第107話 陰キャ、選択肢を正解する(ある意味間違い)
「——なるほど、アクセ作りかぁ」
昨日あった出来事を話し終えると、和泉さんが感嘆気味に呟く。
「なんというか、優陽って相変わらず予想の斜め上にいくよね」
「はは……自分でもさすがにどうかなとは思ったんだけど、今回はちょっとした事情があってね」
「だからって、なにをどうしたらプレゼントに悩んでるところから自作アクセサリーを作って贈ろうって発想になるんだよ」
同じく、話を聞いていた藤城君が呆れた声で言う。
うん、まあ……天啓って、あるよね……。
「そんなわけで、しばらく放課後と休日はそのアクセサリーショップに通うことになると思うから、勉強会はあまり参加出来ないかも……ごめん」
「ま、そりゃしょうがねえよ」
「うんうん。そもそも勉強会に付き合わせてるのは完全に拓人の都合だしね。文句を言えた義理じゃないよね」
「一言余計過ぎんだよ。そんで事実なのがまたムカつく」
「いや、そんなことないよ。俺が付き合わせてもらってるんだよ。皆と一緒に勉強会するの、楽しいし」
「……お前はお前でいい奴過ぎてなんか心配になるわ」
なぜか心配されてしまった。
ぼっちだったから友達どうしでするイベントに飢えているだけなのに。
「優陽くん。このことは空ちゃんに伝えるの?」
乃愛が小首を傾げてくる。
今、芹沢さんはトイレに行っていて、この場にはいない。
「……いや、さすがにこれは内緒にしないと。その方が驚きも倍になると思うし」
「ん。確かに。でも、隠せるの?」
「う……まあ、自信はないけど……どうにかやるしかないよ」
多分、どんなに隠したところで芹沢さんの誕生日の為になにかをしてるってことはバレるだろうけど。
芹沢さん、俺が張り切ってるの知ってるし。
俺たちが話していると、芹沢さんが教室に入ってくるのが見えた。
「そういうわけだから、皆。このことは内緒にしてね」
俺の言葉に3人がそれぞれ頷く。
そこに、芹沢さんが合流してくる。
「なになに? なんの話してたの?」
「乃愛の別荘の使ってオーケーだってさ」
「え、ほんと!?」
「ん。元々断られるとは思ってなかったけど」
和泉さんと乃愛がしれっと嘘をついた。凄い。まったく表情筋が動いていない。見事なポーカーフェイスだ。怖い。
(まあ、その話もしてたし嘘じゃないんだけど)
それにしたって嘘をつくのが上手過ぎる。俺も少しは見習った方がいいのかも……いや、嘘つくのを上手くなるのもそれはそれでダメな気がする。
「優陽に倣って今年は盛大に祝うから。覚悟しておきなよ?」
「あはは、楽しみにしときまーす!」
「旅費も空の分は少なめにして、残りはオレらで出し合おうって話になってるけど、いいよな?」
「え、いやいや! さすがにそこまでさせちゃうのは悪いって!」
「ん。気にしないでほしい」
「いや、気にするってば!」
「芹沢さんがそう言うって皆分かってたけど、俺たちは俺たちで誕生日の人にお金を出させるわけにもいかないからね。本当は残額出してあげたいんだけど、折衷案で少額だけ貰おうって話になったんだよ」
「そーいうこと。ってことで空が大人しくオレたちからの提案を呑んでくれると助かるんだけど」
「ま、断っても多数決で押し切るから諦めて」
「なんてことを!? おのれ民主主義! もっと少数派に優しくしてよ!」
彼女がなにを言おうとこれは俺たちの総意。集団の前のぼっちは無力と知るがいい。
それが分かっているのか、芹沢さんは「ぐぬーっ」と唸ってから、諦めたようにため息をついた。
「……分かりました! そこまで言うならありがたくその条件呑ませてもらいます!」
よし、これで無事に言質は取れた。
着々とバースデー計画が進んでいく。
(友達とこういう風になにかを計画するのって、楽しいなぁ)
俺が内心で喜びを噛み締めていると、芹沢さんが藤城君を見てにやりと笑う。
「まあ、そんなこと言っておいて、赤点取って旅行に来れない人もいるかもだけどね」
