって歩き出し、1つグッズを手に取った。
「カチューシャ? 付けるの?」
「ん。せっかくこういう場所に来たんだし、雰囲気は大事」
「なるほど。その場に合った装備を付けるってことだよね」
こくり、と乃愛が小さく頷く。
それから、「優陽くん」と俺を見上げてくる。
「私が付けるものを選んでほしい。代わりに、私が優陽くんのを選ぶ」
「選ぶのはいいけど……俺も付けるんだね」
「ん。お揃いしたい」
「……お揃いかー」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど、ちょっと恥ずかしいかなぁ」
どうしてもああいうのって女の子が付けるものだーって思っちゃうんだよね。
こういうテーマパークでは男も付けるものだって分かっててもどうしても恥ずかしさは拭えない。
「大丈夫。2人でやれば恥ずかしくない」
「……それもそうだね」
恥ずかしがってる方がもっと恥ずかしくなってしまう。
頷いた俺は、早速乃愛に似合いそうなものを物色し始め、一通り眺め終え、その中から1つ手に取る。
「やっぱり乃愛にはこれが似合うかな」
「白猫の耳?」
「うん。乃愛って言ったらやっぱりこれかなって思って」
キーホルダーも渡したし、乃愛をイメージで例えるなら、俺の中ではすっかり白猫として固まっていた。
俺はそっと乃愛の頭にカチューシャを装着する。
「うん。やっぱりよく似合ってると思うよ」
「ん。ありがとう。嬉しい」
乃愛が鏡を見て自分の姿を確認してから、俺の方に向き直って小さく微笑む。
「私も優陽くんに付けてあげたい。屈んで?」
「はいはい」
言われた通りに屈むと、乃愛の小さな両手が頭に添えられる感触と共に、頭にカチューシャが付けられる。
「ん。優陽くんもよく似合ってる」
「犬耳かー。俺ってそんなイメージ?」
「ん。普段は気が弱いところもあって、でも人懐っこい部分もあって、大事な時には勇気を出して立ち向かえる人だから」
面と向かって言われて、気恥ずかしさで目を泳がせてしまいつつ、俺は照れたことを隠せないままはにかんだ。
「えっと……はは、色々と過大評価だと思うけど」
「そんなことない」
「そんなことある、とは思うけど……うん。ありがとう、嬉しいよ」
ちょっと前の俺なら、絶対そんな風には思ってもらえなかっただろうから。
「と、とりあえず会計しちゃおうか!」
なんだか無性に気恥ずかしくなってしまった俺は、誤魔化すように早足でレジに向かって歩き出した。
その後、会計を済ませてから、俺たちは写真を撮って、再び園内へと繰り出した。
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