第85話 美少女2人との帰り道で②
それからまた、筋肉痛の乃愛に合わせるようにゆっくりと歩を進めていると、ポケットの中から微かに通知音が聞こえてきた。
俺はスマホを取り出し、画面を確認して「げ」と顔を顰める。
「どうしたの? 謎の老人から遺産を贈るからとかいう謎のスパムでも来た?」
「今更そのくらいで驚かないよ」
なんならその日の内に謎の老人4人くらいから遺産を譲るというメールが来たことがあるしね。どんだけ遺産譲りたいんだ、見知らぬ老人。
「じゃなくて、母さんだよ」
「お母さん?」
「うん。前に涼太……あ、乃愛は分からないか。えっと、俺の従兄弟が勉強会してる時に勝手に俺の様子を見に部屋に来て、その時に皆と鉢合わせちゃったんだけど」
芹沢さんと乃愛が同時に頷く。
「母さんにもの凄い美男美女を部屋に連れ込んでてリア充野郎になってたって報告したらしくてさ。それから、なんか定期的に友達の写真送れって連絡が来るんだよね……」
「あはは、なるほど。そりゃ長いことぼっちやってた息子が部屋にそんな友達連れてきてたら親としては気になるよね」
「気持ちは分かるけど勘弁してほしいよ……息子としては本当にめんどくさいんだから」
そもそも写真なんて持ってないのにどう送れっていうんだ。
言ったけど、多分誤魔化そうとしてると思われてるし。
友達が出来たからって友達との写真なんて撮ると思うなよ母上よ。
長年のぼっちだった俺は、まず遊んでいる時に写真撮り出すという感性が存在していない。
陽キャってすぐに記念だなんだと写真を撮り出すイメージがあるけど、芹沢さんと遊ぶのは基本的に俺の部屋だし、部屋で遊んだ記念なんて意味が分からない。
映画を観に行った時も撮ろうとはならなかったし。
多分だけど、芹沢さんは自分が進んで写真を撮るタイプじゃなくて、周りが言い出したら合わせるタイプなんだと思う。
もしくは周りがそういうタイプなら周りに合わせて空気を読んで率先して『皆で写真撮ろうよ』と言い出す、人によって行動を変えられる器用なタイプ。
藤城君たちとはそもそも勉強会をしただけで、まだ遊んだことすらない。
そんなわけで、俺のスマホの画像フォルダには友達同士で撮ったきらきらと輝かしい青春の1ページじゃなくて、ソシャゲのアカウント引継ぎ用のパスワード画面のスクショとお気に入りの絵師さんのイラストで溢れているというわけだ。
「ん。実は私も優陽くんの顔が見てみたいって言われてる」
「え? そうなの?」
「ん。娘に出来た初めての友達で、引きこもってた娘を外に連れ出してくれた恩人がどんな人なのか知りたいって」
「恩人って、そんな大げさな」
それだけ聞くとなにか凄いことをやってのけたヒーローみたいな扱いだけど、俺自身はなにもしていない。
外に出ると決めたのは乃愛自身の意思で、俺はただ話を聞いただけなのだから。
あまりの過大評価についつい苦笑していると、芹沢さんが「んー」となにかを考えるような声を上げた。
どうしたの? と、問いかける前に芹沢さんが更に言葉を続ける。
「じゃあ撮っちゃえばいいんじゃない?」
「「え?」」
言葉の意味を理解する前に、芹沢さんが俺の腕に「えいっ」と抱きついてきた。
「ええ!? ちょっ!? なに!?」
「ほらほら、乃愛ちも」
俺の腕に抱きついたまま、乃愛に向かって手招きをしてから、器用に片手でカメラを起動したスマホを構える。
きょとんと小首を傾げた乃愛がフレーム内に収まった。
俺が付いていけてない間に、どんどんことが進んでいく。
え、え、と戸惑っていると芹沢さんが「はいちーず」と輝かんばかりの笑みを作り、シャッターが切られた。
「これでよし。じゃあ、送るね。……どう?」
「どうって言われても……」
送られてきた写真を確認すると、とにかく笑顔の可愛らしい美少女と、状況に追いつけてないせいでとにかく間の抜けた表情の陰キャと、無表情のままカメラを見上げる白髪の美少女が写っていた。
それを改めて、こうやって客観的に見た上で、あえて感想を口にするなら、
「……ハーレムラノベの主人公じゃん」
恐れ多くもそういう感想しか出てこなかった。
もしくはギャルゲーでよく見るタイプの主人公。
どちらにせよ、恐れ多い。
俺が感想を口にする横で、芹沢さんが満足気プラス得意気なむふーという笑みを浮かべた。
「これでご両親に送れる写真は用意出来たね」
「いやいやいや、こんな写真送れないから! 確実になんかいらない詮索されるから!」
「うん、まあ、だよね。知ってた。でも、写真ならこういう風にいつでも撮れるし、なんなら日曜に全員で撮ってそれ送ってあげたらいいんじゃない?」
「……そうだね」
いつまでも写真見せろって言われ続けるのもあれだし、興味本位が大きいんだろうけど、しばらく会えてない1人暮らししている息子がどんな様子なのか、心配してくれてるんだろうし。
写真の1枚くらい送って安心させてあげよう。
「ん。私はもう送った」
「……へ? え!? それ送っちゃったの!?」
「ん。気に入ったから壁紙にもした。……もしかして、ダメだった?」
「いや、前半は全然いいんだけど……」
このハーレムラノベ主人公風の写真が送られてきて、乃愛のご両親は一体どんな感想を抱くんだろう……。
もう送ってしまったものは仕方がないけれど、ただただ不安になってしまった俺だった。
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