第104話 白髪美少女とチャラ男の遭遇
(うーん……)
放課後。
俺は相変わらず、1日通してずっと同じことで頭を悩ませ続けていた。
というのも誕生日会自体は旅行先でするって決まったけど、肝心なプレゼントについては白紙なままだからだ。
とは言え、皆と話したお陰で朝に比べたら色々と進展していて、考えることが減ったのでプレゼント選びに集中しやすくなったのは間違いないんだけど。
(……まあ、このあと服買いに行くんだし、その時に色々と見て周りながら考えた方がいいか)
元々、今日は出かけるようの夏服を買いに行くと決めていた。
なので、勉強会は不参加と皆には伝えてある。
「優陽くん」
鞄に荷物を詰め込んでいると、鞄を持った乃愛が近づいてきた。
「どうしたの?」
「私も今日は寄りたい所があるから、勉強会不参加。寄りたい所の方向が一緒だから、一緒に帰ろうと思って」
「そうなんだ。寄りたい所って?」
「ゲームショップ」
ああ、なるほど。
乃愛ってインドア派で基本的には出不精なんだけど、ゲームは通販よりも店に足を運んでパッケージを手に取って眺めたいタイプなんだっけ。
俺もそのタイプなので、つくづく乃愛とは気が合う。
昨今、デジタルダウンロード版も普及されていて、説明書すらも入っていないけど、やっぱり部屋の棚にパッケージを並べてそれを眺めるのは、俺たちのようなゲームを嗜む人間にとって、なににも代えがたい楽しみだと思う。
「オッケー、分かった。じゃあ一緒に行こっか」
ん、と乃愛が頷く。
それから、グループの皆や石浜君に挨拶をして、俺は乃愛と連れ立って教室を出た。
「……うーん」
「優陽くん、今日ずっと悩んでる。空ちゃんの誕生日のこと?」
「ああ、えっと……まあ、それもそうなんだけどさ。今は服のことで、ちょっと」
「服?」
「……ぶっちゃけ、1人でお洒落着を選んだことがないから自信がなくて」
今俺が持っているお洒落着は人に選んでもらったものしかない。
人と外で遊ぶ機会が増えてから多少は身なりに気を遣うようになったと言っても、そういったセンスのようなものはまだ磨かれてないので、陰キャぼっちオタクの感性のままだ。
(これで服買ってダサかったらなにをしに行ったのか分からないしね……)
藤城君に頼ろうか悩んだけど、今はテスト勉強でいっぱいいっぱいだろうし、集中させてあげたい。
それに、藤城君の好きな人と一緒に遊びに行く為の服を選んでほしいなんて口が避けても言えるわけがなかった。
まあ、服を買う度に誰かに手伝ってもらうわけにもいかないし、いい機会なのかもしれない。
「ちなみに乃愛っていつもお洒落だけど、服って自分で選んでるの?」
「ん、違う。お手伝いさんが選んでくれてる。服とかが好きな人だから」
「ああ、そうなんだ」
「ん。お店に行くのは怖い。光属性の陽キャ店員が使う対陰キャ特効『ナニカオサガシデスカ』の呪文をかけられるから」
「そうなんだよねぇ……」
向こうも仕事とか善意で声をかけてくれてるんだろうけど、ああいうのが苦手な人は少なからずいるわけで。
ただでさえ苦手な空間でデバフがかかっている時に、暗殺者ばりに背後からいつの間にか近づいてきて、声をかけられるのは陰キャにとって負けイベもいいところだ。
「……一緒に行ってあげたいところだけど、男の子の服はなおさらさっぱり分からない。私じゃ力不足」
「うう……俺も店員の目とか気にしなくていいゲームショップに行きたいよ」
話をしつつ、俺たちは駅周辺に辿り着いた。
ここからは乃愛とは別行動だ。
「じゃあ、また夜のゲーム会で」
「ん。今日はアクションの気分」
「オッケー」
その会話を最後に別れようとしていると、
「——あれー? 優陽じゃん」
どこが軽薄そうな声音に後ろから名前を呼ばれ、反射的にそっちに顔を向け、俺は「げっ」と顔を引き攣らせる。
そこには制服を着崩してきていて、髪型も女子ウケがよさそうな感じにセットされているチャラ男……もとい、涼太が立っていた。
