第84話 美少女2人との帰り道で
「……痛い」
藤城君と和泉さんと別れた帰り道。
今日は芹沢さんが部屋にそのまま来るということで、乃愛と並んで3人で歩いていると、俺の腕に捕まるようにして歩いていた乃愛がぽそっと呟いた。
俺はそんな呟きに苦笑混じりに返す。
「普段からちゃんと運動してないからだよ」
「……引きこもりになんて無茶な要求を」
まあ、それが出来てたら苦労はしないよね。
それにしたって、その日の内に筋肉痛になるのはさすがに動かなさ過ぎだと思うけど。
「でも、乃愛ちって運動してないのにスタイルいいよね。ウエストとか足とかめっちゃ細いし」
「ん。筋肉がないだけ。あとはそんなに量とかお菓子を食べない」
「あーそういうタイプね、なるほど」
「ついでに食べても脂肪にならないタイプみたい」
「お。女子全員を敵に回す発言きたね。それ、絶対に他の女子の前で口にしない方がいいよ」
「ん。肝に銘じておく」
それから、2人は体型についての話を広げて、盛り上がり始めてしまう。
(……よく男子がいるのに体型の話で盛り上がれるもんだね、2人とも)
しかも、俺を挟んでのやり取りなので超絶気まずい。
女子の体型の話はデリケートだから、口は出さない方がいいっていうのは、ラノベやうちの母親からも口を酸っぱくして言われていたので、口を挟むような野暮はしない。
というか、口を挟める余地がない。
「……ところで優陽くんはどんな体型の女の子が好きなの?」
「ええ!? そっちから話振ってくるの!?」
せっかく黙ってたのに! とんだキラーパスが来たよ!
「ど、どんなって言われても……」
「そんなに難しく考えなくてもいいからさ。ほら、身長が小さいーとか、高めーとか、そういうやつだよ」
「えーそう言われてもなぁ……前にも言ったけど、現実でどんな子が好きとか細かく考えたことないんだよ」
そういう自分の好みみたいなのは、誰かと話をしている内にイメージが固まってきて、こういう人、が好きってなってくるんだと思う。
俺みたいなぼっちだった人間は妄想するしかなかったし、1人でこういう人が好きだなあなんて思いもしなかったので、具体例が出てこないわけだ。
「……うーん、やっぱり……外見についてはそんなに細かい好みはないのかも。不摂生過ぎるのが嫌だーってだけで」
そもそも、俺なんかが人を選り好みして選ぶなんて烏滸がましいにもほどがある。
「んー、そっかー……優陽くんはあれだね」
「あれ?」
「好きになった相手がタイプってタイプだ」
「あー……!」
言われてびっくりするぐらい納得してしまった。
確かに、そう言われればもうそうとしか考えられない。
「ま、単に独り者生活が長過ぎて、自分に好意を持ってくれてる相手を無条件に好きになっちゃう可能性もあるタイプでもあると思うけど」
「独り者て」
言い方。あとせっかくちょっと感動してたのに台無しだよ。
その可能性が大いにあるだけあって、まったく否定は出来ないけども。
「ん。私も多分そういうタイプかも」
「だろうね。……乃愛ちと優陽くんって趣味とか息がぴったり合い過ぎてるくらいだし」
芹沢さんが、どこか拗ねたような口調で言う。
……これはあれかな? 初めての友達として、そういう1番息が合うのが、自分以外なのが面白くない的なやつ?
怪訝に思って芹沢さんを観察していると、俺の視線に気が付いた芹沢さんが、慌てるように口を開く。
「そ、そう言えば! 運動不足で思い出したけど、乃愛ち、大丈夫なの?」
「ん。なにが?」
「だって、ほら。ほろぐらむからデビューするかもってことはさ」
「うん」
「ライブとかでダンスとかもしないといけないかもじゃん」
「……っ!?!?!?」
芹沢さんがその言葉を口走った瞬間、乃愛の無表情が崩れ、まるで背後に雷のエフェクトが走っているみたいな顔になった。
「あー……確かにそうなる可能性は全然あるよね」
「ね! いつもライブの動画とか見て、凄いけど大変そうだなーって思ってたんだよねー。でも、いつか行ってみたいんだよね、ライブ」
「あ、俺も最近2人に触発されてVtuberの動画とか漁ったりしてるから、興味ある!」
和気藹々とオタクトークに花を咲かせる横で、乃愛は珍しく顔を真っ青にしていた。
「か、考えてなかった……! ど、どうしよう……!」
「どうもなにも、今から少しずつ運動もしていくしかないんじゃない?」
そう言うと、乃愛は黙り込み、ひたすら葛藤し、やがて「……ん」と頷いた。
どうやらなにかしらの答えが出たらしい。
「……デビューは諦める」
「今のってそういう葛藤!?」
運動に対してなにか対策を考えていたわけじゃなくて諦めるか運動をするかで天秤にかけてたのこの子!?
「ちょっ、そんなことでビッグチャンスを棒に振っちゃダメだよ!? その為に脱引きこもりまでしたんでしょ!?」
「芹沢さんの言う通りだよ! こんなことで諦めないで!」
「止めないで。運動が出来ないのにダンスなんて出来るわけがない。私は無力」
「まだそうなるって決まったわけじゃないから! 俺も協力するから諦めるのは早いって!」
その後、俺と芹沢さんは2人がかりで、多大な労力を払い、どうにか乃愛を引き止めることに成功した。
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