第71話 そして、世界は闇に包まれた
「えっと……? どうしたの急に」
突然の質問に、俺はぱちりと瞬きをして、芹沢さんの方を向く。
「んー、なんとなく気になったから? で、そこのところどうなのさ」
「どうって……うーん……そりゃ、まあ、欲しいと思ったことがないって言ったら嘘になるよ」
ラブコメ読んでて、こういう青春がしてみたいと考えたイメージの中には、ヒロインだとか彼女という存在が必要不可欠だったし。
というか、リアルでも彼女がいる人のことを羨ましいと思ったことがあるし。
それは裏を返せば彼女が欲しいと思ったってことだ。
「でも、つい最近まで友達が出来なくてぼっち街道まっしぐらだった俺なんかには彼女なんて過ぎた望みだとも思ってたけど」
「……なら、友達が出来た今なら彼女も作れるんじゃない?」
「あはは、無理無理。友達を作るのでも難易度高かったのに、彼女なんてもっと気軽に出来るもんじゃないって」
「優陽くんならその気になればすぐに出来ると思うよ? 現に私も乃愛ちも、梨央も拓人だって君のことを高く買ってるでしょ?」
「それは皆が優しいからだよ」
「もー、君はいつになったら自分を卑下にしなくなるのさ。私をからっぽじゃなくて満たしていく手伝いをしてくれるんでしょ? だったら自信持ってくれないと」
「それは、まあ、そうなんだけどさ……」
長年に渡って染みついてきた自己肯定感の低さはちょっとやそっとじゃ薄れてくれない。
俺がなにかに付けて自信を持とうと行動する度に、きっと影のようにどこまでも付きまとってくるのだろう。
もちろん、このままじゃダメだって思ってもいるんだけど。
「とりあえず彼女は欲しいってことでいいんだよね?」
「え、この話まだ続けるの?」
「もちろん続けるよ! 要は彼女を作れるくらい自分に自信を付けようってことだよ」
「う、うん……」
それ、いつになるんだろう……。
あと、なんかやけに前のめり気味過ぎるのが気になるんだけど……まあ、自惚れじゃないなら、それくらい俺の為に真剣になってくれてるってことなのかな。
「優陽くんって好きなタイプとかあるの?」
「……どうだろう。ちゃんと考えたことなかったかも」
そういうのって、どんなキャラが好きか、とかそういう話じゃないんだもんね。
好きなキャラのタイプならパッと言えるのに、それが現実の好みのタイプの女の子ってなると、途端に答えるのが難しくなる気がする。
……俺が聞かれたことがないからってだけかもしれないけど。
「さあさあ! 考えて! そして答えて!」
「……やっぱりなんか前のめり過ぎない?」
「気のせい気のせい! 可愛い系? それとも美人系?」
絶対気のせいじゃない。
まあ、女子ってこういう話好きなイメージあるし、芹沢さんも例に漏れずにそうだってだけなのかも。
「うーん、どうなんだろう……多分、顔とかそういうのに拘りはないのかも」
「ふむふむ。それでそれで?」
「不衛生だったり、言い方は悪いけど不摂生が祟って体系が太まし過ぎたり、肌が荒れたりしてる人は、無理かな」
「あーいくらなんでも私もそれは無理かなー」
「あとは人の話を聞かないタイプも苦手だし、平然と人をバカにするような人も苦手だね」
「なるほどー。ってそれ嫌いなタイプじゃん! 聞いてるのは好きなタイプ!」
「あ、本当だ。うーん難しいなぁ……」
俺は再度考えて、口を開く。
「とりあえず、顔は気にしない、かな。なにかに対して真剣に打ち込んで、一生懸命になれて、同じ価値観で歩いてくれるような人がいいかも」
「……なるほどね。なんか、凄く優陽くんらしいね、それ」
芹沢さんが嬉しさと温かさを宿した微笑みを浮かべる。
なんだかもの凄く気恥ずかしい。
「……逆に芹沢さんは? どういう人が好みなの?」
「私? 私はねー」
俺だけ気恥ずかしさを覚えるのは不公平なので、聞き返すと、芹沢さんは俺を見て意味深にくすっと笑う。
「もの凄く優しくて、もの凄く真っ直ぐで自分をしっかりと待ってる人だよ」
「……? そ、そうなんだ?」
どうしてだろう。
今の発言にはなにかこう、遠回しな意図を感じたというか、まるで既にその理想のタイプの人を見つけていて、その人を思い浮かべながら言ったような感じがした。
あくまで自分がそう感じたというだけで、憶測に過ぎないけれど、どうしてか俺はそう感じた。
(もしかして、いるのかな? 好きな人が)
いや、もしそうなら、こうして俺の部屋に1人で遊びに来たりなんかしない、か。
うん。やっぱり考え過ぎだね。
「じゃあ今まで告白してきた人の中にそういう人はいなかったんだ?」
「いなかったね。というか、今だから言うけど、私も恋愛に関しては別に前向きな感じじゃなかったんだよね。ほら、うちって家庭環境がアレだったし」
……あ、そっか。それもそうだ。
確かに芹沢さんの育ってきた家庭環境的に、恋愛方面に対して前向きに考えられるわけがない。
俺が完全に無神経だった。
謝らないと——。
俺がそう思った瞬間、外が激しく光、爆音と言っても差し支えないほどの音が響き渡り、そして。
世界が闇に包まれた。
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