涼太は頼むからこのままどっかに行ってほしいという俺の祈りとは裏腹に「奇遇ー! なにしてんのー?」と歩み寄ってくる。
そして、近くまで来てから俺の身体で隠れて見えなかった乃愛の存在に気付き、目を驚愕に見開いた。
「え……もしかして、彼女!? デート中!? マジで!?」
「ちげーよ友達だよ。いきなり来てなんだお前うるせえな」
「しかもこの間部屋にいなかったけど超可愛い子じゃん! お前いつからそんなプレイボーイになったんだよ!? 童貞だったお前はどこに行っちゃったんだよ!? なあ!?」
「目の前にいるだろ。16年間1度も外出せずにずっとご在宅だわ。というか人の話聞けよ」
相変わらずめんどくさい奴だ。
げんなりとしていると、乃愛が俺の袖を軽く引いてきた。
「……この人、知り合い?」
「いやちょっと記憶にない」
「ここまで普通に会話しといて!? そりゃねえだろ優陽! 親戚に向かって!」
「親戚……?」
「そ。優陽の同い年の従兄弟、有馬涼太でっす。よろしくね」
「白崎、乃愛。……よろしく」
あ。あんまりよろしくしたくなさそうだ。
まあ、乃愛ってこういうザ陽キャみたいなタイプって本来苦手だもんなぁ。
(あまりこの場に長居させない方がいいかも)
どうにか早めに切り上げようとしていると、乃愛が俺と涼太の間で視線を往復させ、「従兄弟。……なるほど」と呟いた。
「……乃愛。念の為に聞きたいんだけど、今のはなんのなるほど?」
「ん。優陽くんのファッション陰キャ感の正体がなんとなく分かった」
「……もしかして、こいつと顔が似てるとか、チャラさ加減が垣間見えてるってこと?」
「ん、そう」
「……なんたる、屈辱……!」
俺の人生でトップ5に入るかもしれない悪口に、俺は唇を噛み締めた。
「おいおいそんなに照れんなよ」
「照れてねえよ! そんな顔に見えんのか! もうなんなんだよお前! ってかここでなにしてんだよ!」
「や、暇だったからちょっと服でも見に行こうかなってな」
「……行動まで被るとかマジで最悪だ」
「お。なんだ、優陽も服見るのか。ならちょうどいいし一緒に行こうぜ」
「は? 絶対に嫌だ」
「えーなんでだよ。この間選んでやったのもいい感じだったろ? またいい感じの選んでやるからさー」
「確かにいい感じだったけど、この間のはお前がしつこかっただけで例外だ。お前に教えを乞うくらいならダサい服のまま街を練り歩く」
それが俺の覚悟だ。
「いやいやいや、それはねーだろ? 乃愛ちゃんもこいつがカッコよくなった方がいいっしょ?」
「ん。確かにその方がいいかもしれないけど」
「けど?」
「別にダサくてもカッコよくても優陽くんは優陽くん。変わらない」
乃愛の言葉に、涼太は一瞬きょとんとして、なにかを察したように「……なるほどねぇ」と漏らす。
なに1人で納得してんだこいつ。
「とにかく、俺は1人で行く。じゃあ、乃愛。改めてまたあとで」
「ん。……優陽くん」
「ん? なに?」
乃愛が手招きをしてくる。
もしかして顔を寄せろって言ってるのかな?
とりあえず、呼ばれた通りに顔を寄せると、乃愛が耳元で囁いてきた。
「……私も処女。16年間したことないから、ずっとご在宅。優陽くんと一緒」
「ぶふっ!?」
突然のカミングアウトに俺は盛大に吹き出してしまう。
「な、なに急に!?」
「アピール。勘違いされたら困るから」
「そんなことしなくても勘違いなんかしないよ!」
ああ、そうだった……乃愛ってこういうこと結構平気で言ってくる子だった。
初めて通話した時もおっぱいがどうの言ってたし……。
「とにかく女の子が気軽にそういうこと言うもんじゃありません!」
「そういうもの?」
「そういうもの!」
まったく、この子は……!
最近ちょっとずつ改善されてきたと思ってたけど、やっぱりまだまだ危なっかしい。
最後に軽めに説教をすることになってしまったけど、俺は乃愛と別れて、目的を果たす為に歩き始めたのだった。……勝手についてくる涼太を連れて。
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