「そうならねえように今必死に勉強してるところだっつの。かつてないほど真面目にやってるわ」
「こんなギリギリになってやらなくてもいいように普段からやっとけばいいのにね」
「あーあーうっせうっせ」
言い忘れていたけど、1学期の期末で赤点を取ってしまうと、8月の頭から盆前くらいまで毎日補修が行われる決まりになっている。
その為、もし藤城君が赤点を取ってしまえば必然的に旅行には来ることが出来なくなってしまうのだ。
(藤城君はやる時はやる人だと思うし、実はあまり心配はしてないんだけどね)
って、なんで俺が上からものを言ってるんだ。
藤城君は俺なんかよりずっと凄いのに。
「じゃあ今日の勉強会はどこでやる? 優陽くんの部屋で大丈夫?」
「えっ」
聞かれて、思わず身体がぎくりと固まってしまう。
「どうしたの?」
「あー……いや、えっと……」
どうしよう。まだしばらく勉強会に参加出来そうにないそれっぽい理由を考えられてない。
ただ、もう気まずそうな反応はしてしまったので、変に誤魔化すと余計に下手を打つ。
(……うん。ここは1番大事な部分だけ隠して正直に話そう)
「あの、ごめんね。しばらく俺、勉強会にはまともに参加出来ないかもしれないんだ」
「え、そうなの?」
「うん。その……詳しくは話せないんだけど、ちょっと理由があってさ」
「……ふーん、そうなんだ。分かった」
ほっ。よかった、納得してくれたみたい。
俺が胸を撫で下ろしていると、「けど、なーんか」という芹沢さんの声。
「女の匂いがするような気がするんだよね」
「……っ!?」
「あ!? その反応図星でしょ!?」
「い、いや……! ちがっ……!」
鋭過ぎる! 今なにで悟られたの!? 残り香!?
確かにリリィさんに会いに行くわけだから、女性に会う用事と言っても過言じゃないんだけど、それにしたってえげつない嗅覚だ。
(というか、なんで浮気を問い詰められるみたいな状況になってるの!?)
俺には非ないと分かっているものの、こうなった芹沢さんは割とめんどくさいほどに拗ねる。
「私たちをほったらかして一体どこの女に会いにいくつもりなのさ!」
「ええっと……それは、その……」
助けを求める為に周囲を見回してみても、皆この状況を面白がっているのか、にやにやとした笑みが返ってくるばかりだ。
(どうにかしてこの場を切り抜けないと……!)
俺は脳みそをフル回転させ、
「た、確かに俺がやろうとしてることに女の人が絡んでるのは事実だけどさ……俺が今、1番考えてるのは(誕生日的な意味で)芹沢さんのことだから」
「……え」
真っ直ぐに目を見て伝えると、芹沢さんが固まる。
それから、目を泳がせて顔が徐々に赤くなっていく。
「だから、信じてほしいんだ」
「う……へ、へー……そ、そーなんだー。な、なら許してあげる」
「うん、ありがとう」
「わ、私ちょっと別のクラスの友達に用事あったの思い出した! ちょっと行ってくる!」
そう言い残し、芹沢さんが教室から出て行った。
どうにか乗り切ったらしい。危機は去った。
「……なんというか、優陽っていつか女子に刺されそう」
「え!? なんで!? どういうこと!?」
一部始終を見ていた和泉さんの感想に俺は目を見開く。
俺なりの誠意を伝えたつもりだったんだけど、どこかダメだったのかな?
もやもやしていると、ふと、藤城君がどこか切なそうな顔をして、芹沢さんが出ていった方の扉を見ていたような気がした。
でも、瞬きをする間には元の表情だったので、やっぱり気のせいだったのかもしれない。
怪訝に思いながら、藤城君を見ていると、彼もこっちを見てきて目が合ってしまう。
そして、藤城君はなぜか爽やかな笑みを浮かべた。
「お前基本的にはいい奴だけど、やっぱちょっとムカつくから1発殴らせろ」
「ええ!? なんで!?」
拳を握り締め迫ってくる藤城君に、俺は目を剥くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます