第69話 陽キャ美少女は彼パーカーにはしゃぐ
「……おお。大きい……!」
お風呂から上がり、優陽くんから借りた服を着た私は、そのダボ付き加減に驚いていた。
(そうだよね。優陽くんって華奢に見えるけど、私より身長も10cmは高いんだもん、当たり前だよね)
それに、身体付きも華奢に見えてガッチリしてるし、その分もあるのかな。
自分の姿をまじまじと見下ろしてから、鏡を見てみると、によによと笑って嬉しさが隠しきれていない自分と目が合った。
「……まさか付き合ってもないのに、彼シャツならぬ彼パーカーをすることになるなんてねぇ」
そこには嵐と神様に感謝しかない。
というか、ダボ付いた服を着てる私超可愛い。
これならいくら優陽くんと言えど、意識せざるを得ないのでは?
というか、しろ。
ドキドキしてほしいし、させたいし、照れてる優陽くんが見たい。
もっと可愛いって言ってほしい。
(そうだ。リビングに戻ったらとびきり可愛いポーズ決めてやろっと)
ラノベのヒロインが服を見せる時によく使うKみたいなポーズの使い時だ。
試しに鏡に向かってポーズを取ってみる。
……我ながら可愛過ぎる。よし、これならイケる!
ひとまずのプランを決めたところで、私は気合を入れるように胸の前で両手をグッと握ってから、鼻歌混じりにドライヤーで髪を乾かしていく。
ほんとは化粧水とか乳液とか使って肌の保湿なんかもしておきたいところだけど、さすがにそれは持ち合わせていないし、ここに置いたりもしていない。
(肌の手入れに関してはサボりたくないんだけど、こればかりは仕方ない)
髪を乾かし終えた私は、鏡を見て「よし」ともう1度気合を入れ直す。
勝負はここからなんだから。
そして、勇み足で私がリビングに戻ると、優陽くんがパソコンの前に座って、楽しそうに談笑しているところだった。
ヘッドホンをかけているので、さしもの地獄耳の優陽くんも、私がリビングに入ってきた物音には気付けなかったみたい。
誰と話してるか、なんて1発で分かる。乃愛ちだ。
その楽しそうに話している姿を見て、胸の中がもやっとしてしまう。
(……私って結構独占欲強いタイプだったんだなぁ)
梨央と接している時といい、今といい、その度にもやっとするんだから、きっとそうなんだ。
人を好きになったことがなかったから、分からなかった。
でも、まあ、楽しそうにしてる優陽くんを見るのは好きだし、文句なんて言えないよね。
それが私と話してる時だったらなおいいけど。
(とりあえず、乃愛ちには悪いけど、ここからは私に譲ってもらおうかな)
私は優陽くんの方に近づきながら、「ゆーうーひくんっ」と聞こえやすいように明るい声をかけた。
すると、優陽くんは振り返りながら、ヘッドホンを外す。
(う……ヘッドホンを首にかける仕草ってこんなにカッコよかったっけ……?)
私が思わぬ攻撃をくらって、内心動揺しながら続ける。
「ごめんね。長い時間待たせちゃって」
「あ、ああ、うん。全然大丈夫だよ」
平静を装っている優陽くんだけど、私を見て言葉が詰まったのと、目が泳いだのは見逃さない。
私はこの機を逃すまいと、からかうように笑みを浮かべる。
「ふふん。どうやら、ただでさえ可愛い私がお風呂上がりで自分の服を着ていることで、更に可愛く見えちゃって動揺しちゃったみたいだね」
「わ、分かってるなら気付かない振りしてよ!」
「それは無理な相談だね! ほらほらーいいんだよー? もっと見惚れてくれても」
私はその場でくるりと回り、Kのポーズをしてみせた。
「くっ……! あざといのにラノベで見たことのあるポーズを見ることが出来て、ちょっと嬉しい自分がいるのが悔しい……!」
やっぱりこういう反応になった。
分かるよ、オタクならそうなるよね。
「それはそうと、今話してるの乃愛ち?」
「ああ、うん」
優陽くんが頷きながら、ヘッドホンをパソコンから外す。
「もしもーし、乃愛ち。聞こえるー?」
『ん。聞こえる』
「ごめんね、2人の会話邪魔しちゃって」
『別に大丈夫。夜はいつもこの時間通話しながらゲームしてるから。少しぐらい問題ない』
お? マウントかな。羨ましい。
少し頰が引き攣りかけたけど、それを表に出すことはしない。
表情を隠したり、切り替えたりするのは得意だからね。
「この通話したあとに白峰のえるとしての配信してるんでしょ? 大変じゃない?」
『大変だと思ったことがない。ゲームしたり、配信したりは、好きなことだから』
「そっかー、そう言い切れる乃愛ちは凄いね」
『ん。ありがと。それに、時間ならいくらでもあるから』
……? どういう意味だろ?
そう言えば、乃愛ちって真夜中から朝にかけて配信したりが多いけど、学校とかどうしてるのかな?
「乃愛。俺ちょっと風呂に入ってくるから、芹沢さんと話しててくれる?」
『ん。分かった』
その返答を聞いた優陽くんは、足早に寝室から着替えを取ってきて、浴室の方へ向かっていく。
それを見届けた私は、パソコンに向き直った。
「ごめんね、暇潰しに付き合わせる形になっちゃって」
『ん。大丈夫。配信始まるまで時間あるから』
「そっか。……ねえ、乃愛ち」
『なに?』
「この際だから、乃愛ちのこともっと聞いてもいい? もっと乃愛ちのこと、知りたいから」
『……ん。いいよ』
「ありがと。それじゃあさ——」
こうして私は気になったことを聞き始め、乃愛ちが学校に通っていないことなどを含めた、パーソナルな情報を色々と聞かせてもらうことが出来たのだった。
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